竜の長
「さて。どういう事か、説明してもらおうか」
長と呼ばれていた、ミリエルの父親は、王座とも呼べる立派な椅子に座りこちらを見ていた。
ミリエルの家に呼ばれた俺達は、長の前に立っているのだが。
俺の横で、ミリエルも、リュイも、ミュレすら震えている。
しかし、俺は何故かその青年に恐怖を感じなかった。
むしろ、親友のような、親しい気持ちがわいている。
相手の方が、明らかに年上なのは分かっているのだが。
データベースの検索によれば、長と呼ばれた竜の名前は、ダライアス。
そう。王国の主要都市の名前であり、町を作った最初の竜人。
その人だった。
年はといえば、すでに1万歳。
俺など、足元はおろか、あの青年のつま先すら生きていない。
「お父上、これは、妾一人の決断なのじゃ。分かって欲しい、、のじゃ」
ミリエルが、必死に話しているのだが。
言葉が震えているため、上手にしゃべれていない。
「ワシの一撃を耐えたからには、力は認めよう。されとて、娘をくれてやると認めるわけにはいかん」
長は、俺を見つめる。
直に見られたわけでもない、3人の足が震え出すのが分かる。
ミュレにいたっては、いまにも漏らしそうである。
そんな中、ミリエルの説明が続いていたのだが。
ミリエルの言葉を片手を上げる事で、長が止める。
「で、ミリエルよ。お前は、その男が好きなのか」
「一目見て、しびれてしまったのじゃ。さらにその強さを感じてさらに気になってしまったのじゃ。好きかどうかは分からんのじゃ。初めての事じゃったから」
「勢いで、夫婦になったか」
長は、少し優しい目になる。
俺は、その言葉に呆れるばかりだ。
初対面に、プロポーズするのも常識外れだが、彼女がやったのは、初対面の相手に無断で結婚届を出したような物だ。
メンヘラとか、そんなレベルすら超えている気がする。
泣き出しそうになっているミリエルを撫でてやる。
少しだけ、顔色が良くなるミリエル。
残りの二人も、俺にしっかりくっついている。
そんな状況の中。
突然、長は笑い始めた。
呆気にとられる3人。
俺は、そんな長にあわせて一緒に笑みが出てしまった。
「まぁ。ワシの娘らしいといえばらしい話じゃ。ワシも、そなたの母には、襲い掛かった方じゃからのぉ」
そんな事を言い出す長。
「しかし、【竜の覇気】が効かぬとは、シュンといったか。そなた、ホントウニ、ナニモノゾ」
最後は、低く、真剣な顔で俺を見る。
長が言った、【竜の覇気】なのか。周りの空気が一瞬に凍り付いたような気すらする。
殺気以上の、圧倒的な何かに包まれ。
ミリエルは、俺の手を離して、座り込む。
リュイは、俺の腰をしっかりつかみ。泣き出しているのが分かった。
ミュレは。
気絶していた。液体が漏れているのは、気にしてあげるのは可哀そうかもしれない。
俺は、そんな状況であるにも関わらず。
全く恐怖を感じていなかった。
確かに、圧は感じる。しかし、それは、親友が怒っている時のようで。
話せば、分かってくれると信じられる雰囲気を感じていた。
「【大地を総べる者】」
俺は、長にそれだけ伝える。
それを聞いた長は、目を見開く。
「馬鹿な!おぬし、人間であろう!あり得ぬ!いや。儂の覇気を受け付けず、娘をワシをここまで惹きつけるのであれば、あり得るのか。その娘も」
ミリエルが、上目で俺を見て来る。
その視線が、妙に可愛く感じてしまい、また彼女の頭を撫でていた。
しばらく考えるように、顔に手を当て俺を見ていた長だが。
「いや。認めよう。ワシでは恐らくおぬしに勝てぬ。そこまでの力。人では絶対にあり得ぬが。転生者、転移者ですら、あり得ぬが。認めるしかない。最強の一人であると」
長は、ミリエルを見る。
「まったく、とんでも無い男を捕まえて来たものだ。末娘は」
長は、それだけ言い、ミリエルを優しい目で見つめているのだった。
気が付けば、凍り付くような殺気というか、気配はなくなっている。
ミリエルが、震える足をなだめながら立ち上がろうとすると。
「認めよう。シュン。竜の長に連なる事を。ワシの末娘の婿として。いや、末娘をそなたに嫁に出す事にしよう。竜の中の竜。地を守る竜。地竜に並び立つ者ならば、拒否する事すらワシには出来ぬ。ワシの末娘。自由にするがいい」
それだけ言うと、どっかりと椅子に座りなおす。
ミリエルが、突然の父親の変わりようにとまどっていると。
「ミリエル。ワシが、知らぬと思ったか?全て知っておるわ。ギャルソンの暴走もな。ただ、ギャルソンに言っておけ。地竜を倒した者と、戦えた事を誇りに思い、子らを殺された事を水に流せとな。恨みはあろうが、これは、長の命令だと。伝えておけ」
その言葉に、ミリエルが固まる。
「後ろの娘。そなたの一番なのじゃろう。地竜様の甲羅からつくられた鎧など着ておれば、疑う事すら出来ぬ。地竜様と会った人間は、全て溶かされ消えておるはずじゃからな」
ギギギと、ミリエルの顔が俺の方を向く。
「なんじゃ、気が付いておらぬのか。最強の夫じゃ。逆らうなよ。ミリエル」
その言葉に、ミリエルは、何度もうなづいたのだった。
「そんなんだから、いつまでも、一人前になれないんだよ」
ふと、横から声がかかる。
俺が、その方向を向くと。
一人の竜人が立っていた。
「親父が、俺を呼んだのは、このためか。まったく、こんな化け物を捕まえてくるんだから、ミリエルらしいというべきか」
「兄上!」
ミリエルがびっくりした顔をする。
「はじめまして。長兄のアスタだ。他の兄弟もいるんだが、全員、世界中にちらばっていてね。ミリエルの兄弟は多いからね」
竜人の青年は、にこやかに笑い、長を見る。
「ワシらの神を、屈せし者ぞ。これで、竜人の未来にも光が見える」
長も、笑って、俺達を見ていたのだった。




