森の民
「しかし、疲っかれたなぁ」
そう言い。タイガは、近くの木の下に座り込む。
俺も、そんなタイガの横に座り込んだ。
どれくらい経ったのか。
二人で体を休めていると、
「ありがとうな」
突然、タイガは、木にもたれかかれ、座ったままで俺に呟いた。
俺はタイガを見るが、彼は、目をつぶったまま動かない。
俺は、そんな彼に対して、小さく頷くだけだった。
魔物の大進攻が終わったばかりだというのに。
村人は、復興のため、早くも、忙しく人が動いていた。
動いているのは、子供達と女性たちだった。
食事と水を取りに行く子供達。
木を伐り、家を作り直し始める女性たち。
その姿をタイガと二人で同じ木にもたれかかり、ぼんやりと眺める。
「ツええだろ?」
タイガがぼそりと俺に話かけて来る。
俺がタイガを見ると。
「この町の奴はみんなツええ。武器の腕は俺が一番かも知れん。男達は確かに喧嘩は強いかも知れん。が、ここの奴は、女も、子供も、ほんとにツええんだよ」
そんな光景を見ながら、動けないタイガと俺。
あれだけ泣き喚いていた、ヒュウすら、女性の先頭に立って、指示を出している。
この町のほぼ全員が、家族を失ったと思うのだが。
しかし、すぐに町を立て直すために働き始めていた。
戦闘に参加していた男達は全員動けないのか、木にもたれかかり休憩している。
俺も、魔力切れと、全身に走る痛みのせいで動けなくなっていた。
「お互い、無理しすぎたな」
にやりと笑うタイガ。
俺も、笑い返すと。
「適当に休憩したら、あんたらも働いてもらうよ!」
ヒュウの声が聞こえて来た。
「ほんと、ツええよ。あいつも」
タイガの笑いに。
久しぶりに大笑いしていた。
俺達が笑っていると。
「いにいちゃ、あーがと」
そう言いながら、子供が焼いた肉を渡してくれに来てくれた。
「おい。俺のはないのか?ウル」
タイガがその子に聞くと。
「とーにゃは、あと!」
はっきりと断られてしまう。
明らかにへこんでいるタイガが可哀そうになってしまい。
「お父さんも頑張ったんだから」
そう言ってあげる。
しかし、その子は、タイガを見ると。
一気に泣き出す。
タイガは、その子を無言で抱きしめる。
「大丈夫。俺達はまだ生きてる。生きるぞ」
タイガが小さく呟くその言葉が、ここで生きると言う事を教えてくれる。
「とーにゃ。とl・・」
子供の泣き声は、いつまでも聞こえて来る。
「子供も、仲間も死ぬ事はいつもの事なのです」
その日の夜、子供たちを寝かしつけた後、ヒュウは、呟くように話してくれた。
魔の森は、常に強大な魔物が存在する森。
あのバジリスクの巣すらある森だ。
そんな中で生きていくためには、ただ強くなければならない。
弱ければ死ぬだけだ。
そんな中、奇跡的に生き残り、二人はこの村を作った。
仲間を集めた。
どれだけ大変だったのか。
しかし、それでも。
「ここで生まれた以上。ここで生きるしかないから」
そう言い切るヒュウの目は鋭い。
「この村の奴はツええよ」
死んだように寝ているタイガの言葉が、聞こえて来るようだった。
俺は、子供達の喧嘩の声で目が覚めた。
あれだけ泣いていたウルも、今は、兄弟たちと口喧嘩をしながら遊んでいる。
「あんたら、外で騒ぎなさい!」
ヒュウの怒鳴り声が聞こえて来る。
いつもの光景。
いつもの日常。
俺は小さく笑っていた。
俺達が寝ている間に誰かが建てたのか。
折れた木を突き刺しただけの簡素な墓には、大量の花が添えられているが見える。
入って来た虫は、タイガの家以外のツリーハウスも襲っていたらしい。
村中で、朝から家の建て替えの音が響いていた。
そんな時。
「連絡るす!伝令るす!」
再び、鳥の魔獣が叫びながら飛んで来るのが見えた。
タイガが、その姿を見て、ため息をつく。
いつかと同じように、顔から着地し、地面を滑りながら停止する魔獣。
「今度は何のもめごとかよ」
タイガの呆れたような声の後。
鳥の魔獣は、顔を上げる。
「ヤバイるす!魔物の大量発生よりもまずいるす!」
その言葉に真剣な顔になるタイガ。
「トレント達が、今回の件で怒ってるす!木を切ったり、焼いたり、吹き飛ばしたからるす!」
その言葉に、頭を抑えるタイガ。
「こっちに大軍で向かって来てるるす!話をする気もなさそうな雰囲気るす!」
「まいったな。戦いになったら、俺達は全滅するぞ。何もかも足りんし、俺もこのありさまだ」
傷は俺の魔法で治ってはいるのだが。
連戦できるほど、体調が整っているわけではない。
「しかも、今はここを離れるわけにも行かんしな」
今も、家を建て直している音が村中で響いている。
「話ができる種族なのか?」
俺が思わずタイガに聞いて見ると。
「トレント。ほら、昔、ファンタジーで良くいた、動く木の化け物だ。もっとも名前をつけたのは、俺なんだがな。もともと戦いが好きなやつらじゃないから、話合いでけりがつけばいいんだが。今、町は復興中だしな。俺が行くわけにはいかねぇ」
その言葉に。
「行ってみるか」
俺が呟くと。
「マジか!行ってくれるのか?本当に助かるっ!」
両手を掴んで、喜ばれてしまった。




