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霧の攻防

「ロア。お呼びにより、まかり越しました」

今、ロアがアムの前に座っている。

いや、膝まずいている。


「ロア。来てもらったのは他でもない。冒険者の突然死。いや、暗殺についてだ」

その言葉に、ロアが息をひそめるのが分かった。


「恐れながら、原因は、まだまったくわかっておりません。ただ、何某かの力と、かなりの技術の暗殺者が関わっているものと思っております」


ロア先輩。老けたな。


ロアの敬語のような言葉を言いながら、頭を下げ続けるその姿に、俺は思わずそんな感想を持ってしまっていた。


「ロア。顔を上げていい」

アムの言葉に、顔を上げた時。

俺と目があったロアは、驚いた顔をしていたが、何かを思い出したのか、すぐに何か納得した顔に戻っていた。


まぁ。アムの横に、妃とか、姫じゃなくて、俺と、ミオがいるのがおかしな図ではあるのだが。

「ロア。お前にも知っていてもらいたい事がある。シュンに対して、思う所もあるだろう。だが、その独断による失態も、忘れないで欲しい」


その言葉に、再び下を向きそうになり、慌てて顔を上げるロア。


「水に流せ。そう言いたいが、こればかりは、本人たちが飲み込むしかない事だ。ロアなら、うまく整理をつけてくれると信じている」


そう言うと、アムは一息つく。


そして、王座に肘をつき、前かがみになった。

「ロア。君に聞いて欲しいのは、君に任せている、冒険者の暗殺事件にかかわることだ」

今度はロアが息をのむのが分かった。


「昨日。シュンの家族が襲われた。この城の中でだ」

ロアは、俺の方を見る。


「武器は、これだ」

そう言うと、ロアは一本の棒を投げる。

その武器を見た瞬間、ロアはさらに驚いていた。


「その武器は、見覚えがあると思う。真ん中に穴が開いていて、刺さったら最後。血を抜き取る矢だ」

アムは、じっとその武器を見つめる。


アムの。というか、もともとこの城にいた王族を殺したのは、この鉄パイプだ。

血の海。

そう表現するしかなかったあの部屋の惨状を思い出して、俺は顔をしかめていた。


「過去の王族は、この武器で、全て殺された。そう。全員が殺された」

アムが、珍しく言葉を選んでいる。


「君が、転生者なのは、知っている。そこのシュンも。そして」

自分を指さすアム。


その一言で、俺も、ロアも驚いていた。

「これは、君たちにだけ初めて言った僕の秘密だよ。そして、この鉄パイプなんて凶悪な武器を使っている人間は、一人しかない」


いたずらに成功したような顔をしていたアムだが、すぐに真顔に戻る。

「4Sの【空間の】」


アムの言葉に、震えるロア。


「ここ、城の中には、彼らの事については、記録が大量にあるとおもうけど。やっかいなのは、その記録が、嘘とか、誇張じゃなくて、本当だと言う事なんだよ」


ロアはまだ震えている。

「僕も信じれれなかったのだけどね。本来、冒険者を、民を守り続けてくれた4Sが、裏切るなんてね。でも、4Sという事になれば、冒険者が突然死する理由も、殺して回っている人間が見つからない理由も一瞬で理解できる」


アムは、転がした鉄パイプを見つめたままだ。

「空間を無視して、望む所へ望みの矢を打ち出せる【空間の目】 遠く離れた場所すら見えてしまう、【神の目】」


本人が4Sになったとき、自分のスキルを自己申告したらしい。

これも、城の書類に書かれている事なのだが。

しかし、知った所でどうにかできるスキルではない。


遠く離れた場所を【視る】事ができ、【視た】ところに、矢を打ち込める不条理なスキルコンボ。

「ただ、何故か、僕や、ロア、シュンは今までその対象になった事はなかった」

アムは、ふと俺を見る。


「シュンにいたっては、4Sと何度も戦っている。さらには、4Sともめた事もある。僕にいたっては、4Sに討伐命令すらだしている。なのに、一切彼らは僕の事を殺そうともしなかった」


アムは、ゆっくりと言葉を続ける。

「きっとね、【空間の】は僕らが【視え】なかったのかも知れない。しかし、昨日シュンが襲われた。その事が事実。つまり、今、僕らは彼に【見つかった】と言ってもいいのかも知れない」


アムはさらに大きくため息を吐く。

「それを踏まえてだ。僕は、君の失態をとがめるために、降格はさせた。しかし、君が王国の騎士の一人である事には、違いない。だから、君も僕の周りにいてくれないか?君のスキルが必要だ。【予知】と言う、先読みのスキルがね」


その言葉に、唖然とするロア。

「僕はね、耳がいいんだよ」

そう言って笑うロア。


まぁ、人が悪いのは違いない。

俺にふと聞いて来た質問で、矢が出現する事が先に分かる者がミオ以外にいないか尋ねられた時、思わず出たのがロアの事だったのだ。


「しかし、私は、陛下の傍にいれる人間ではありません」

ロアは、再び下を向いてその質問を断ろうとしていた。



次の瞬間。

勢いよく顔を上げると、武器を振るロア。

「来たっ!」

叫びながら、爪を振るうミオ。

二つの刃の光りは、甲高い音を立てて、二つの塊を地面に叩き落とす。


俺は、そのままロアを守ろうと、その傍に移動しようとしたとき。

「ダメです!アムさんから、離れて戦うです!」

瞬間、リュイの声が聞こえ。

俺は、咄嗟にアムから遠くへ飛んでいた。


俺が今までいた所へ何十本と言う鉄パイプがぶつかり合い、激しい音を立ててその全てが地面に落ちて行く。


そんな俺の傍に降り立つリュイ。


「調べものをしていたら、城のメイドさん達から、【空間の】と【皇の】は、【明星の】と三角関係だったと噂を聞いたです」

リュイは、俺の手を握る。

「だったら、【明星の】を殺したシュン様を真っ先に狙うのが、本当です」


恋愛話が好きそうな、メイド達なら喜んで話しそうな内容だ。

そう思ったのだが、聞き出した話を言っているリュイの手は汗ばんでいた。

ああ。そうか。

いつ来るか分からない攻撃は精神的に辛いものがある。

リュイは、どこかでおびえているのかも知れない。

誰かが。家族が傷つく事を。

そんなリュイの手を握り返したまま、俺はリュイに笑いかけながら、魔法を使う。


ずいぶん久しぶりの強化魔法だ。

魔法の発動と同時に、俺達二人は同時にその場から空中へと飛んでいた。

空中の足場に乗るのと同時に、甲高い音を立てて、ロアがアムに向かって飛んで来たパイプを叩き落とす。

正確には、俺を狙った攻撃の流れ弾だろう。


「ミューレが昨日何をしたのかが、分かれば何とかなるかもです。シリュが今、調べているです」

リュイの言葉と、幼い娘だけが、頼りだと知り。俺は気を引き締める。

「攻撃を俺に向けてくれれば、勝ちも見えて来る」


俺の言葉に。リュイは頷く。

「けど、シュン様一人じゃないです。相石は、離れないです」

リュイのその言葉に。俺は嬉しさのあまり、小さく笑っていた。


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