黒雲
「まだ、分からないのか!」
怒りを含んだ声で、机を叩く青年。いや、壮年と言うべきか。
「はい。また一人、打ち抜かれていました。私の回復魔法も手遅れでした」
そんな旦那をなだめるように、その手にそっと手を添える眼帯をした、金髪の女性。
「全く気配もなく、【予知】でも分からないんじゃ、手のつけようが無いよ」
白銀の髪の女性も、深くため息を吐く。
「せっかく、ここまで成長して来た、僕のギルドが、このままでは内部分裂してしてしまう」
壮年の男性は、大きく肩を落とす。
「とっと、元気出して。ね」
その、裾を小さくつまむ、金髪の少女。
「とっとなら、大丈夫!げんき~!げんき~!」
そう言って笑う、真っ赤な髪の少女。
男性は。
「そうだな。元気!元気!」
二人の肩に手を置き、無理やり笑う。男性。
子供の無邪気な笑顔に自然と元気が出て来ていたのだが。
「隊長!ロア隊長!」
突然、部屋の扉が開いた。
「ここは、家族の部屋よ!」
入って来た男性を叱る、銀髪の女性。
「申し訳ありません。レイア様。しかし、、、」
「構わん。続けてくれ」
ロアの言葉に、入って来た男性は、息を整えると。
「また、一人、やられました。パーティ名 陽光の目覚め の魔法使い、ガルディです」
その言葉に、顔を見合わせた3人は、部屋を飛び出していた。
「行ってらっしゃーい!」
可愛い声が、そんな3人を送り出していた。
急いできたロア達が見たのは、首元に矢が刺さった男の冒険者だった。
「またやられたらしい」
「これで、5人目だぞ」
「ロアの傘下にいる奴らばかりだろう?」
「ギルドとか言って、威張ってやがるから、敵でも作ったんじゃないのか?」
遠巻きに、他の冒険者たちがひそひそと噂話をしていた。
「見世物じゃないよ!散って!」
レイアの声に、その場を離れていく冒険者たち。
男性の横では、茫然としている3人の冒険者がいた。
(陽光の目覚め)のパーティメンバーだと思われた。
「何があった?」
ロアが尋ねると。
全員が首を振る。
「分からない。いつも通り、狩りに出ようとして、準備してて。ここに集まって。出発しようとしたら、矢があいつに刺さってたんだ」
恐怖が襲ってきたのか、震えながら返事をする戦士。
「いや、いや」
座り込む、女性の冒険者。
「なんなんだよ」
歯を食いしばり、震える手を抑えられないローグ風の簡易装備の青年。
ソロばかりで活動していた冒険者に、パーティを組むようにすすめ、パーティの斡旋所まで作り。
今や、王都の冒険者は、4人から、6人パーティで狩りや依頼に行く事が増えていた。
依頼料は増えてしまっているのだが、確実に荷物が届けられたりする事で依頼者からは、喜ばれている。
さらには、最近では、魔骨製品と呼ばれる、魔物の骨に魔力を通した魔法武具も出て来ていた。
その作成のために、魔物の骨や、革も貴重品となり、狩りの依頼も肉や、皮から変わり多様化していた。
その結果。
この辺りの魔物に散々殺されていた冒険者たちなのだが、今は、死者が一気に減っていた。
パーティであれば、生き残れる確率は格段に上がり。
無茶さえしなければ、死ぬ事はなくなった。
今や、昔のDランク冒険者が、初心者と呼ばれるくらい冒険者の力の底上げが出来ていた。
その功績は、二人によるものが大きい。
今、死体を前に、怒りに震えているロアと、冒険者に良質の武器、防具、魔骨製品を売ったり、譲ったりしている、鍛冶士のヒウマの二人だった。
冒険者は、強くなった。
なのに。
「恨まれる覚えは?」
「あるわけないだろ!あるなら、あんただろう!」
戦士の男が叫び。
ローグ風の青年に抑えられる。
「ロアさんのおかげで俺達は強くなれたんだろ!?どれだけ世話になったと思ってるんだ!」
「そうよ。私なんて、一人じゃ何も出来ないんだから」
女性も、戦士の言葉を非難する。
「分かってるよ。そんなこたぁ。でもよ。これは、あんまりじゃないかよ」
座り込み。
泣き出す戦士。
ロアは、唇をかみしめる。
今までの冒険者ギルドをほぼ乗っ取る形になってしまい、自分が実質ギルドマスターになってしまった。
昔のギルドマスターは、笑いながら、「やっと引退できるぜ。孫と遊ぶ時間も出来るといいんだがな」
と言っていたのだが、その周りの人間からは、相当恨まれている自覚はある。
いろいろと絡んでいた利権をすべてかっさらった自覚はあるのだ。
「だからと言って、無差別に冒険者を暗殺とか、ありえない事です」
ロアは、倒れている青年の矢を抜く。
矢は普通に売られている平凡な物だった。
無くなった男性に、ロアが祈りをささげていると。
「誰か来てくれぇ!!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
突然叫び声が聞こえる。
「行きます!」
その声にすぐ走り出す、眼帯、金髪の女性。
「ライナ!急ぐぞ!」
ロアもすぐに走り出す。
「絶対、犯人は捕まえるから。絶対に」
銀髪の女性は、パーティメンバーにそれだけ言うと、あとを追って走り出す。
意味不明な暗殺は、狂気を含み始まったばかりだった。




