手がかりと追う者たち。
「エルフの里へようこそ。長様」
俺が、エルフの里へ入ると、エルフが全員膝をついて待っていた。
そう。男の子も、女の子も。
そのエルフの姿に、俺が茫然としていると、フルが口を開く。
「長は、シュン様一人でございます。私らエルフ。死ぬ事を知り、我らの無力を知り。森しか知らぬ私たちには、何も出来ないのだと思い知りました。その上で、シュン様は、私たちに奇跡を見せてくださいました。まさに森の力と、神の奇跡を見せてくださいました。ならば、私たちは、神に仕えるのみでございます」
顔を上げるフルの表情は、何か晴れ晴れとした顔であった。
自分のせいでこの里を破壊して、ミュアのおかげで再生できた。
まさに、神のいたずらの様な様子を目の前で見せられたのだ。俺を、ミュアを恐れるのも仕方がないと思う。
そう思っていたのに。
フルは、笑っていた。
笑って、自分の家に迎えてくれた。
「おはようございます」
俺が起きると、フルは、家の中にある木々に水をあげていた。
「俺が怖くないのか?」
俺が、フルに聞いて見ると。
「長の事は、怖く思います。それは、恐怖ではなく、恐れです。神としての長を、おそれます。
しかし同時に、私たちを守ってくれると信じています」
そんな返事が返って来たのだった。
「私が間違っていたと、世界樹は、私たちの小さな思いなど遠く離れた場所にあるのだと。
純粋なエルフだけを守っているわけではないのだと、ミュア様と同一化した姿を見て、思い知ったのです」
俺の食事を持って来ながら、フルは饒舌にしゃべっていた。
これは、もしかして、厄介な信仰宗教にハマっているのではないのか。
俺が心配すると。
「ミュア様の声が、エルフは、驕る事なかれと叱りつけられた声が、ずっと心にあるのです。
だからこそ。私は生まれ変わる事が出来ました。エルフは、特別ではないのだと、思い知りました。今は、エルフのまとめ役をやらせていただいておりますが、世界樹と同一されたミュア様の旦那である長に、ずっとついていくと、浅はかな考えを思い知った時に決めたのです。これは、エルフの総意でもあります」
明らかに、何かの宗教を作った感じがある。
ミュア教と言ったらいいのかも知れない。
俺が頭を抱えていると。
『マスターを助けたかっただけなのですが』
ぼそっと、頭の隅でそんな声が聞こえた気がした。
「それは、そうと。昨日、長が尋ねられた事なのですが」
フルは、キノコを中心としたスープを俺に差し出す。
ミュアが良く作ってくれていたスープだった。
「エルフ総出で、森に尋ねて来ましたが、4Sは、この森にはいないようです。砦の方で、昨日何か騒ぎがあったようですが、前のような、魔物が溢れて来たわけでも無いようで、すぐに落ち着いたとの事でした」
フルが言う砦とは、西方城塞都市の事である。
俺は、その報告を聞きながら肩を落としていた。
「しかし、空中に浮かぶおかしな女を山脈付近で見たと言う報告が、山の木から来ております」
その言葉に、俺は、思わず顔を上げる。
「おそらく、長が一番欲しい情報かと」
その言葉に。
俺は、フルに頭を下げる。
しかしフルは、首を振り。
「私たちは、ずっと長について行くと決めたのです。長は私たちに何でも申しつけ下さい。森がある限り。ミュア様から下されたこの命がある限り。エルフは長の手足となります」
聞き方によっては、怖くなるフルの言葉に。
俺は、小さく震えていた。
俺は、そのまま食事を終えると、フルに散歩に行くと言って、フルの家を出るとそのままエルフの里を後にしていた。
ただ、ただ。
これ以上、何も背負いたくなかった。
誰一人守り切れる訳もないのに。
大事な人すら守り切れなかったのに。
エルフ全部とか、背負いたくもなかった。
シュンがエルフの里を出て行った数日後。
シュンの後を追うと準備していたエルフの里に、不法侵入の一報が入って来た。
フルが、弓を持ち迎撃に向かったのだが。
そこにいたのは、ピンク色の髪をした母娘と、青い髪の獣人の子供。
そして、真っ黒い竜と、竜人の男と言う、不思議な組み合わせの一向だった。
彼女たちは、長の妻と子供だと言う。
その話は何故か、納得出来た。
なぜなら、ピンクの髪の女性は、エルフ達の案内もなく、フルですら近づく事が出来ない世界樹に一直線に向かって行ったのだから。
女性は、世界樹の前で、祈りをささげる。
泣いているようにも思える。
「ありがとう。相石ですもの。絶対に離れないのです」
フルは、そんな女性の姿をじっと見つめていたのだが、ぼそりとそんな言葉が聞こえた気がしていた。
シュンを追いかけようと準備を進めていたエルフ達は、その女性の言葉を聞き、シュンを追いかけるのをあきらめる事になった。
「ミュア様の加護を持つ私でも、一度死んだです。みなさんと一緒で、生き返る事はできたですが、それでも、4Sは強大で、凶悪です。皆さんを守り切れなかったら、シュン様は、本当に折れるです」
との言葉だった。
真剣に、たった一人を心配するその姿に。
フルを始めとしたエルフ達は、自然とピンクの女性に頭を下げていたのだった。




