魔の森2
「お前もそうだろ?」
自分の事を転生者と言ったタイガというトラは、人懐っこい笑顔を浮かべている。
といっても、トラの顔だからそう思うだけなのだが。
「あれだけの回復魔法と、ビット?ですか?どこかのアニメで見たような武器を使っておられるのだから、転生者で間違いは無いですよね」
ヒュウは大皿に巨大な肉の煮つけを乗せて持って来てくれる。
彼らが住んでいるという、ツリーハウスに俺はお世話になっていた。
というか、二人とも肉球のついた手のはずなのに器用に料理をしたり、剣を扱っている事に俺は驚いていた。
その事を二人に聞いたら二人して、「そこかよ!」と突っ込みが来たのだが。
この町は、二人がというか、タイガが作った町らしい。
魔の森の魔物の一人?一匹?として転生したタイガは、とにかく生き残る事を優先させた。
そんな中。
自分のように、魔物として転生したり、知識を持って生まれた魔物が大量にいる事を知って、町を作り始めたとの事だった。
それはそうと、この森は、俺にとっても何かなつかしさを覚えるものだった。
そう。転生前に、40年駆けずり、土に潜り。
火を起し。水を探したあの森だったのだ。
ヒュウが言った4つ目は、俺が最初に会った4っつの目を持つ、赤い巨大なトラの事だった。
確かにあいつはめちゃくちゃ強いから、罠を張って倒した物だった。
タイガが話してくれる、この森での大変さや化け物のような魔物の話は、俺にとってもよく分かる話で、一緒になって笑い遅くまでずっと話をして、酒を飲んでいた。
一時。俺は【明星の】の事も忘れて楽しめていた。
タイガと、ヒュウの間には、黒まだらのトラの子が十人いて、4足で駆けずりまわり喧嘩をしている。
まさに子猫のじゃれ合いだった。
数が多すぎて、いつも家の中は戦場のようだ。
その中で、数匹だけ、ポテポテと2足歩行をして、ヒュウに、声をかけている子もいる。
「俺達が、何故こんな風に人間のように暮らせるのかは、正直、分からねぇ。俺の子も、見ての通り、獣のような子もいる。逆に、人間みたいな成長をする子もいる」
2足で歩く子供を膝の上に迎えあやしながら、タイガは笑う。
「だが、どれも俺の子だ。誰がなんと言おうがな」
「当たり前です。違うとか言ったら、その瞬間に、首をへし折って、バジリスクの頭と取り換えてあげますよ」
ヒュウは、そんなタイガに相変わらず毒舌を吐く。
そんな幸せを噛みしめていると。
一人?の鳥人間が、タイガの家の扉を壊して入って来た。
「何だぁ?家族団らん中だぞ!」
タイガが叫ぶが。
ヒュウは、すぐにその鳥人間に、回復魔法をかける。
瀕死だった鳥人間は顔を上げると、小さく呟く。
「首領、ヤバイるす。北から、土の中にいるはずの奴らが大量に出て来てこっちに向かって来てるす。今、どんどん増えてて、森の魔物が逃げ出して道が出来始めているす」
その言葉に苦虫をかみつぶしたような顔をするタイガ。
「数は?」
「数えられないるす。とにかく地面いっぱいるす」
その言葉に、データベースの索敵をかける俺。
そこに出て来たデータを見て、あまりの絶望具合に、俺は頭を抑える。
ずっと昔の事を思い出していた。
鉱山の中で湧いていた、あのメンツが大量に湧き出ていた。
ムカデも。ロックゴーレムも。
アイアンゴーレムすら大量にいる。
思い出したくない光景。ムカデやら、なんやら気色悪い虫が大量に湧いていた、あの広場。
そんな事を思い出していたのだが、追い打ちをかけるような数字が見える。
敵の総数の数がおかしかった。桁が8つ以上、並んでいる。
「いつ来そうか?」
「このままのペースだと、2日後には、ここに来るす。あいつら休みなく移動してるす」
タイガは、ゆっくりと立ち上がる。
「全員に伝えろ!戦闘準備!子供は避難場所へ移動させろ!」
「ヒュウ、子供達を頼んだ。避難所は、任せたぞ。シュン。悪いが、当てにしていいんだよな?俺達だけじゃぁ、手が足りない」
タイガのその言葉に。
俺の手が震える。
守れないのに。
俺には、誰一人として守る事は出来ないのに。
そんな震える手を、小さな小さな手が抑えてくれる。
目を上げると、タイガの子が小さく首をかしげていた。
「たぁー?」
イタイの?
そう聞いているかのようなその目を見て。
一瞬。
真っ赤な町が。真っ赤な血が。真っ赤な夕焼けが目の前に広がる。
『簡単に人は死ぬよ』
昔の師匠たちの声すら聞こえて来る。
そうだった。
この世界は優しくない。人はすぐに死ぬ。両親も。リュイも。
でも、守りたい。
俺の震えていた手がゆっくりと感覚を取り戻していく。
俺はもういちど、怖いの?と聞いて来た、小さな命に、首を小さく横に振った。
俺の返事に嬉しそうにはしゃぐその姿を見て。
俺は、震えていた手が治まるのを感じていた。
出来ないかも知れない。
いや、出来ないだろうけど。
でも。
俺は、小さな小さなを手を握り返して、笑っていた。
「大丈夫。お父さんは、強いから」




