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暴風。

「だぁ!めんどくさいよ!パパ!」

「ミオ!しっかり集中するです!」


「シリュがやればいいじゃないか!ビットも索敵できるだろ!」

そんな兄弟喧嘩が聞こえてくる中。


俺に向けて放たれるパイプを、ことごとく叩き落としていくミオ。

目の前に出現したパイプは、一瞬でリュイが黒炎で溶かしている。

俺も溶けないか、心配になるくらいの近い距離で発動しているのだが。


「シュン様の魔力を使っているので、シュン様には、影響は無しです」

などとあっさりと言われてしまった。


ふと見れば、俺の無数に展開していたビットのいくつかが、リュイの周りに囲われており。

その数個のビットが黒炎として飛んでいるのが見える。


さらには、俺の周りに展開しているビットが突然黒炎になったりしていた。

びっくりしてリュイを見ると、彼女は笑いながら。

「神人の力です」

と笑っている。

俺が操作している状態の魔力ビットを勝手に黒炎に変えるなど、そんな能力は、データベース上にも記録されていなかったので、多分、リュイが俺を守るために身に着けてくれた力なのだろう。


俺は、そんなリュイの笑顔に守られながら、自分のEPを確認する。

なんとかなりそうな事を確信すると、自分のステータスを上げる事に専念する。


「ダメです!」

突然、リュイが叫ぶ声が聞こえた。

ステータスを上げるために、完全に立ち止まっていたのがいけなかったのか。

背中と、脇腹に生まれた鉄パイプが俺に襲い掛かる。


そして。

俺の皮膚にはじかれて、鉄パイプが落ちた。


全員の顔が、何を見たのか分からないと訴えていた。

まぁ。その顔も分からなくはない。


今の一瞬で、俺のステータスは、体力が1万を超えた。

つまり、防御力が、城の外壁を超えて、地竜をも超えた事を意味していた。


多分、ミサイルの衝撃すら今の俺なら耐えれる自信はある。

EPを使わずにため込んでいた数値があったので、一気に使ったのだが。


「これで、完全に化け物を超えた化け物になってしまうな」

俺は小さく呟く。


最近、ステータスをあげるたびに、自分が自分でなくなる感覚を持っていた。

竜と言われ始めて。改めて、自分が人間をやめているという事実を感じていた。

そして、人間以外の、何かに変化してしまう恐怖を持っていた。

その恐怖が、なかなか俺自身のステータスを馬鹿みたいに上げれなくさせていたのだが。


今、俺の中にはただ一つ。

「自分の体を盾にしてでも、守ってやる」

家族を。アムを。ロアを。

その事しか頭に無かった。


俺に傷がつかなかった事に安心したのか。

リュイが、小さくため息をつくのが見えた。


しかし、俺の顔を見た瞬間。何かを感じたのか。

「シュン様は、シュン様です。たとえ、地竜様より、固くても。空竜様より早くても」

俺の心を読んだかのように、そんな事を言って笑ってくれるリュイに対して、嬉しくなりその頭を撫でてやる。


だが、その安堵もそう長く続かなかった。

俺を傷つける事は出来ないと思ったのか。



「ちょっと、無理だって!」

「この数は無理っ!」

そんな声が響き。


「ぐっ!」

一秒もせずに、鈍い声が聞こえた。

俺達がその声に慌てて目を向けると。


息子が。

ミオがパイプに、貫かれていた。

いや。

息子だけではなく。

ピンクの髪の少女まで一本のパイプが貫通している。


「シリュ!ミオ!」

リュイの悲鳴が聞こえる。


「くそっ!」

普段、悪態をつかないロア先輩まで、舌打ちと焦りの声を出す。


俺は。

混乱した頭で考える。


なんだよ。何なんだよ。


人を捨てたんだ。

何かを捨てたんだ。

なんで、おれの こども が、、、


ステータスを上げても、大切な人が守れなくては意味がないじゃないか。


俺が何をしても、誰も救えないじゃないか。


なら。


誰も救えないのなら。

大切な物が守れないなら。


何かが、俺の心臓を撫でた気がした。

ドロドロした、何か。


いや、ある意味心地よさすら感じる、何か。


その何かがささやく。




ナクナッテシマエ。



俺の中で、何かが爆発した気がした。



真っ暗になった世界の中。

その暗闇を切り裂いて、羽の生えた小さい何かが俺にぶつかる。


邪魔だな。

俺の隅で、俺以外の誰かが呟く。

しかし。

彼女がぶつかった瞬間。


「何をしてるですか!」

激しい怒りの声と。

まぶしいばかりの光りと。

七色の光りが俺を完全に貫く。

鉄パイプすらはじき返した俺の体を簡単に貫いた光は、俺の背中で何かの姿になる。


「ダメです!見失わないでください!あなたは、あなたです!」

その声は、とても懐かしいもので。


俺の目から涙があふれる。

その時、俺の中から声が聞こえる。

「シュン様の体は、シュン様一人じゃないの。いつでも乗ってくれていいの。いつでも頼ってくれていいの。そのための・・・なの」


ああ。

そうだ。


大事な物は。


常に傍にある。

だから。


守る。


俺の中にあった、ドロドロした物が弾け飛んだ気がした。

その瞬間。


目の前が明るくなり。


俺の周りには、無数の七色に光輝く羽が舞っていた。








ミオと、シリュがパイプに貫かれた瞬間。

私は子供達の名前を叫んでいたです。


その光景を見たシュン様はまるで時が止まったようにその場で動かなくなっていたのですが。


いきなり、シュン様が爆発したかのように、黒い羽がシュン様から生まれたのです。


黒い羽は、傍にいた私の腕にまとわりつき。

私の腕を一瞬で消滅させてしまったのです。


激しく噴き出る私の血すら吸い込んで、羽は私をすべて飲み込み消滅させようとしていたです。


しかし。

黒い羽は、シュン様自身まで取り込もうとしているように見えたのです。

私は、咄嗟に自分の体が消えるのも構わず。

シュン様に向かって飛んでいたです。


シュン様にたどり着いた時、多分体の半分以上が消えていたです。

でも、そんな事は関係ないです。


シュン様が消えてしまうよりは。

シュン様が、いなくなるよりは。


「何してるです!」

私が最後の力を振り絞って叫んだ時。

不思議な光が、周りを包みました。


七色の光り。

エルフの里にあった、世界樹の光り。

そして。

ミュアさんの声と、ミュレの声が聞こえた気がしたです。


光りが、爆発して。


私が次に目を開けた時。

私の体はどこも欠けて無く。


シュン様は泣いていたです。

眩しいばかりの光りの羽の中で。


穏やかな寝息を立てる二人の子供の前で。


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