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穏やかな空

「王都へ来て欲しい?」

膝の上で甘えている黒い竜をあやしながら、俺は呆気にとられていた。


【明星の】との戦いから数週間後。

突然犬鳥に乗って、俺の館に飛び込んで来たファイは、肩で息をしていた。

「そうだ!アム国王の勅命で、今すぐ来て欲しいと言う、直筆招集状付きと来た。こんなのが来た事なんか、親父が領主になってからも、いや、なる前からも、始めての事だ!」


かなり急いて来たのか。

息を切らしながらも、一気に報告して来るファイ。

「ナァ」

ミュレの黒竜。ミュレと呼ぶのは、子供二人も抵抗があったらしく、今は、ミュールと名前を付けられている黒竜が、嬉しそうに小さく喉を鳴らす。


この黒竜は、ミュレと、ミリエルが同化した姿と言う事なのだが。


キンカの領主である、ドンキが言うには、

ミュレの神獣化のスキルと、ミリエルの、竜人としての力が一つになったという事なのだが。


何がどうして、そんな事が出来たのかは全く分からない。


ドンキが言っていた事では、スキルの暴走。

と言っていたのだが、何かを隠しているようでもあった。


「ドンキ様は、何と言われているのです?」

奥から、背が伸びて、170cm近くになったピンクの髪の少女が出て来てファイを見ていた。

背が伸びるのと一緒に、体つきもドワーフ特融のずんぐりむっくりした姿から、いわば、幼児体型から、しなやかな、女性の体に変化していた。

胸は、はっきりいって大きい。


しかし、そんな事よりも、彼女の魅力は、透き通るようなエネラルドグリーンの目だと思う。

その目は、見る人の目を吸い寄せるほど綺麗だ。

俺がそう思っているだけかもしれないのだが。


「親父も、すぐに、行って欲しいとの事だ。かなり急いているみたいだったから」

少し頬をあからめてリュイを見るファイ。


リュイもミリエルと同化したらしく、何がどうなったのか、【神人】となってしまい、彼女一人しかいない種族になってしまっている。

(全ての種族を内包する者)

という意味らしいのだが、これも意味が分からない。


「リュイ君に関しては、僕もお手上げだよ。何がなんだか」

とドンキも両手を上げるくらいの奇跡らしい。


ただ、俺は、彼女の中にあるスキルを知っている。


【絶対幸運】

絶対不幸を持つ者の祈りと、誓いと愛情が全てを変える力となった物。

スキル保持者自身ではなく、本当に大切な人を、本当に大切にしてくれる人に渡した時、形となった。

 事象も、常識も捻じ曲げ、望む未来を作り上げるスキル。



そのスキルを見た時、俺は笑っていた。

ミュアは、まだ俺のそばにいてくれていた。

リュイを、ミュレを、支えてくれていたのだ。


彼女を助けて上げれなかった俺を、まだ助けてくれている。

そう思って泣いたのだが。


リュイは、穏やかに

「誰一人、あなたの傍から離れる事はないのです。あなたと一緒に過ごしたいと思ったのですから」

そう言って、抱きしめてくれた。




「で!行ってくれるんですか?!」

ファイの大声で、俺は考え事をしている最中から復活する。


「え、おじさまに会えるの?」

「あー。アムおじさんにも会えるかなぁ」

「お城、また行きたい」


俺達の声を聞いたのか、小さい子供達がリュイの後について来ていた。


俺は、そんな子供達の声を聞いて小さく笑う。

「じゃぁ、行こうか」

俺がそう呟くと。大喜びする子供達。


「では、私は、ここでお屋敷をお守りいたします。ご武運を」

パリッとした、スーツのような服を着こんだ、男性が頭を下げる。


もともと世話好きだったのと、竜の王のそばにいただけあって、礼儀や作法も完璧だった、教育係は、いつの間にやら、この屋敷のメイドやら、お手伝いさんをすべて教育しなおし、この屋敷のバトラーになってしまった。


ギャルソンは、竜人でありながらもうこの屋敷の筆頭執事だった。


「ああ。行って来る」

そう言って笑うと。


「子供達の世話をしながら、お待ちしております」

そう返事をするギャルソン。


メイド達が少し震えてるのは、気のせいだと思いたい。


そういえばギャルソンが来てから、ドンキもあまりこの屋敷に立ち寄らなくなった気がする。

そんな事を思いながら、俺は、屋敷の裏庭から、ワイバーンに乗り飛び立つ。


そう。俺を乗せてくれていたワイバーンは、そのまま俺の家の子になっていた。

ギャルソンはひどく可愛がってくれているようで、羽ばたきの力強さも、ウロコの光り具合も申し分なかった。


まぁ。この世界最強の魔物と言われる竜が、この家にいると聞いただけで、ダライアスの馬鹿どもが散々怒鳴りに来たみたいだが、その辺はすべてドンキに丸投げしていた。


子供達は、大きくなったミュールに乗る。

リュイは、そのまま、俺の横を自力で飛んでいた。

ワイバーンに乗ってもいいのだが、二人乗ると、この子はすぐにバテてしまうので仕方がなかった。


「行っくぞー!」

元気に叫ぶミオ。

「ナァ!」

元気にミュールも鳴き、俺達は王都へ飛び立つのだった。




「行ったか」

ドンキは、飛んで行く竜たちの姿を見ながら大きくため息をつく。


ここまで、シュンがとんでもない成長をするとは思っていなかった。

凄まじい面倒を抱え込んでしまった。

しかし、それすら今は楽しく思えてしまう。


「竜を従え、竜の長にまでなるとはね」

笑ってしまう。

彼は、どこまで強くなるのか。

「けど、僕も知ってしまったからね。この世界の法則の曲げ方を」

ドンキは小さく自分の手を見て笑う。


「僕も、やってはいけない事をしてしまったからね。もう後には引けないんだよ」

ドンキは、口の端を上げ。小さく笑うのだった。







「は?」

「ですから、シュン様、リュイ様は、王国へと発たれました」

タチュは、呆気にとられ、持って来た陶器の玩具を落としてしまっていた。


「いや、何も聞いておらんが」

「緊急との事で。急いで出られましたので」


黒髪の執事に、丁寧に返事をされ、孫に会いに来たタチュは茫然とするのだった。



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