要所都市
結局、これ以上人間の町への干渉も、復讐も絶対にしない事を長から約束された俺達は、そのまま、要所都市ダライアスへ戻る事にした。
「主殿。お腹は空いておらぬか?竜の肉は美味ぞ。いつでも喰ろうて良いからの。竜人の傷はすぐに戻るでの」
などと物騒な事を言い出す。
俺が地竜を倒したと知った後から、ミリエルは、奴隷よりも奴隷らしく俺の言う事を全て聞くようになってしまった。
ミュレに乗り、ダライアスに戻っている最中ではあるのだが、今も、俺から少し離れた所に座っていたりする。
少し離れてくれと俺が言ったら、寂しそうに座っていた。
逆に、リュイがこれ以上無いほどに俺にくっついているのだが。
ミリエルのスキルもデータベースで確認したのだが。
なんとも竜の王族らしいスキル構成だった。
【竜の統率】
竜を従える事が出来る。竜の王族に備わっているスキル。
【竜の生命】
地竜の加護。圧倒的な治癒能力を持ち、手足の欠損すら回復する。
【竜の魂】
空竜の加護。不老となり、時間を気にしなくて良くなる。
【竜の息吹】
竜の怒りの一撃。全力で打てば、キンカの都市くらいであれば、ほぼ吹き飛ぶ。
そんな構成を見ていると、竜人は、魔物に近い事が分かる。
いや、魔人と言うべきか。
オークのように、手足がちぎれても、すぐに再生できるのだ。
人間にも、エルフにも、ドワーフにも備わっていない力。
ただ、王族限定との事なのだが。
ミリエルが、自分の力を話している時にミュレがすごく羨ましそうにしていた。
「不老不死なの。年も取らないし、手足が、にょろにょろ生えてくるのは、怖いの」
自分の片手を見ながら、そんな事も言っていたが。
竜にとって、地竜、空竜は、加護を受けているだけあり、特別な存在なのだそうだ。
俺も、地魔法の加護に、自己回復の加護ももらっているから、その特別さは分かる。
他のワイバーンをいくら倒しても、こんな加護はもらえないのだから。
正直、この前出合った時に感じたのだが、【明星の】本気の継続ダメージすら、魔法回復付きなら耐えれる自信はある。
ただ、ほかの3人が耐えれないため、そっちの方が問題になるだろう。
いや。ミリエルは、自分で自己再生が出来るから、2人か。
そんな事を考えながら、俺は、ダライアスに降りて行くのだった。
ミュレは、冒険者ギルドの中庭にそっと降り立つ。
着地に、一切音がしないのはミュレもレベルが上がってきているからだろう。
そんなどうでもいい事を考えていたら、いつ気が付いたのかバランがドカドカと足音を立てながらやって来た。
「もう、帰って来たのか。で、どうだったのか?」
あきらかにぶっきらぼうな言い方をするバラン。
「あの、バラン様、一応、あの」
バランに付き添っている、明らかに文系の役人の方が、ぼそぼそと言っているが、一切取り合わずに、バランは、少し、怒りを含んだ目で見ている。
「大丈夫だ。もう、町は襲わない。約束を竜の長と取り交わして来た」
俺がそう言うと、バランは、信じられないといった顔をするのだが。
「シュン殿と、我が父上との約束じゃ。ギャルソンにも言い含めておった。もう、竜人が、今回の件が理由で襲い掛かる事は無い。ただ、シュン殿になにかあれば、全力で戦うであろうがな」
ミリエルは、俺の横ではっきりと言い切る。
「分かった。分かった。そんなに、怒らないでくれ。すまなかった。シュン殿。私も、いろいろと抱えていてね。どうしても、殺気だってしまっていたようだ。ほんとうに申し訳ない」
あっさりと、謝罪し片手を出してくるバラン。
俺は、その手をしっかりと握り返す。
「これで、無礼は、許してくれると助かる。これから、評議会なんだが、着いて来るかい?」
絶対に、断る事を知っているくせに、そんな事を言ってくるバラン。
にやりと口元が緩んでいるのは、絶対にわざとだと思う。
「あの空間には、居たくない」
俺の一言に。
バランは、大笑いをした後で。
「その意見には激しく同意だ。私も、あんな所居たくないんだけどね。今回は、そうもいかなくてね」
空中を、もう一つの影が横切る。
「来てくれたようだ。よかった」
バランの言葉に誘導されるように、一匹の犬鳥が舞い降りる。
その背中から降りて来たのは、見知った顔だった。
「ほんとうに、こんな年寄りを呼びつけるとは、もう少し老人を労わって欲しいものだけどね」
愚痴を言いながら歩いて来る、若ぶりな一人の男。
最後に見た時よりも、若返ってないかと思うくらい、背筋はしっかりと伸びている。
パリッとした、羽織のようなローブを着ておりそこには六文銭が描かれていた。
「ドンキ」
俺が声をかけると。
「ああ。シュン君もこっちに来てくれていたのだったね。いろいろありすぎて、すっかり忘れていたよ。それなら、これを着てくる必要は無かったかも知れないね」
そう言って、自分の服を整えるドンキ。
「お待ちしておりました。ドンキ殿。評議会がお待ちです」
バランは、そんなドンキに頭を下げる。
俺の方が、位は高いはずなのだがと思っていたのだが。
「私はね、地位よりも、品位を大事にするんだよ」
見透かされていたのか、あっさりバランに返される。
そんな俺達のやり取りをにこやかに見ていたドンキは。
「で、シュン君、その横の美人さんと一緒に、評議会に出てくれるんだよね」
にこやかに笑う。
俺は、嫌そうな顔をしたのだが。
「もちろん、喜んで、出てくれるよね」
と追撃されてしまう。
笑っていないドンキの目に。
俺は、小さくうなづく事しか出来なった。




