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生真面目な騎士

光りが舞う。

その言葉が一番正しいと思う。


視界一杯の光りが舞っている光景を見ながら、私は動けなくなっていた。


はっきりいって、シュンに対しては、もう仲間とは思っていない。

むしろ敵と思っている。


自分の部下を何百人と殺された。

あの時持っていた自分の部隊はほぼ壊滅と言ってもよかった。

彼の、シュンの黒い板は、容赦なく部下を切り刻んでくれたのだ。


あの時、あの坑道で殺しておけばよかったと何度も思った。


しかし、部下を大量に失ったあの事件は、そのまま国を揺るがす事件となったのだ。

私に出撃命令を下した貴族たちは、その首を落とされていた。

そう。

現国王、アムによって。


シュンが、国の半分の兵士を殺してしまった事に対して、アム国王は、にこやかに笑ったのだ。

「この落とし前はつけてくれるんだよね?」

と貴族たちに向かって。

妹を、奴隷としてシュンに差し出し。

そこまでしなければならない状況を作り上げてしまった、貴族たちに対してほんとうに、にこやかに、断罪を突き付けたのだ。


アム国王の、断罪は凄まじくこの国の貴族は、半分以下になってしまった。

貴族に恐れられると同時に、兵士達は、アム国王を信頼するようになった事件でもあった。

結局、アム国王は、その貴族たちが持っていた財産や、土地などは、生き残った兵士たちに配ってしまったのだ。


私も、かなりの土地をもらってしまい、今は食べるのに困る事すらなくなっている。

父親にいたっては、私の倍の土地をもらっていたりする。


それでも、懐が温まった今も、シュンに対しては、怒りしか覚えない。

一緒に笑い、一緒に走り。

ほぼ常に一緒にいた仲間たちである。

それが、ただの一言も言えずに切り刻まれたのだ。

しかし、今目の前に広がっているのは、そんな怒りなど吹き飛ぶような光景。


「【暴緑の】」

私は小さく呟く。


圧倒的回復量を誇る、その緑の光りの渦。

死んだ人間すら生き返るのではないかと思ってしまうその光の舞は、神の技のようにすら見えてしまう。


シュンの家族たちも、その光を目を輝かして見ている。


私もその風景を見ながら、茫然としていた。

そして。

私の中にあった、何かドロドロしたものが消えていくような気持ちになっていたのだった。





「やっぱりと言うか、なんと言ったらいいのか」

私は、アム国王の自室の隅で、控えて待っていた。

緑色の光りの舞いを見た次の日。アム国王に言われて、シュンの家族を、アム国王の自室に連れて来たのだが、退室しようとした時に、国王が、「サラも聞いていて欲しい」と言われたのだ。


アムの、何があったのかと、尋ねられた問いに、シュンの口から出たのは。

4Sの攻撃と言う一言。


私は膝をついているのに、足が震えているのを感じていた。

シュンに出合う前。

自分の部隊を持ち、いろいろな場所へ行った時に、何度か4Sと一緒に魔物退治をした事もあった。

【明星の】【空間の】二人は、化け物と言ってよかった。


光りを飛ばすだけで、全てを溶かし魔物を殲滅させてしまえる【明星の】

ゴブリンアーチャーの射程外からその頭を正確に射抜く【空間の】


たった二人で、あの時の大攻勢は一瞬で片付いてしまったのだ。

私たちが来た意味すら無かった。


その理不尽な強さに、私たちは何も考える事すらできなかったのだが。

その化け物が相手だと、あっさりとシュンは言ったのだ。



「その攻撃から、自分の身を守る事は出来ると思うかい?」

アム国王の諦めすら感じられる言葉に、シュンは小さく首を振る。


「無理だと思うの。パパの結界の内側に矢が出て来たり、目の前に突然矢があったりしたの。普通の人なら何も出来ないの」

青い髪の、少女がはきはきと答える。


シュンの子供のミリと言ったか。

可愛い顔と、獣人特有の猫耳を持ってはいるのだが、まだ5.6歳に見えるのにしっかりしている子供だった。

「おじさんでも、多分見切れないよ。パパの殺気に気が付かかったみたいだし」

双子の男の子は、アム国王をおじさんと呼ぶ。


アム国王の妹、ミュレの子供なのだから、あってはいるのだがやはり私としては違和感を覚えてしまう。

それよりも、殺気?シュンが?


「本当にちょっと、ちょっとのちょっとのちょっとくらいだったけど、すごい殺気だったよ」

男の子はそう言う。


よく見たら、その男の子だけ、凄まじいほどの汗をかいていた。

「でも、矢が飛んで来た時は、これよりもちょっとの殺気しか、感じれなかったから、おじさんじゃ、ダメだよ」

少し震えながらもしっかりと答える男の子。


その頭を撫でてやるシュン。

その姿を見て、何か言いたそうな、ミリ。


アム国王は大きなため息を一つつくと。

「分かった。ミオの特殊能力が無いと、感知は難しい。そう言う事なら、ただ一つしかないね」

国王は、小さく笑うと。


「シュンたちを、僕の自室の隣に移動させてもらっていいかな。サラ。一応、僕の近衛兵の隊長として、意見を聞きたい」


真剣な目で私を見て来る。

シュンが殺気を出した事も分からなかった事に、すこし落ち込みながら私は言葉を選ぶ。


「確かに、ミオ様の能力が、4sの攻撃を感知できる唯一の手段であるのなら、とにかく国王の傍にいて頂く事が、国王の身をお守りする手段として、最適かと思われます」


その言葉に。

笑顔を浮かべるアム国王。


私は、部屋の隅で小さくなるばかりだったのだが。

「大丈夫です。シュン様は、全てを受け入れているのです。殺した人も。殺した命も。守れなかった命すら。抱えているです」


ピンクの髪の女性が、そんな私に笑いかけてくれていた。

「お父さんは、最強だもの」

そんな少女に良く似た、ピンクの小さな少女も笑う。


私が思わず顔を上げると。

女性は、いや、シュンの奥さんはにこやかに笑っていた。

「潰れそうなのに、すぐ抱え込むです。弱い人なのです」


私が持っていた、ドロドロした気持ち。

その気持ちが、今分った気がしていた。


シュンの家族。シュンの周りにいる人たち。

羨ましかったのだ。

彼を支えてくれる人の存在が。


私は何故か泣きながら、その女性の言葉に小さく頷く事しか出来なかったのだった。


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