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切れない絆

「パパなのっ!傷が治ってないからダメなのっ!」


「えー。ちょっとくらいいいじゃない。シリュも、あとでやればいいじゃない」

「ダメなのっ!絶対ダメなのっ!お母さんに見つかったら、私たち死ぬのっ!」


そんな騒ぎ声に、引っ張られるように俺は意識を取り戻す。

そして、俺が目を覚ました先で見たのは、青い髪の少女が俺の上に乗っていて、それを引きずり降ろそうとしているピンクの髪の少女の姿だった。


「あ。パパの目が覚めたのっ」

ピンクの少女が嬉しそうに笑う。


「えー。もうちょっとで、キセイジジツが作れたのにぃ」

怖い事を言う、青い髪の少女。


その一言で、俺は何となく状況を把握してしまった。

「とりあえず、何をしようとしてたのかは、聞かない事にしてやる。降りてくれないかな。ミリ」

青い髪の少女を撫でてやる。

「ミリ、ずるいのっ。パパの怪我を治したのは、シリュなのっ!」


ピンクの髪の少女が叫ぶ。

俺が、その頭も撫でてやると。

すごくうれしそうな顔をする。


子供達の声を聞いたのか。


「シュン様。おはようございますです」

何か、たどたどしい言葉で話しかけて来るリュイ。


「ああ。おはよう。リュイ」

俺は、彼女を見ながら返事をする。

その瞬間。


「おはようじゃないです!何でいつも、いつも、いつも、いつも、無茶ばかりするですか!何回、私を泣かせたら気が済むのですか!あなたは!」


怒られてしまった。

あまりの剣幕に、きょとんとしてしまうシリュとミリ。


しかし、怒りながらもリュイは、俺の顔を両手で抱きしめると。

そのまま、泣き出してしまった。


俺は、そんなリュイの頭を撫でる。

ひたすら泣くリュイ。


俺は、そんなリュイを抱きしめていたのだが。

とんでもなく、大事な事を思い出してしまう。


「え、というか、リュイ? 死んだはずじゃ?」

記憶が混乱する。


あの光景は、嘘だったのかと、夢だったのかと思えてしまう。

しかし、俺の中に。

口の中に。

記憶の中にミュレがいる。


あれは、夢ではない。

リュイは、涙でぐしゃぐしゃの顔で、俺を見つめる。

「リュイは、シュン様と一緒の相石です。シュン様がいる限り、私もそばにいます」


ひどく年齢を感じるような、全てを見て来た顔。絶対に、リュイが今までしなかった表情。 しかし、見た事のある顔。

「ミリエル?」

俺が呟くと。


リュイは小さく頷く。

「ミリエルさんと、ミュアさんの力で助かったです」

リュイが小さく笑う。


背中に、竜人が持つ羽を確認する。

リュイの緑っぽい瞳が、透き通ったエメラルドグリーンに変わっていた。


俺が、茫然とリュイを見ていると。

リュイは笑いながら。しかしどこかおびえながら聞いて来る。

「リュイは、シュン様のそばにいていいですか?」


「当たり前だ」

その言葉に即答する。

リュイが再び泣き出し。俺を抱きしめて来る。


その体をしっかりと受け止めながら、俺も自然と涙が出ていた。


いつの間にか、俺の両足にすがりつくようにくっついていた、シリュと、ミリも泣いている。

後ろで、ミオが、必死に泣きそうになっているのをこらえているのが見える。


「ミオもいたのか。おいで」

俺がそう言うと。

ミオは大泣きしながら、俺にしがみついて来る。


「おお。起きたか。タフな奴だとは思ってたが、手足ちぎれたのに、元気だな」

そんな一家大泣きの場所に遠慮なく入って来たのは、タイガだった。


「そっちの嬢ちゃんは、お前の子供か。どうりで、化け物なみの魔力だったわけだ」

納得したかのように頷くタイガ。


「手足がちぎれて、森の魔物の餌になりかけていたのを、双子が見つけて、ピンクの子があっさりくっつけてくれたみたいね。トリの話だから、話半分に聞いていたのだけど」


ヒュウが微笑みながら入って来る。

うちの人、空気読めなくてごめんねとその顔が言っていた。

獣人のというか、魔物の表情が分かるようになっているあたり、俺もどうかと思ってしまうが。


トリというのは、何度も偵察に行ってくれている、あの鳥型の魔物らしい。


「まあ、ゆっくりしてくれや。無茶を押し付けてすまなかったな」

タイガは、少し照れているようだった。


タイガと、ヒュウが家を出て行く時、何かが飛び込んで来る。

飛び込んで来た黒いモノは、突然俺の周りを飛び回り始めた。


しばらく、俺の周りを飛んだあと。

俺のお腹辺りに着地し。そのまま丸まって寝てしまう。

可愛い、小さい竜。しかし、その姿は真っ黒であり、空竜を思い出す。


「ミュレ?」

リュイは、まだ離れてくれない。

だから、その竜をしっかり見れたわけではないのだが、その黒い竜を見て、俺は何故かわかってしまった。


「ナォ」

小さく返事をする黒い竜。


うちの家族に、何が起きたのか、全く分からない。


いろいろ知りたい事は山ほどある。

聞きたい事も山ほどある。


しかし、今は。

俺は、自分にずっと寄り添ってくれる家族の温かさを感じながらリュイを撫でるのだった。





「【皇の】!」

突然入って来た男に、学生服の男は視線だけ寄せる。

「お前なら、気が付いているだろ!答えろ!」


バンダナを目の部分に巻いている男は、学生服の男に詰め寄る。


「彼女の事かな?」

学生服の男は、冷静に答える。

「当たり前だ!何があった!」


男がさらに詰め寄る。

「彼女は、負けた。それだけだよ。【空間の】」

そう言う学生服の青年は、目の前の黒い何かを回しながら見つめていた。


「お前!」

さらに詰め寄る男に、青年は、小さく笑う。

「もしかして、僕が、怒り狂っていると思っていたのかい?僕は、僕だよ。彼女の事もいろいろ知っているしね」

男は、あまりにも冷静な青年に、呆気にとられた顔をする。


「彼女と、君の事も知っているよ。僕は、【皇の】だからね」

笑う青年に。

男は、青年が纏う、気持ちを表す風を感じる。

男の両手が震える。

この男は。

彼女も、自分の役に立つ物としか見ていなかったのか。


だから、こんなにも気にしていないのだ。

恋人が殺されたというのに。


「そうだったな。お前は、そんな奴だったな。押しかけて悪かったな」

男は、そう言いながら踵を返す。


「彼女の復讐なら、無駄だと思うよ。そんな事をしても、何もいい事も無い。君は弱いんだから」

学生服の青年の言葉が突き刺さる。


「知るか。俺は、俺の好きにさせてもらう」

その言葉に。


小さく笑う青年。

「相変わらず、熱いね。昔のよしみで、いい物を作っているんだ。もう少しで完成しそうだから、それをあげるよ」


その声を聞き終える前に、男は、扉を激しく閉めて出て行く。


「まったく、勝手に死んでもらって、計画が狂いすぎだよ。【明星の】いや。明星<あかり>。

もう少し役に立って欲しかったのに」


ぽつりと漏らした声は、黒い球に吸い込まれていくだけだった。













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