空竜の襲撃
評議会では、最悪だった。
二人して、再び弾劾裁判をされているような気持ちになってしまった。
ミリエルは、何度も暴走しそうになり、その度にその体を抑えたり、その腕を掴んだりして暴走を抑えるのに必死になってしまった。
一番危なかったのは。
「こんな若造が、それほど強いわけがあるまい。どうせ詐欺なのであろう」
「自作自演など、クズのする事」
などといった暴言が飛んだ時だった。
「妾の夫を辱めるとは。夫に代わり、全てを灰にしてくれようか」
などと言って、魔力をため込み始めた時は、本当に焦った。
ビットをこっそり展開し、結界発動をいつでもできるようにするほどには。
「あんな奴ら、助ける価値も無い。一緒に吹き飛ばしてもらって構わなかったのにね」
などとドンキが笑っていたりもしたのだが。
ドンキ曰く。
「町だけ拡大させ、その利益を吸い込み、ぶくぶく太った豚たちだよ。その肉をバラまいてあげれば、助かる命は大量にあるだろうね」
との事だった。
「この町はね、中心部は活気もあり、飢える事は無いのだけど、外側に行くごとに悲惨になっていくんだよ。最外層に至っては、ほぼスラム状態になっている。飢えで人が人を喰らう地獄だよ」
そう呟く。
俺達は、空から飛んで中央部に来たから、分からなかったのか。
その言葉に、俺が何か出来ないか考えていると。
「何かしようと思っているのなら、無駄だよ。この町は、全ての利益が、ここ。中央に集まるように作られている。外でいくら食料をバラまこうが、結局中央の人間がその肉を食べてしまうように、物流の流れが出来ているんだよ。人を殺しても、気にしない人たちによってね」
ドンキは、呆れたといわんばかりに呟く。
「ほんとうに、クズしかいないよね」
最後の言葉は、自分に向けた言葉なのか。
それは、誰にもわからなかった。
とりあえず、評議会では、これ以上竜人が襲ってくる事は無い事。
キンカが、ダライアスに何かを仕掛ける気は無い事。
冒険者を集めている事に対しての謝罪と、他意は無い事を説明していた。
結局、最後だけは納得してもらえず。
大量の食料、キンカの馬、千頭。キンカの豆 1トンという、膨大な量を請求されてしまっていた。
だが。
「豆は、渡せない。馬もだ。だが、ここに、私の親友がいる。彼が、その請求に見合うだけの物をお渡しできるはずだ。それで、今回は収めていただきたい」
ドンキは、そう言って、俺に全部振ってきた。
仕方なく、俺はため込んでいた、魔物の肉、素材、大量の水、塩をほぼ全て放り出した。
多分、時価で行けば、請求されていた物の価値よりはるかに上になったはずなのだが。
「まだ足りぬが。これからも、定期的に収めるのなら、不問にしよう」
などと言いやがった。
俺もその時は、キレそうになったのだが。
ドンキに止められた。
後で、ドンキは、にやりと笑っていた。
「シュン君は、彼らに命令されるような立場じゃないからね。欲しければ、取りに来いと言うつもりだよ。彼らには、そこまでする覚悟も、気持ちも無いから気にしなくていいよ」
ドンキは、全力で踏み倒す気だった。
そんなこんなで、ダライアスの評議会を黙らせる事が出来た後で。
ドンキは、何かバランと話をしていた。
すさまじくもめていたようにも見えたのだが。
最終的に、バランは、ため息とともにドンキと手を結んでいた。
俺達が一息つき。
数日ゆっくりした後、キンカに帰ろうかと話をしていた時。
いきなり空が真っ暗に染まった。
町がいっきに騒がしくなる。
その中で。
「父上!」
ミリエルが叫び、空へ飛び上がって行った。
「おいかけるの!」
ミュレが、神獣化する。
俺と、ミュレは、その背中に乗り、上空に舞い上がる。
全力で飛んでいるらしいミリエルに追いつけない。
そんな中。
空中で、黒い光が弾け飛ぶ。
さらに加速するミリエル。
俺達がその光の正体にたどり着いた時。
上空にいたのは、ボロボロの竜の長だった。
「父上!」
ミリエルが叫ぶが。
「来るでない!お前は、兄とともに、竜の町を動かす手伝いをせい!」
そう叫ぶ。
その長の前にいたのは。
黒い巨大な竜であった。
「手を出してはならぬ!空竜様じゃ!」
俺がビットを展開した瞬間、叫ぶ長。
ミリエルは、その言葉に動きをとめてしまう。
空竜は、ゆっくりと羽ばたき。
リュイが使うような、黒い球を無数に生み出していた。
その全てが、一気に長に向かい飛んで行く。
「ふぬぅ!空竜様といえど、我が息子たちは守ってみせる!」
長が一気に結界を張り。
その黒い球は、長の結界をちぎり飛ばしながら、竜の町を襲う。
激しく浮かぶ島が揺れるのが、この距離ですらわかってしまう。
「父上!何故、空竜様に襲われなければならぬのじゃ!」
ミリエルの叫びに。
「地竜様も、空竜様も、我らの神じゃ。それは間違いない。しかし、我らを守る守護神ではない。我らに、力を与えながら、我らを滅ぼすのも、地竜様と、空竜様なのじゃ」
激しく血を吐きながら、ミリエルに答える長。
俺は、空中に魔法陣を生み出す。
とりあえず、長の回復を図る。
「助かった。すまぬのシュン殿」
長は、その回復にお礼を言ってくれるのだが。
回復魔法を使った瞬間分かってしまった。
長の傷は、回復魔法で回復できる状態を超えている。
しかも、どういうわけか、地竜の加護でもある超自然回復が出来ていない。
その事に疑問を持った瞬間。
気が付いてしまった。
空竜の使っている物は。
「多分、同じ物です」
リュイも気が付いたのか。小さく呟く。
俺は、竜の島を見る。
竜人たちが、何人か倒れて動けなくなっているのが見える。
俺達は、武器を構える。
「ミュレ!長を助けるぞ!ミリエルは、島へ行ってくれ!大量に死者が出てる可能性がある!」
俺の言葉に、ミリエルは泣きそうな顔をしながら、竜の町へと飛んで行く。
「【黒炎】は、リュイだけしか使えないスキルじゃなかったのか」
俺は呟くが。
俺の呟きを無視して、飛んでくる黒い球。
俺は絶対結界で防ごうとすると。
結界に当たった黒炎は、炸裂し数を増やして、竜の町に襲いかかる。
しまった。
リュイの黒炎は、爆散するんだった。
それに気が付いたリュイが、自分も黒炎を飛ばす。
二つの黒炎は、空中でぶつかり、はじけ飛び消えて行く。
リュイは、必死に俺のビットを弾き飛ばし、追撃するのだが。
一瞬で無数に打てる空竜と、一発づつ飛ばさないといけないリュイでは、圧倒的に物量が違う。
「避けるの!」
「無理です!」
下手に防げない事が分かってしまった以上、落とせない球を避けながら、ミュレは必死に飛ぶ。
何発かは、確実に当たってしまっている。
「黒炎の性質。俺達にとって最悪だな」
俺は、小さく呟くしかなかった。




