竜の町 天空の王
天高く飛び立っていく黒い猫を見ながら、バランはうっすらと笑っていた。
突然、竜人の姫を連れて訪問して来て、竜人の村に行くと言ったのは昨日の事だ。
はっきりいって、びっくりしたというよりも、この町から、シュン達一行がいなくなってくれる事に安堵していた。
「まさか、4Sと戦うとか、ありえないと思っていたし、町の人間が、4Sを倒すとか言い出すとは思わなかったが」
シュンたちがいなくなる事で、少しは過激派も落ち着くと思いたい。
こんな町など一瞬で消し炭にしてしまえるであろうシュンと戦うなど、無謀でしかない。
そんな事を思いながら、飛んでいく黒い猫を見送り。
すぐに真剣な顔に戻る。
「キンカに送った、冒険者は、まだ着かないのか!報告はどうした!」
「キンカに、到着はしたと思われます。通信手段は無いため、分かりませんが」
その言葉に、軽く舌打ちするバラン。
「ギルドチャットくらい出来るようになれよ」
小さく呟くバラン。
そう。
冒険者ギルドをまとめあげる、バラン・バラスと言う男は。
記憶を持つ、転生者だった。
彼が持つスキルは、【魅了】【統率】
戦いには向いていないが、リーダーとして、人を動かすには十分なスキルだった。
そして、彼は。
「ドンキを呼び寄せて、はやく言い訳をさせないとな。シュンが居なくなった今、評議会のやつらが、本気でキンカへ攻め始めかねん。負けるとは思わんが、ゴーレムなんか出して来たら、大量の死者が出るぞ」
意外な、策士でもあったのだった。
バランは、そんな不満を抱えながら自分の雑務へと戻って行く。
ダライアスの冒険者ギルドは、今日も大量の冒険者を王国の各地へ送り出すのだった。
「ここが、私たちの里です」
ギャルソンが、黒い猫の横から、指さす。
そこには、島が浮いていた。
地上から見ても絶対に分からないと思う。
「どうやって浮いているんだ?」
俺が興味本位で聞いて見るも。
「妾たちも、何故この島が浮いていられるのかは、まったくもって知らないのじゃ」
ミリエルは、困った顔をしていた。
「エルフの寿命が千年単位であるなら、妾たちの寿命は、万単位じゃ。しかし、その万単位の知識を持ってしても、この島が浮いている理由がいまだに 分からぬのじゃ。知っている事があるなら、妾達が知りたいくらいなのじゃ」
そんな所によく住んでいられると思うのだが。
考えたらきりがない。
そういう事なのだろう。
自分達は、疑問は、そのまあ一旦置いて置いて、その島に降り立つ。
俺が降りた時、何事かと集まって来ていた、羽を持った数人の人達が、俺に向かって槍を突き出していた。
その槍は、どう見ても魔物の骨から削りだした物だ。
「ナニモノだ!」と警戒しているのだが、俺は自分が使っている武器と似た武器の方が気になっていた。
俺が物珍しく見ていると。
ミュレから、ミリエルが降りて来る。
その横には、ギャルソンも降り立つ。
その光景に、槍を突き出していた竜人達が、動揺していると。
ミリエルが、俺の腕に絡みついて来る。
まるで、そこが定位置と言わんばかりに。
リュイが、ミュレが不機嫌になるのが分かる。
しかし、竜人たちはそんな事より、ミリエルが手を絡ませた時に見てしまった物の方が衝撃だったらしい。
「ミリエル様!その者は、ナニモノなのですか!なぜ、婚姻の証がその者にあるのですか!」
「まさか、ミリエル様!竜人の誇りをお忘れになったのですか!」
ミリエルが手を絡ませている腕には、蛇の入れ墨のような物がしっかりと入っている。
それは、ミリエルの片腕にも入っており、二つで一つの絵柄となる物だ。
そう。それは、竜人にとっては婚姻の証。
その印がある事に、その意味に竜人達が騒ぎ続けている。
「ギャルソン!」
町を襲って来た、竜人を問い詰めようと他の竜人達が叫んだ時。
「待ちたまえ」
一人の青年が、声をかける。
こちらに来る青年を避けるように、道が出来てい行く。
ミリエルが、俺の腕を力いっぱい抱きしめるのが分かった。
俺がミリエルを見ると、彼女の額に汗が浮かんでいる。
近づいてくる青年を改めて見る。
そこで、俺の中でアラームが鳴り響いた。
一瞬。
青年が、手を伸ばしたのと。
俺が結界を地面に突き刺したのと。
リュイ、ミュレが俺の後ろに隠れたのと。
ほぼ同時に、俺の視界は真っ青に染まる。
「父上じゃ。恐ろしく怒っておる」
ミリエルが、震えているのが分かるが。
俺は、そんな彼女を撫でてやる。
後ろで、二人が何か言っているが。
仕方ないじゃないか。おしかけ女房の二人目なんだから。
彼女の震えが治まる頃には、青い光は落ち着いていた。
絶対結界の力も上がっているのか。
いや、俺自身に、余裕ができたのかも知れない。
地竜の力を防ぎ切った絶対結界を、破壊できるとは思わなかった。
「なるほど。それなりの力はあると見た。ようこそと言うべきなのかな。婿どの」
青年は、笑みを浮かべながら俺を見て来るが。
その目は笑っていなかった。
「ここで立ち話もなんだ。着いて来なさい」
青年はそう言うと、歩き出す。
俺達がその後を追いかけようとしたとき。
今まで俺達を取り囲んでいた竜人たちが後ずさりしていく。
「長のブレスを防ぐとか、化け物か?」
「地竜様のブレスだぞ。防げるはずがない」
そんな言葉すら聞こえて来るが。
実際に受けた俺なら分かるけど、地竜のブレスの6割くらいの威力だし、熱もそれほどきつくない。
本来の地竜のブレスなら、地面ですらガラス化してしまうくらいの高熱が襲い掛かって来て、本来なら蒸し焼き確定である。
そう考えたら、よく生きてるよな。
俺は、ふと、ミリエルの反対側にいるピンク色の髪の少女を見る。
リュイは、そんな俺を見つめ返し、少し首をかしげる。
俺は、普通にリュイに笑い返す。
地獄を切り抜けた彼女も、相当強いのだと改めてかみしめながら。




