明星 <あかり>
母親は、私を見てくれなかった。
小さな頃から、母親は、誰かを追いかけていた。
アイドルだったり、彼氏だったり。
父親の顔は覚えてもいない。
小さい頃に、死んだと聞かされていた。
そんな父親に付けられた名前が、明星<あかり>だった。
そんな名前が私は好きだった。
けど、名前とは違い、私を誰も見てくれなかった。
「死ねばいいのに」
そんな言葉しか、母親は私にくれなかった。
見て欲しくて。
アイドルの真似事もした。
私が好きだったのは、ゴスロリ服と言われるドレスコート。
それを着ている時は、皆が私を見てくれた。
声をかけてくれた。
騙されたりもしたけど、私を見てくれた事が嬉しかった。
口うるさかったお母さんとは、いつの間にか遠くになっていた。
ある日。
何が原因なのか、私が踊っていたスタジオが突然火事になった。
息が苦しくて。
体が熱かった。
燃え尽きた私が目を開けた時。
そこは、広い広い屋敷の一室だった。
「気が付いたかい?」
そう言ってくれた学生服の男の子は、整った顔立ちをしていて、私は顔を赤らめていたのを覚えている。
「転移かな?道で倒れていたから、心配になったんだ」
そう言ってくれた彼は、自分を「皇<コウ>」と名乗った。
彼は、私を見てくれた。
私と一緒にいてくれた。
私を抱きしめてくれた。
私の力が、【明星<スターライト>】である事が分かると一緒に喜んでくれた。
皆が私を見てくれる。
光を生み出す力。
私を見ながら、全てを消し去る力。
圧倒的な攻撃力を持ったこの力に、二人して喜べた。
彼に認めて欲しくて。
彼に褒めて欲しくて。
頑張った。
怖くても、魔物と戦った。
仲間を間違えて溶かしてしまって、泣いた事もあった。
けど、彼は優しかった。
彼は私を見てくれた。
彼が見てくれるなら。
何だってやった。 邪魔者も排除した。
気が付いたら、4Sと呼ばれて、名前で呼ばれなくなっていた。
【明星の】
私につけられた称号。
皆が私を見てくれる証の名前。
嬉しかった。これで、私を知らない人はいない。
誰であろうと、私を見てくれる。
その後で4Sの仲間になった、空間<そら> も、私を大事にしてくれた。
皆で一緒に。これからも、生きて行ける。
「助けて!」
私は思わず叫ぶ。
目の前に、残酷なまでに鋭い斧が迫って来ていた。
【皇の】なら、なんとかしてくれると思った。
私の好きな人なら。
けど、何も起きなかった。
誰も来てくれなかった。
「皇、助けて・・・・」
しゃべれなくなった顔のまま、私は泣いていた。
私が最後に見たのは、母親の泣いている姿だった。
私を抱きしめて、泣いている姿だった。崩れていく私を抱きしめている姿だった。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
ただ泣いている母親の姿だった。
その時。
私は分かってしまった。
お母さんも寂しかったんだ。お父さんに見てもらえなくて。
なのに、私は、お父さんの思いをお母さんに伝えられなかった。
お父さんは、皆が私を見てくれるから【明星<あかり>】と名付けてくれたんじゃない。
私が皆を照らして欲しくて【明星<あかり>】だったんだ。
お母さんを照らして欲しくて、【明星<あかり>】だったんだ。
私は、見てくれた人を。
私を大事だと思ってくれた人を見ていなかったのかも知れない。
私を叱ってくれた人を。
私に忠告してくれた人を無視していたのかも知れない。
そんな私なのに、私が一番めんどくさく思い、なのに一番私を叱ってくれた人の思い。
お母さんの(幸せになって欲しい)その思いが、私をこの世界に連れて来たのかもしれないと。
だから。今ならすなおに言える。
「ありがとう」と。
そして。
【皇の】に。
「大好きだよ」
私の意識は、そこで消えていった。
わがままな娘で。ごめんなさい。 おかあさん。




