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森の主

ドヤドヤと、巨大な木が大量に動いていた。

木で作られた人。そう言えばいいのか。

両手、両足を持った木が数十体 歩いている。

ただ、その大きさであった。

一体一体がとてつもなく大きい。


俺は、ワイバーンに乗って空を飛んでいるのだが、足元の木が玩具のように見える高さに彼らの顔があった。


彼らは、歩く時、木を避けない。

なのに、木は倒れない。

本当に不思議だった。


ここに来て、本当のファンタジーな光景に驚いていると、トレントの一体が立ち止まる。


俺をじっと見る。

「オマエハ ダレ ダ」

キリキリとした、何かをこするような声がする。

「ほんとうに、データベースさまさまだよな」

俺は、自動翻訳してくれる、データベースに感謝する。

こんな言語など、自分に出せる気もしない。


「魔獣?魔物同士の戦いの場所にいた。一人の人間だ」

俺が叫ぶように返答すると。


全てのトレントの足が止まる。

「モリ ヤイタ ダレ ダ」

トレントの声が続く。


俺は一呼吸置く。

ワイバーンが緊張するのが分かった。

その背中をゆっくりと撫でてやり。

「森で炎の魔法を使ったのは、俺だ」


そう答えた瞬間。

山が動いたのかと思うくらい巨大な手が、襲い掛かって来た。

「クゥー」

小さく鳴きながら、全力回避するワイバーン。


俺はもう一度その首を撫でてやる。

もう一度、反対側から、巨大な腕が襲い掛かって来る。

それすら、ほぼ直角に上昇し、回避する。


「??」

トレントが混乱しているのが分かる。

ワイバーンにしてはあまりにも、早いからだろうが、実は、首を撫でながら、俺がワイバーンに、強化魔法をかけているからだ。


ワイバーンにかなりの負担をかけてしまうため、回復魔法を重ねがけしながら、強化魔法をかけているのだが。

それでも、俺を乗せてくれているワイバーンは、大きく息を吐いている。


俺は、悪いと思いながら、その首を撫でてやる。

「クゥ~」

甘えた声を出すワイバーン。


その光景を見たからか。

「リュウ ノ オサ ヨ」

突然、地面から、さらに巨大なトレントが立ち上がって来た。

他のトレントよりさらに大きい。


かなり上空にいると言うのに、俺達の目の前にトレントの顔ともいうべき木々がある。

驚いている俺達に巨大なトレントが話しかけてくる。


「リュウ ノ オサ ヨ ナゼ モリ ト テキ スル」


「森と敵対するつもりは無かった。ただ、無数の虫の魔物に知り合いの魔物が巻き込まれたから、助けたかっただけだ」


「ナゼ? モリ ハ シ カラ ハジマル。 シ ナクシテ モリ ハ ナイ。 ナゼ?」


心底不思議そうに、話すトレント。


その瞬間、データベースから、トレントの情報が流れて来る。

森の守り神。森の守護者。里森の保護者のような者。

その情報でトレントが不思議がっている理由が、理解できてしまった。

トレントにとっては、さっきの大進攻は、昆虫の卵や、子供を蟻が大群で襲っている感覚なのだ。


いつもの事。時々ある事。

魔物の大群が、餌を求めて、他の種族の巣を襲っただけの話。

普段の事だし、お互いに生きて行く上での命の奪い合いをしただけ。


そこに、竜という化け物が介入して一方的に虐殺したと思われているのだ。


俺はどんな答えなら、トレントが納得するのか考えてみた。

けど、何を言っても説得は難しいと思われた。


虫を踏みつぶすついでに、他人の家の庭を、トレントの森をめちゃくちゃに荒らした事には変わりないのだから。


「やり過ぎた事は謝る。介入したのは、気の合う奴がいたからなんだが、確かにやりすぎた」

俺が素直に謝ると。


「リュウ ハ イツモ ソウダ。 キマグレ ニ スベテ ヲ コワス」

トレントが、激しく深いため息を吐いたような気がした。


「ムゲン ニ イキル ワレラ。キマグレ モ ワカラヌ デモ ナイ ガ ヤメテ ホシイ」


それだけ言うと、トレントは、後ろを振り返る。

 

激しい音とともに、トレントの大群が元来た道を帰ろうとしたとき。


突然、激しい痛みが俺の全身を襲った。

乗っているワイバーンも突然暴れ出す。


俺は、急いで継続回復魔法をワイバーンの背中に設置する。

トレント達が暴れだし、今まで倒す事が無かった木々がなぎ倒されていく。

俺はこの痛みを知っている。

覚えがある。激しい心の痛みとともに。仇を。

俺は上空を睨む。


「ほんと、坊やは、いつも不思議な種族と出会わせてくれるわね。嬉しいわ」

俺達の上空。

さらに高い空に立っているのは、ゴスロリ服の女性。

隣に光る 光の玉は、暗くなりはじめた空に輝く、星のようだった。


「【明星の】!」

俺の叫びに。


俺の妻達の仇は、ゆっくりと唇に指をあてる。

「その木の皮の一枚でもはぎ取っておきたいわね。世界樹並みの木でしょ?」

嬉しそうに一番大きいトレントを見て笑う。


俺は、ワイバーンの背中を蹴り、彼女に切りかかる。

槍が彼女をとらえたと思った瞬間。


彼女は、ゆらめき、消えた。

空振りした俺の前で、光る球の反対側に彼女が立っているのが見えた。


『スキル【陽炎】です。見える場所とは違う場所に彼女は居ます』

データベースの声に俺は、唇を噛み。


空中を蹴り直し、彼女の前に再び飛ぶ。

その瞬間。

【明星の】が笑ったのが見えた。


光の玉がもう一つ見える。

俺はその瞬間、気が付いてしまった。


罠にはまった事に。

俺は、気が付くとほぼ同時に、二つの方向から放たれた光線に、飲み込まれていた。


「少し遊んであげるわ」

そんな声が聞こえた気がした。




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