絶望
【黒炎】
黒い球として、飛んで行き当たると、炸裂し炎をまき散らす。炸裂した炎はさらに炸裂する。
軽い爆発も伴う。
追記。再生能力を阻害する。
リュイの黒炎の能力は、バジリスクの一瞬で回復する能力を遅らせてくれた。
そのおかげであの化け物は倒せたと言ってもいいのだが。
その化け物を倒した化け物スキルを無限に使って来る、化け物が目の前にいた。
空竜。そう呼ばれる、竜の一体。
今、俺は自分に回復魔法をかけながらビットから発生させた、黒い板を限りなく無数に飛ばしていた。
絶対結界で防げば、当たった所から無駄に炸裂して、逃げ道が無くなってしまう。
絶対結界は空中設置してしまうと、不安定だ。どうしても衝撃で俺の方へ動いてしまう。
これだけの無数の攻撃を受け続ける事は不可能だった。
受ける事が出来ないのなら。迎撃するしかない。
黒い板に当たった黒炎は、お互いに消滅していく。
黒炎に当たった瞬間、俺のビットも燃やし尽くされているのが分かる。
撃ち落とし切れない攻撃は、リュイの黒炎が空竜の黒炎をお互いに消滅させていた。
しかし、焼石に水といったところか。
無数に無限に飛んで来る黒炎に阻まれて、まったく空竜に近づけなかった。
辺り中にばらまかれ続ける空竜の黒炎は、長が持つ、再生能力を完全に封じてしまっている。
長もすでに黒炎に何発も当たり、ぼろぼろであった。
「まだ行けるの!」
疲れ切っているであろうミュレは、ビットを一個口の中に放り込み、そんな弾幕の中を飛んで行く。
「無茶であろう」
長の呟きがやけにはっきり聞こえる。
しかし、無茶でも。
「やるしかないの!無茶は分かってるの!」
ミュレの声が響く。
神業的な動きで、黒炎を避けるミュレ。
俺も、ミュレの背中にしがみつき、ビットや絶対結界を使い、ミュレの道を確保する。
奇跡的に無数の弾幕を抜けて、空竜の前に来た時。
その空竜が見えなくなるほどの球が俺達の目の前に、一斉に生まれた。
「リュイ!」
「はい!」
空竜の目の前で、リュイが俺のビットで作られた魔法陣を叩く。
言いたくないリュイの最強スキルだ。
「【愛羅舞鳥】!」
なぜか、普段叫ばないリュイが叫ぶ。
ビットで出来た黒い鳥が目の前に生まれ。
無数のビットを全て飲み込む。
黒い鳥は、そのまま空竜にぶつかり。
ハートを生み出しながら、炸裂していった。
俺はそんな激しい爆風の中、黒い板を、細く細くして、槍のまわりにまとわせ。
空竜を突き刺した。
一撃を受けた空竜は、一瞬動きを止め。
気が付いた時には、俺達の上空にいた。
「今のは動きが、見えなかったの!」
ミュレが叫ぶが。
『瞬間移動しました』
データベースの報告に、俺は絶望した顔をする。
確かに、貫いた。感覚はあった。
しかし、あまりにも浅い。
「逃げられた!もう一度だ!」
俺は、ミュレに叫ぶ。
瞬間。
再び無数の黒炎が空竜の前に生まれる。
ヤバい。やつは俺達の真上。
つまり、俺達の真下にはダライアスがある。
防げるか。
俺は、ビットを限界まで展開する。
空竜が、隙間すらない数の球を打ち出す。
上空から、俺達に向かって。
遥か下のダライアスに向かって。
「させるかぁ!」
「もちろんです!」
リュイが、再び魔法陣を叩き。
俺は、限界までビットを展開させ。今度は絶対結界を広範囲に展開させる。
リュイと、空竜。お互いの黒が。
空中でぶつかった。
激しい黒い閃光が弾け。
黒炎は、消滅していた。
俺の腕の中で、リュイは気を失っている。
俺も、魔力の大半を使い果たしていた。
無数の一撃は防いだ。
けど、その代償は大きすぎた。
「さすがに、きついの」
ミュレまで、絶対結界に守れていたとはいえ、精神的にキテいたらしい。
さすがに泣き言を言っている。
魔力切れのリュイは、起きる様子も無い。
その時、竜の町がある島が、ゆっくりと下降し始めるのが見えた。
「間に合ったか」
長が小さく呟く。
しばらく下降したかと思うと。
巨大な島ごと、光りに呑まれるようにして消えていくのが見える。
「あの島は、丸ごと別の場所へ行けるのじゃ」
呆気にとられている俺に、笑う長。
島ごと転移できるとか、なんだそれ。
と思っていると。
「シュン殿!」
叫びながら、ミリエルがこちらに飛んでくるのが見える。
「島と、民はこれで大丈夫なのじゃ!」
ミリエルが飛んで来る。
その次の瞬間。
「ぐぶっ」
鈍い声がした。
何かを突き破る、嫌な音。
俺達がその声の方を見ると。
細長い光る腕が、長の心臓を掴んでいた。
長の体が、突き出された腕の周りが爛れるように溶けているように見える。
ミリエルが叫ぶのが、遠くに聞こえる。
「見つけた。あの人が目指す物。あの人が欲しがっていた物。竜が持ってたのね。間に合わなかったのは残念だけど。必ず見つけるわ」
嬉しそうに、掴んだ心臓を引き抜く。
ゴスロリ服を血に染めながら、女性は笑っていた。
「大丈夫。竜の体は、貴重だから。ちゃんと有効活用できると思うわよ。まぁ、この高さから落ちて、原型があればだけどね」
その持っている心臓を、愛おしそうに見つめる。【明星の】
落下する、長の体。
ミリエルは、慌てて、その体を受け止めに行った。
そんな竜人達を無視するかのように。
「その前に」
空に浮く、黒い竜を見つめる【明星の】
空竜が、そんな彼女を危険と感じたのか、無数の黒炎を生み出す。
「無駄なのよ」
【明星の】は、目の前に、光りの球を生み出す。
「うにゃ」
ミュレが、身もだえる。
俺は、そんなミュレの背中で、咄嗟に常時回復魔法をかける。
魔法陣が、ミュレの背中に書き込まれる。
その中で。
無数の黒炎は、【明星の】光にあてられるように全て溶けていく。
「私のスキルも、強くなったのよ」
笑う【明星の】
「さて。邪魔ね」
そう言った後。
【明星の】が作った光の玉が光る。
一瞬。
ばっさりと羽を切り裂かれる空竜。
瞬間移動する暇すら無かった。
落ちていく空竜は、落下しながら突然その姿を消した。
「あら。あの竜も持ってたのね。転移を。まぁ。竜は、あと一匹いるから、大丈夫かしら」
【明星の】は、ゆっくりと俺達を見る。
「さて、降りていった、竜さんを持って帰るとしましょうね」
薄く笑う彼女を見ながら。
俺は、自分の槍を握り直すのだった。




