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赤い、赤い落日

「さて、降りて行った竜を回収に行かないとね」

にこやかに笑う【明星の】


竜の長ではなく。ミリエルの事を言っている事はすぐに分かった。

「やるの」

ミュレが小さく呟く。

ミュレと同化している俺の考えを読んだのだと思う。


慕ってくれる人を見捨てる事は出来ない。正直、押しかけ女房ではある。

しかし、ミリエルとは、数日ではあるが一緒に暮らし、俺にとって、掛けがえのない人の一人になっていた。

自分でも、こんなに惚れっぽかったかと思うのだが。


俺は槍を掴み直す。

気絶したままの、リュイを降ろしたいのだが。

【明星の】は、許してくれそうにも無かった。

すでに、再び、大きな光を生み出している。

「坊やも、邪魔するなら消えてもらうわよ」


笑う【明星の】

「とりあえず、リュイを降ろすぞ」

ミュレにそう伝えると、ミュレも同じ事を思っていたようだった。


ミュレが頷いた瞬間。

いきなり、彼女の回りに、4個の光が生まれた。


「はぁ!?」

俺が叫ぶとともに、激しい痛みが全身に走る。

動けなくなるほどの痛み。

全身を火で焙られるような、壮絶な痛み。

「きゃぁぁぁ!」

常時回復の限界を超えたミュレが、落下し始める。

羽も、体も一部溶けている。

ビットを食べるも、痛みは治まる事は無い。

「無理、むりなの!」

ミュレが、痛みのあまり暴れてしまう。


振り落とされる。

俺がそう思った時。

4つの光の玉から、光りが走る。


俺は、その瞬間を時が止まったかのように見ていた。

張られた絶対結界を避けるかのように、光りがゆがんで飛んでくる。


その光は、ミュレの足を切り取り。


羽を切り取り。

俺の右手が切り取られた。


何かの冗談かのようにあっさり切り取られる。

落ちていく体の一部たち。


俺の右腕と、抱えていたリュイも。


何を叫んでいたのか。何かを叫んでいた。


ミュレと、俺も落下する。

データベースは、とっさに俺とミュレの真下に結界を張る。

結界に受け止められる俺とミュレ。


「ふふ。これで、何もできないでしょ?初見殺しは、楽しいわね」

にこやかに笑う【明星の】


ホーミングレーザー。

そんな言葉が頭に浮かぶが、すぐに襲い掛かって来る全身が溶ける痛みがその思考を吹き飛ばす。


「無駄よ。生きている以上、死ぬほどの痛みを感じたまま考える事なんて出来ないもの」

笑い声が聞こえる。


うずくまっていた俺は、痛みが意識が遠のき始める。


真っ二つになった、俺の母親が。

隣の幼馴染が。

父親が笑っているのが見える。


死ぬのか。

俺がそう感じた時。


「ダメなのぉぉぉぉお!」

ミュレの声が、絶叫とも言える声が聞こえた。


ミュレが。

ビットを何度も食べながら。

飛んで行くのが見えた。


駄目だ。

一人で行くな。

死ぬだけだ。


俺は、絶対結界の上で、ミュレに手を伸ばす。


伸ばした左手の先で。

ミュレは、光を全て避ける。

そして。

光りの球を飲み込む。


駄目だ。

そんな事をしてしまえば。

体の中から溶ける。


必死に声にならない声を出そうとするのだが。

ミュレから、感じる声はただ一つ。

「絶対に、シュンは守るの!」


2個目を飲み込み。


羽を再び切られ。ビットで回復し。


3個目を飲み込む。


「うるさいハエねぇ!!!!」

【明星の】が叫ぶ。


新しく光が生まれる事は無い。

なぜなら、ミュレの体内で、光りはミュレを溶かし続けているのだから。


「ミュレの、全てが溶ける前に、死んで!」


ミュレの悲鳴のような叫びが聞こえる。


止めてくれ。

止まってくれ。


俺の気持ちとは裏腹に。

ミュレは、最後の一個を飲み込む。


「本当に、うるさいわねぇ!」


【明星の】が、何かの魔法を使う。


数本の光りに切り刻まれながら、ミュレは。

笑っていた。


(ミュレと一緒に)

(逝くの)


ミュレは、最後の力を振り絞るかのように【明星の】に襲い掛かる。


「あんた、何をするつもりなのよっ!」


その迷いない突進に慌てる【明星の】


ミュレは、そのまま。

突撃して来るミュレを避けた【明星の】左腕を。


かみ切っていた。


「あああああああああああああ!」

叫びながら、一気に上空へ逃げる【明星の】


「ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない」


噴き出す血をまき散らしながら。

ゴスロリ服の女は、上空へ飛んで行く。

さらに上へ。恨みの言葉を放ちながら、彼女は空の中へと消えていった。


やっと光りと痛みから解放される。

そんな事はもうどうでもよかった。


ゆっくりと落下してくるミュレを、俺は左手で受け止める。


やけに軽い。

ミュレの獣化が解ける。

両手、両足が無いミュレの、首が溶けているように見える。


俺は、自分のビットを口移しでミュレの口に入れようとするも。

首を振られてしまった。


(のど、焼けちゃったの。何も、飲め込めないの)

そんな、ミュレの考えが流れ込んで来る。


俺にも流れ込んでくる、激しい痛み。

その中にある、喜び。

達成感。

(シュン。お願いね。最後のお願い)

そんな気持ちが、俺の中に流れ込む。

ミュレは、必死に口を開け。舌を差し出して来る。


俺は、ミュレの思いを感じ取り。

ミュレに口づけする。


(食べて)

その一言が。

全てだった。

ミュレの意識は無くなった。


俺は、叫ぶ。

何を叫んだかも分からない声を出す。


俺の中で、何かが壊れる音がした。

やっては行けないと思っていた。


人として。生物として。

しかし。俺は。

ミュレの舌を飲み込んでいた。


ぐったり動かないミュレを抱きしめたまま、動けない。


もう動かない。

もう、しゃべってくれない。


もう、俺を乗せてくれない。

涙すら。絶叫すら。

悲しいと思う気持ちすら出て来ない。


どれくらいミュレを抱いていたのか。

俺の横に、真っ青な顔をしたミリエルが浮かんでいた。


「シュン殿」

泣きそうな顔でミリエルは浮かんでいる。


「妾も、かんばったのじゃ。ほんとうに、がんばったのじゃ」


俺は、ただミリエルを見つめる。

「じゃが、父上も抱えておって。落ちる速さも、すさまじく」


なんの言い訳をしているのだろう。


「本当に、ほんとう、、、に、、、すまないのじゃ・・・・」


いきなり泣きじゃくるミリエル。


日が落ちるのか。

周りがやけに赤く感じる。


「リュイ殿が、、、、」


ああ。

今日は。

本当に、赤い。

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