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魔獣という運命

俺達が着いた時。


そこには地獄の光景が広がっていた。

魔獣たちの家はほとんどが、木の上にある。

ツリーハウスがみんなの家なのに、そのツリーハウスを、数匹の巨大な虫が襲っていた。

木の上の巣を狙うように、巨大なハチの魔物が、ツリーハウスの壁にぶつかりながら襲い掛かっている。


俺は、自分自身を責めていた。

鉱山の中には、飛ぶ虫はいなかった。

だから、この世界には、飛ぶ魔物がいる事を忘れていた。

ほとんどの虫が飛ぶ事をすっかり忘れていた。

頭の片隅にも無かった。


この距離からでも、誰かの悲鳴が聞こえる。

タイガが、力いっぱい地面を蹴る。

限界まで力を振り絞り、走り。地面を蹴る。

その巨大な剣で、大型犬くらいはありそうな、蜂のような虫の魔物を斬り落とす。


その虫の手には、小さな小さな手が残っていた。


タイガは再び地面を蹴り、空中に飛ぶのだが虫たちは危険を感じ取ったのか、タイガの跳べる高さのさらに上へと逃げてしまった。


「逃げんじゃねぇ!」

地面に着地した瞬間叫ぶタイガ。その口の端から血が滲んでいるように見える。

口の中をかみ切ったのかも知れない。


俺は、自分の心のままに動いていた。

悔しがるタイガを下に見ながら、上空に逃げた虫たちのさらに上にまで飛び上がる。


真下に見える蜂の手に誰かの小さな足を掴んでいるのが見えた。

小さな小さな足。

命の名残を見た瞬間。俺の中で何かが爆発した。

目の前に広がるのは紅い景色。 千切れた小さな腕。


「ふっざけるなぁ!」

叫びながら、空中で自分ごと回転しながら、ハチを切り刻む。

落下する自分を支えるビットすら惜しい。

まだしつこく家を襲おうと襲い掛かっていた虫たちをこれでもかと小さく切り刻む。

ビットは、俺の怒りを乗せたかのように、群がる虫の魔物を粉々にしていった。



「わるい!今ので、足を捻っちまった!すぐには飛べねぇ!家の中を見に行ってくれ!」

タイガが悲鳴のような声を上げる。

俺はうなずくと、空中を蹴り飛びながら木の上の家に飛び移る。


皆が住んでいた、家の前で、茫然と立ち尽くす。

家の中は。


いや。壁がほとんど虫の攻撃で崩れた家だったものの中では、血と肉が散らばっていたのだ。

「ヒュウ!」


タイガが遅れて家まで登って来て。

俺と同じように絶句する。


子供達だったのか。

小さな破片が散らばっている。


黒豹は、うつ伏せで倒れている。

今まで嗅ぎなれた臭いが鼻を衝く。

人の血の匂い。 魔物の肉の臭い。


いつまでも、慣れる事の無い臭い。

俺達二人が茫然としていると、うつ伏せで倒れている黒豹がピクリと動くのが見えた。

「ヒュウ!!!」

タイガの悲痛な声が聞こえた時、反射的に全力で回復魔法を発動させる。


辺り一面。

周りの木すら巻き込むほどの緑色の嵐が吹き荒れる。

荒々しく。しかし優しく。


矛盾する緑の風が、タイガの傷も、ヒュウの傷も一気に消していく。


生き返れ。

そんな思いすら乗せて、俺は魔法を使う。

光りが治まった時。

ヒュウが、ゆっくりと体を起こす。

「あんた?無事?」

タイガを見て、そう呟いた後。

ヒュウはタイガに飛びついていた。


「ごめん。ごめん。ごめんなさい。たすけられ、、、、」

タイガに抱き着きながら、泣き叫ぶヒュウ。


その声と同時に、ヒュウが倒れていた床の板が外れ、小さな顔が数個出て来た。

「キュー」

「かあぁ?」

「とちゃ?」

「キュッ!」


出て来たのは、4人の小さな魔獣の子供。

「一瞬だったの。だから、全然間に合わなくて」


ヒュウの言葉に。

タイガは優しい目で、その背中を撫でている。

「よくやった。4人も守れれば十分じゃないか」


タイガはそう言ってヒュウを撫で続ける。

水たまりが出来そうなほどの涙を流しながら。


二人が抱き合っている姿を見ていると、突然、再びデータベースのアラームが俺の中に流れて来た。


『突破された』

データベースからの報告の言葉を聞くと同時に俺はツリーハウスから、飛び降りていた。


目の前には木しか見えない。

しかし、データベースの地図上では、無数の赤い点がこちらに迫って来るのが残酷に表示されている。


俺に付いて来てくれているワイバーンは、反対側で戦ってくれているようだった。

ブレスの効果か。魔物が動けなくなり、魔物の侵攻が止まっているのを地図上で確認する。

まだ、そちらはもう少し敵を食い止める事が出来そうだった。


俺は走りながら、ビットをバラまき。

ビットから結界を張り、巨大な壁とする。

最初からこうすればよかった。

そんな思いを噛み殺し。


木の間から見える巨大な昆虫の頭に槍斧を振り下ろす。

その勢いのまま。虫の大群のど真ん中に飛び込む。力いっぱい振り抜いた斧槍で、木の間にいたアシダカを真っ二つに叩き斬る。

踏みつぶし、槍を突き立て。

完全に絶命させた後で、俺は叫んでいた。

自分の周りの敵を風魔法で弾き飛ばした後。


ビットを無数に展開する。


「守る」

ただ、その思いだけが心を占める。


小さい手が。

小さい足が。

喰われるなど、見たくない。


好きな人が。

大切な人が、潰れた姿なんて見せたくない。

あんな思いをするのも。させるのも。


ビットから発生する魔法の嵐を作り上げながら、俺は走る。

絶対結界を壁のように展開していき、魔物をせき止め。

別のビットが全てを切り刻む。

俺はとにかく無我夢中で、戦っていた。


どれくらい槍を振るったのか。空中の敵を叩き落とし。ビットが粉々にする。

アイアンゴーレムともいうべき、鉄色の亀を槍で叩き潰した時。

虫たちが、亀たちが、魔物達が一斉に逃げ始めた。

散るように逃げていく姿を茫然と見つめる。

最後の一匹が、森の中に消えていった。


最後の魔物が森に消えた瞬間。魔獣たちから、雄たけびが聞こえて来る。

勝利の雄たけび。

生き残った事への喜びの雄たけび。


「勝った。な。信じられねぇけどな」

俺のそばにタイガが来る。


町を守っていた他の魔獣たちもボロボロの体をひきずり近づいて来る。

全員、その顔には、黒ずんだラインが一本引いてあった。

死に装束。

そういえば良いのかもしれない。



タイガの顔にも、一本赤い線が引いてある。

にっこり笑うタイガの自慢の剣すら真っ二つに折れていて、足も手も満足に上がらない様子だった。



俺一人で全部の敵の侵入を防ぎきれたわけじゃない。

大量の魔物が町になだれ込んだはずなのだ。

それを、彼らが食い止めていたのだ。


「とりあえず、俺達は生き残った。喰うか喰われるかしかない、この森で、生き残れた。地獄はまだ終わらないようだぜ」

タイガは俺を見てにやりと笑う。

その目は澄んでいながら、凄まじい決意を含んでいた。


魔の森に住むと言う事。魔獣という生き方。


タイガの、返り血と自分の血と。

いや。

町中にただよう、血と液体の臭いがこの森を表しているようだった。

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