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立ち込める雷雲

「で、何の用なのかな?」

初老。そういってもいい男は、一人の青年と向き合っていた。

「またやって欲しい事があってな」

学生服を着た青年は、無表情で何かの欠片を差し出す。


「それは、誰の欠片なんだい?」

初老の男の問いに、笑う青年。

「真昼の星といった所かな」

その言葉に、初老の男は小さくため息を吐く。


「好きな人を生き返られらせる事は出来ない。それは、私が身を持って知っている。あのおかしな奴らは例外中の例外だろうからね」

「生き返らせたいわけじゃない。俺が欲しいのは、その中にある物だ」


その言葉に、青年を見つめる初老の男。

「本気なのかい?それは、多分、神に牙をむく行為かも知れないよ」

「それが出来るように、力を貯めて来た。神を壊して、俺は俺の願いをかなえる」


その真剣な顔にもう一度大きなため息を吐く初老の男。


「私も欲しかった力だ。しかし、成功した事は無い。それでもやるのかい?」

「成功したのだろう?一回は」

青年の挑発的な言葉に、怪しげな笑みで答える初老の男。


「失敗すれは、君は死ぬかもしれないよ」

「もう何度も死んでいる。今更だ」


二人はしばらく見つめ合い。

仕方が無いという風に初老は、その欠片を受け取る。

前世では見る事など無かったもの。

しかし、この世界では見慣れてしまった物。

血を送り出すその臓器を見る。

「やるよ」

「ああ。頼む」

初老の男は、左手に心臓を持ち。

右手を青年に向ける。


二つの組織を一つにし。

二つの別の命を一つにする。

【融合】

その力が発動する。

反発する力は、【遺伝子結合】にてむりやり抑え込む。


今までなら、ここで破綻し、粉々になっていた。

それほど、スキルを、しかも神が授けた特殊スキルを継承するのは無理があるのだ。

しかし、彼には、今までにない加護があった。

【臥薪嘗胆】今までの経験。今まで殺してきた命。

家族の、子供の命。同僚の、魔物の命。その全ての悪夢のような経験が一つの結果として実を結んでいく。


左手の心臓がゆっくりと消えて行き、青年と同化していく。

その瞬間。

彼の胸が大量の血とともに弾け飛ぶ。

しかし。

まるで逆再生でもするかのように、その傷が。血が彼に戻って行く。

その合間に、心臓が本来無いはずの場所に、作られていく。


とくん。

新しい心臓が動きだす。

その鼓動を確認した瞬間。胸は完全に再生し。閉じられていた。


「さすがだ。悪魔の申し子。いや、もう悪魔そのものだと言ってもいいな」

青年が笑うと。

初老の男は目を伏せる。

「さすがと言うべきは、君だろう。それでも、誰かを生き返らせる事は出来ない。この世界は、ファンタジーのくせに、どこまでも残酷だよ」

「ならば、全てを壊して作り変えればいい。ファンタジーなら、ファンタジーらしい世界にすればいいだけだ」

青年は小さく笑い、手のひらを上に向ける。

その手には、小さな光が浮かぶ。

「ここでは、使わないで欲しいな。彼のような、化け物の回復術士がいるわけじゃないんだ」

初老の男の声に、笑いながら光を握りつぶす学生服の青年。


「あんたも、長生きするな」

「悪魔だからね」

ふっと青年は笑う。


「無理を聞いてもらってすまなかった。だが、もう一つ、無理を聞いて欲しい」

そう言うと、丸い球を見せる。

「これを使えるようにして欲しい。俺の考えだと、これと合わせると、使えるはずだ」


「これは、【遠目】が使える、蜂の魔物の目だろう?こっちは、、、まさか」

「そのまさかだ。これを合わせれば、目だけで生きれる魔物が生まれる可能性がある。お願いできないか?報酬は。これだ」


さらに、一つ。

小さな小さな指のような欠片。

「【吸収】が使える、アシダカの欠片」

「あいつの強さの源は、これにある。といっても、力の100分の1しか吸収できないが。あんたなら、欲しいだろう?」


「流石。と言うべきなのかな。【皇の】」


スキルを死体から切り取る。

そんな事は普通出来ない。

しかし、彼なら出来る。

それが、【皇の】と呼ばれる所以。



「悪魔は、悪魔と契約するのが普通だ」

青年の言葉は、初老の男の胸を揺さぶる。


「誰も、死なせたくないなら、お前も強くなれ。この世界は、奪っていくだけだ。思い出を、愛を、住処を、守りたい者を」


青年の目は鋭い。

「だから、こそ」

「悪魔となっても、あがいて来た」

初老の男。いや。ドンキは、小さく呟く。


「やろう」

ドンキの声は、低く、濁っているようにも聞こえるのだった。






王都。

「クゥ」

城の中庭に着地したワイバーンは、小さく喉を鳴らす。

その横にさらに巨大な黒竜が着地しようとして、小さな二つの影が飛び降りる。

「とーちゃーくっ」

「危ないから、飛び降りるのは禁止なのっ!」

「えーミリも飛び降りたじゃん」

「でも、だーめ!なのっ!」

怒る青い髪の双子の女の子の腕には小さい黒竜が抱きしめられている。


「喧嘩はダメなのです」

背の高い少女が舞い降り、二人を叱ると二人ともしゅんとしていた。


「元気なのはいいんだけどな」

俺はそう言いながら、ワイバーンから降りる。

「父ちゃん。だっこ」

ワイバーンの上から、ピンクの少女が俺を見る。

俺は、笑いながらシリュを抱き寄せる。


ゆっくりワイバーンが休憩の体制に入った頃。

大量の兵士が中庭に押しかけていた。

「遅いな」

俺が呟いた声を聞いていたのか。

「そんな物で来るなら、きちんと先に連絡しておいて欲しいものなのだが。シュン殿」


明らかな怒りの声が聞こえて来る。

銀色の鎧に身を包んだ女性は、見知った顔だった。

「サラ」

俺が声をかけると。

「なれなれしくしないでもらいたい。勘違いされる」

それだけ言うと、サラが頭を下げる。

その動きに合わせるように、中庭にいた全員の兵士が一斉に頭を下げた。

「ご帰還、お待ち申しておりました。シュン様、ミリ様、ミオ様」

「リュイ様、シリュ様も、ご健勝なによりです」

え?え?といった顔をしている子供達。

ああ。そういえば。

前に来た時は、そのままアムの部屋に行っていたし、あまり正式な挨拶や歓迎を受けた覚えがなかった。

俺がそう思っていると。

「アム王がお待ちです。こちらに来てください」

サラは、そう言うと頭を上げる。

俺は、そんなサラの腰に刺さっている剣に目がとまってしまう。

かなりの業物だ。


「シュン様!」

俺達一家がサラに着いて歩いていると、かわいらしい声が聞こえて来た。

足を止めると、笑顔を浮かべながら小さい歩幅で駆け寄って来る、金髪の女性。


「ライナ」

俺が小さく呟くと。何故か、リュイにこっそりと腕をつねられた。

「来てたのね」

その後で、複雑な笑みを浮かべながら歩いてくる銀髪の女性。

「レイア」

さらに、リュイのつねる力が強くなる。


「ほんとうに久しぶりだね。戻って来ていたのかい?」

その二人の後で、先輩が顔を見せる。


アムの個室の方から歩いて来たように思えるのだが。

俺がそんな事を思っていると。

「前の街道沿いの件では、本当にお世話になった。まだまだ、ひと段落はついていないのだけど、僕も、いろいろと急がしてね」

そう言って笑うロアの顔には、どこか疲れと。なんとも言えない表情が浮かんでいた。


「君も、いろいろ忙しいようだから、また今度、ゆっくりと話でもしよう」

ロアはそう言うと、ゆっくりと立ち去って行く。



「ロア様」

ライナは、ロアの腕をしっかりとつかんでいた。

その理由は。

「ダメだね。あの時、一緒に戦って気持ちの整理はついたと思っていたのだけど、彼を前にしたら、どうしても、ダメだ」

自分の部下を。戦友をあっさりと殺されたその思いはなかなか消えない。

しかも、最近は忙しくなってしまい。


最近は、冒険者の代表からも、降ろされてしまった。

その全てが、彼のせいだと思ってしまうのだ。


違うと分かっているのに。気持ちはついて来ない。

「本当に僕はダメだね」


自分が暴走しないように、そっと手を引いてくれた自分の妻の手を握り返しながら、ロアは呟く。

「大丈夫です。ロア様はお強いですから」

ライナは、ロアに笑いかける。

「さぁ。ロア様、まだまだ、やる事は一杯あるから、かんばろう」

レイアが、反対の腕をとり、笑ってくれる。


ロアは笑みを浮かべながら、足取り確かに城を後にするのだった。


両腕を絡めながら歩く3人を見ていると、本当にあの3人は仲が良いようだ。

そんな事を思いながら、俺達は再び歩き始める。

気が付くと、リュイが俺の手を握りしめていた。

俺が見ると、すこしはにかみながら笑うリュイ。

そんな俺に少し照れながら、俺達は王の間へと向かうのだった。


歩きながら、子供たちがそわそわしているのを感じていた。

自分がどんな立場なのか、分からず少し緊張しているらしい。

そんな子供達に気が付いたのか。

「お父さんは、王様の義理の弟にあたるの。ミュレ母さんが、王女さまだったのよ」

リュイが子供達に俺と、ミュレの事を伝えているのが聞こえる。

そういえば、俺達の事を子供にまったく教えていなかった。

そう思っていると。

「すごい。お父さんて、人間の王様と、竜の王様やってるの?」

「獣人の王様の友達でもあるってミュレお母さんから聞いたことあるの」

子供達がはしゃぎだす。

しかしシリュだけは、俺をじっと見ていた。

 お父さんて、ナニモノ?

そんな目で。


10・31 ロアと出会う場面を追記しました。

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