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ピンク髪の...

俺は、宿をそっと出ていた。

まだ日も登っていない、真っ暗な世界に俺は足を踏み出す。


この世界には、朝までずっと光り続けるような便利な明かりは無い。

魔力で作られた明かりも、永遠にはつかないし、本当に明るいとおもうほどではない。


夜の闇がまったく無い昔とは全く違い、夜は本当に真っ暗だ。


俺は、自分の魔法で灯した小さな明かりを頼りに歩き出す。


少し前を思い出す。

リュイのありえない向きに曲がった体を見ながら、必死に声をかけながら、その体をベッドに寝かした。

何を言ったのか、自分でももう覚えてはいない。


リュイをベッドに寝かした後。

すぐにミュレも寝ているのを思い出し、ミュレも迎えに行く。

二人をそれぞれのベッドに寝かした後。

ふと見たリュイの姿を見て。

俺は、二人の間で崩れてしまった。


リュイの体が、溶けるようにありえない向きに崩れていた。

人としてありえない寝姿。

そこで、現実を叩きつけられてしまう。

もう彼女が目を覚ます事も、話しかけてくれる事も無いのだと、改めて知ってしまった俺は。


ミリエルが何か言っているのも、アランが何か言っているのもすべて聞き流しながら、その場から動けなくなっていた。


居なくなって改めて分かる。

リュイにどれだけ助けてもらっていたのか。


彼女は、自分の半分なのだと。

彼女の笑顔に救われた。

彼女の胸で何度も泣いた。

彼女に何度も慰められ。彼女が何度も自分を奮い立たせてくれた。


俺は、彼女に何度も救われ、何度も助けられたのに。彼女に結局、何か返せたのだろうか。


自分の弱さに。自分の力の無さに。

守れなかった自分自身に。

絶望してしまう。


何かを言った気もする。

感謝の言葉だったのか、それとも謝っていたのか。

俺がふと顔を上げる。真っ暗な部屋の中で、俺はずっとうずくまっていたらしい。

周りは暗く。

近くで、唯一規則正しい寝息が聞こえる。

恐らく心配してくれたミリエルが、ずっとそばにいてくれたのだろう。


自分も父親を殺されているはずなのに。

本当に優しい人だ。


俺は、寝ているミリエルの頭をそっと撫でる。


ビットが小さく小さく明かりを作ってくれる。

俺は、そのまま扉を見つめる。


俺は何も出来なかった。何も出来ずに、二人を死なせてしまった。

だが。一つだけ、子供達に会う前にやらなければならない事が出来てしまった。

シリュにも、ミオにも、ミリにも。

「かたき討ちはしてやらないと、会わせる顔もないな」

俺は小さく呟き。


扉を開ける。

「【明星の】いや。4S。絶対に許さん。殺してやる」


そう決意をして。






「おかあたん?」

私、リュイ・ゼイロスは、犬鳥に一緒に乗り、キンカに戻って来たです。

自分達の家に着いた時。

家の前の広場で、娘のシリュが不安そうな顔で私の顔をじっと見ていたです。


私は、何も言えず。自分の娘をしっかりと娘を抱きしめる事しかできなかったです。。

その後ろで、何ともいえない顔をしている青い髪の双子にも。

手を差し伸べ。

私は3人を抱きしめて。

ただただ泣く事しかできなかったのです。





数日前。


ミリエルは、何も言えなかった。

原型は残っているが、全身がタコよりも柔らかくなってしまっている女性を前にして。

大好きな人が、突然居なくなってしまい、それに気が付かないほど深く眠ってしまっていた自分自身の不甲斐なさに。


彼は、きっとかたき討ちをしに行ったのだろう。

それは理解できる。

しかし、その手伝いが自分に出来るかと言われれば、それは無理だと言っても良かった。


ミュレのように、彼を乗せて自由に空を飛べるわけでは無い。

リュイのように、圧倒的なスキルを持っているわけでもない。


自分に与えられたものは、竜としてのブレスと、死ににくい体だけだ。

しかし、それが何の役に立つのか。


実際、父上も、一撃で殺されてしまった。

手足を切り落とされても、再生したとしても、竜の心臓を握りつぶされてしまえば、命を手放すしかないのだ。


竜のブレスなど、役に立つとも思えない。

それ以前に。

目の前で、骨が粉々になっている彼女ほど、彼を支えれる自信は全くない。


ミリエルは、自分の唇をきつく噛みしめながら、一つの結論を出す。

「ドンキ殿。そなたは、別の命を使い、新しい命を作り出せるのだろう?なら、妾を使い、二人を助けてくれはしないだろうか?妾ではなく、彼女の姿であれば、彼を支える事も出来るかもしれぬ」


彼女が導き出した答えは、とても高齢の竜が考え着くものでは無かった。

しかし、彼女の中には、その答えしか出て来なかったのだ。


ドンキは、困っていた。


私を使ってくれと言いだした、竜人の女性に対して。

「本当にいいんだな」

竜人の女性にそう声をかけていた。

小さくうなずく、竜人の女性。


無理だと言いたかった。

自分のスキルは、二つの体を一つにする事は出来る。

だが、死んだ人間は生き返らせる事は出来ない。


出来るなら、自分の大事な人を先に生き返られせている。

だが、目の前にいる自分よりはるかに年上な、凛とした女性の決意の強さを感じ取り。


ドンキは自分でも不思議な事に口を開いていた。


「二人を一つにしても、リュイさんの精神は、魂は戻って来ない。おそらくは、リュイ君の体の一部を持った、君になるだろう。おそらく、今より弱くなる。それでもいいのかい?」


彼女はしばらく考え込んだ後。

「それでも、彼女の一部でもいい。彼女の何かを残したいのじゃ。彼女の一部があれば、彼の為にもなろう」

と言い出した。


その気持ちは分からないでもない。

私とて、犬鳥も。

馬も。

豆も。

二度と、会話をする事も出来なくなった自分の子供達と妻と一緒にいたいと思ったから。そんな気持ちがどこかにあったからこそ、自分の子供や、妻を素材として使ってしまったのだ。



だが、それを。生きた人間が、他人のために望むとは思わなかった。

私は、竜人の気高いその人をじっと見つめる。だが、その気持ちが強いものである事を感じ。


私は自分でも良く分からなかったのだが、ゆっくりと彼女の目を見て、うなづいてしまっていた。


二人の結合を始める事にする。



二人を並べ。横にしたまま。

私はスキルを発動させる。

【融合】にて、二つの全く違うモノを一つに無理やりまとめてしまう。

その上で、【遺伝子融合】にて、二つの全く違うモノを一つにむりやり束ねていく。



命を潰し、命を作るスキル。

私は、おそらく地獄に落ちるのだろう。

命を軽々しく、乱暴に扱って来た事を自分自身が一番よく分かっている。


ありえない依頼や、相談されて作った命。

利害が一致して、作ったモノすらある。


後悔はない。

私はあの時。

妻や子供が死んだ時。

私もまた死んだのだ。


今生きている私は、屍でしかない。


そんな事を考えていた時。

騒ぎながら、一人の竜人が乱入して来た。

町を襲ったという、男の竜人だった。


気が散る。

私がそう思った時。

今まで起きた事のない事が。見た事も無い事が起き始めた。

まず、虹色の光の玉が部屋全体にあふれかえる。

いや、リュイ殿の体から、あふれ出すように湧き出て来たのだ。


竜人の女性、ミリエルと言ったか。

彼女がその光に包まれた時、彼女が二人に分かれたように見える。

コピー。そう思える状態なのだが、人を一瞬でコピーするなど、理解できない。


混乱する私を無視して、スキルは発動されていく。


唐突に、二つに分かれた竜人の女性の片方が、リュイ殿の体に流れ込みだしたのだ。

部屋をふわふわと舞う、無数の光の玉と一緒に。


普通は逆である。

生きた者が死んだ者へ融合するなど、あり得ないしお互いに死ぬだけだ。

スキルを慌てて止めようとするのだが、暴走しているのか。

私の【融合】は止まらない。


私が慌てている先で、さらに事態は動き出す。

分かれた彼女の体の片方が今度はミュレ殿に流れ込みだしたのだ。



二つの融合が、私の意思を無視するかのように始まる。


必死にスキルを中止しようとする私の腕を、細い手がそっと押さえた。


『大丈夫』

青い髪に、緑の目の少女がにこやかに笑うのが見えた気がした。


私の中で。

何かが聞こえる。

『世界樹の力を得て、リュイに与えられた保護を解放します。全ての不幸を、全ての幸福へ』

『地竜の力を得て、ミリエルに与えられた保護を解放します。全ての命は、大地に還る』


『素体、ミリエルをよりどころとし。リュイの肉体修復と精神を定着。【全てはシュン様のために】【絶対幸運】定着』

『素体、リュイをよりどころとし、保有する全種族の特性を統一。【全ての命は、等しく一つに戻る】【種族統合】にて、【神人】として変換』


『素体、ミュレをよりどころとし、スキルの進化を開始。【無限の時は、無限の可能性を秘める】【空竜の加護、神獣化を統合】【神竜】として変換。ミュレの意識、ミリエルの意識は、定着できず。両名の意識は、世界樹にて保存。【輪廻と、奇跡を信じて】』


『二人の女神に、祝福を。【獣と、竜は未来へ】』


ドンキは、流れ込んでくるその言葉を聞き。

涙を流す。

そうか。シュン殿は、私などとはくらべものにならぬほど、この世界に愛されていたのだ。

嫉妬に狂いそうになるほどに。


あの者だけ、この優しくない世界で、優しくされていたのだ。

彼に対して、殺意すら覚える私に。


澄んだ目をした青髪の少女は、にこやかに笑う。

『必死に生きる者には、必死に生きただけの幸せを。ゆるやかに生きた者には、ゆるやかな幸せを。それが世界の意思』


それだけ言うと、彼女は消えて行く。


私の目の前で。

一人の少女と一匹の竜が、穏やかに寝息を立てていた。


ピンクの髪をした、背の高くなった女性と。

一匹の黒い竜。


乱入して来た竜人は、黒い竜に近づき。

膝まづいていた。


「ミリエル様。空竜になられるとは。このギャルソン。何万年であろうと、姫様をお守りさせていただくと、ここに誓います」


泣きながら、そんな事を呟いていた。

竜人の生死感は少しおかしいのだろう。

まぁ。寿命が、数万年と言われてしまえば、そうもなるかも知れない。


私は、終った融合の結果に茫然としていた。

竜人は消え。

リュイ殿の体が戻り。黒い竜が産まれていた。


私のスキルは、このためだけにあったのではないか。

そう自問自答してしまう。


そんな時。

私の息子、ファイが、家に飛び込んで来た。


「親父!おふくろが、妊娠してたってよ!」

その言葉に。

私は不覚にも、息子の前で泣いていた自分に気が付いてしまった。


まだ、もう一度、改めて家族を持つ事を許されたのかと。

何かが許された気分になっていたのだった。


その時、私にも加護がついていたのに気が付くのはずっと後であった。

私の加護は。


【加護・臥薪嘗胆】


苦労すればするほど、目的を達成できるようになる。


私にふさわしい加護ではないか。

幸せを手に入れたいと、あがき続ける私に。贈り物とは。

まったく。これで、死ねなくなってしまったではないか。




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