皇といわれる男
地竜が、凄まじい尾の力で、男を叩きつける。
「スキル【運動停止】」
その一言と同時に、地竜の尾を掴む。
「スキル【貫通】」
そのまま、地竜の尾を握り潰す。
叫ぶ地竜。
「スキル【振動停止】」
地竜の叫びは、衝撃波となるはずなのに、それすら男には届かない。
「スキル【武器生成】」
空中に無数の武器が突然生まれる。
絶対の防御力を誇るはずの地竜の背中に無数に突き刺さる武器達。
ありえない。
武器生成は、俺も持っているが、素材がいるはずなのだ。
何もない所に武器を作り出す事は絶対に出来ないはずなのだが。
俺の戸惑いをよそに、男は、その中の一本の剣を掴むと、甲羅から抜きとり。
「スキル【流星斬】」
3連撃の攻撃が、地竜を襲いあっさりと切り刻んで行く。
「スキル【連撃】」
さらに一撃。
「スキル【流星斬】」
さらに3連撃。
「スキル【繰り返し】」
さらに一撃。
3連撃。
無限に続く連撃にたまらなくなったのか、地竜は、地面に沈み始めるのだが。
「スキル【対象固定】」
地面に埋もれて逃げる事すら出来なくなった事に、慌てる地竜。
「その体。俺の役に立て。地竜。【流星斬】」
それだけ言うと、男はあっさりと地竜をバラバラに切り刻んだ。
男がすっと何かの球を取り出すと、空間に紫の光が生まれる。
その空間に、地竜の欠片はすべて飲み込まれていった。
俺は、ただ、呆気にとられてその光景を見ていた。
何度も戦った。
地竜は、たしかに首を落として倒したと思っていたのだが、生きていたのか。
そんな事も思ったが、それ以前に。
強すぎる。
目の前の男は、地竜に何一つさせなかった。
苦し紛れにブレスを放つ事しかさせてもらえなかった。
男は、空を見上げ。
俺と目があった。
「ああ。やっと会えたと言うべきなのかな。君にはすごく興味はあるんだけど、今は別の事で忙しくてね。今度会った時に、ゆっくり話でもしようか」
そう言って笑う。
その顔を見ていると。
「あら。こんな所にいたの?」
遥か上空から、見覚えのある顔が降りて来た。
俺は奥歯を噛みしめる。
「ちょうどよかった。今終わった所だよ。さすがだね【明星の】」
そう言って笑う、学生服の男。
嬉しそうな顔をしながら、男の所に降りて行く女に。
俺は、怒りを止められなかった。
「死ねぇ!【明星の】!」
無数のビットが、吹き荒れる。
辺り一帯、全てを切り刻み、欠片も残さないと言わんばかりの切断結界の嵐。
しかし。
「今は、遊んであげる暇はないのよね。そこで、地団駄でも踏んでなさい。坊や」
その一言とともに、【明星の】手から生まれた光が全てのビットの核を溶かしてしまう。
その光を置き去りにして、【明星の】は、男の首に手を回し。
二人そろって、一気にどこかへ飛んで行ってしまった。
残ったのは、【明星の】残した光の玉だけ。
しかし、それもすぐに明かりを失い。
消滅する。
俺は、ただ。
ワイバーンに乗ったまま、茫然とするしかなかった。
何分、何時間たったのか。
俺は、茫然と見つめていた先が少し動くのが見えた。
俺達が、空き地に降りると、地面から小さな亀が産まれて出て来た。
ぶるりと体を震わすと。
光りが弾け、再び巨大な亀が目の前に現れる。
俺は、思わず槍を構えて身構えるのだが。
地竜は、俺を一目見て、少し目を大きく見開き驚いた顔をした後。
なにか、優しい目をしたまま地面へと潜って行く。
「強くなったな」
そんな声が聞こえた気がした。
見逃してくれたのか。
俺はそんな事を考えていると、突然頭の中で、声が聞こえた。
『囲まれています』
データベースの声に、武器を降ろしたまま警戒していると。
周りの森から出て来たのは、二足歩行のトカゲやら、オオカミやらだった。
犬や、猫のような姿の者もいる。
「ぁ・‘$%!」
突然聞こえた声に、戸惑っていたが、すぐに二重音声が聞こえ始めた。
データベースさんの同時翻訳機能だ。
本当に便利である。
「何をしている!何者だ!あの化け物をどこに隠した!」
そんな声が聞こえる。
殺気だつ彼らを見ながらどうしたものかと迷っていると。
「よせよせ。お前らが全員でかかって行っても、触れる事も出来ないはずだぜ。なんせ、ワイバーンをてなずけているくらいだ。この中で、ワイバーンに勝てる奴なんているのか?」
一人の男?が出て来る。
巨大というべきか、2メートルはありそうな巨大な剣を担いだ、これまた2メートルは超えていると思われる、トラだった。
彼?も二足歩行であったが。
「まぁ。そういいつつも、ちょっと手合わせしてくれると嬉しいんだがな。あんた強そうだ。
だが、ここじゃないなぁ」
「おい、まさか、連れて行くつもりか?」
「得体が知れん者だぞ。もしも、ウィスプの一人だったらどうする気だ?」
騒ぎ出す周りに、トラは、ただ一言。
「こいつは人間の姿をしてるみたいだが、俺には竜よりでかく見えるぜ。暴れたら、誰も止められねぇよ。さっきの化け物でもな」
その一言に。全員が武器を下ろし始める。
「魔の森の掟だ。強き者には従え。弱き者は強き者を超えろ。超えれなき者は去れ」
トラはもう一度周りを見回し。
「絶対の掟だ。忘れてはいないよな」
その言葉に残りの者も武器を下ろす。
「俺が決めた。こいつは、村に連れていく。反対の意見があるやつは、俺と今ここで勝負して勝ってみろ」
その言葉に。
最後の一人まで武器を下ろしたのだった。
「チッ。根性無しが。まぁ。そういう事だからよ。とりあえず、村に来てくれねぇか」
そのトラの目には、優しい光が宿っていた。
俺はその言葉に頷くのだった。




