竜の赤い血
「もう少し楽しませて欲しいのにね」
女性は、にこやかに笑いながら、俺達を見ている。
「だって、せっかく初めて見た竜人ですもの。一人くらい持って帰りたいと思うでしょ?」
笑みを絶やす事なく、呟く女性。
そんな女性を見ながら、俺は、全身の痛みに耐える。
ミュレがうめき声を上げていた。慌てて彼女を見ると、かなり苦しんでいる。
羽が溶けだしているのも見えた。
痛みで苦しんでいるミュレの口に俺のビットを放り込む。
一瞬回復するが、すぐに溶け始める。だが、諦めずに、俺は続けて、ミュレの回復を図る。
リュイを見ると。彼女は、分かっているかのように俺のそばに来た。
彼女の体もかなりひどい事になっている。
しかし、それでも痛みを無視したかのように。リュイは耐えている。
痛みを無視して。
俺は、痛みで悲鳴を上げている自分自身の体をを叱り飛ばし。限界に近い回復魔法を発動させた。
『守る』
俺の思いに反応しかたのように、地面に巨大な魔法陣が生まれる。
魔法陣から緑色の光が、ゆっくりと立ち上る。
サンクチュアリとか言われる事もある、継続回復をし続けてくれる領域を作り出す。
竜人の少女と、男もびっくりした顔をしていた。
敵だった二人まで、回復の範囲に入っていたからだろうが、そんな事は気にしてもいられない。
リュイと、ミュレの回復が最優先なのだから。
「あら。面倒な魔法を知っているのね。坊や」
ゴスロリ服を着た女性は、自分のスキルが弱体化された事を感じて、俺を睨む。
しかし、ふと微笑むと。
「少々溶けててても、連れて帰りたかったのだけれど」
そんな事を呟き。
「殺しても、大丈夫かもね」
居直ったかのように、俺をにらみつけた。
そのとたん。
空中に浮かぶ光の玉から、光の線が伸びる。
俺はとっさに、結界を張ったのだが。
光の線が、結界に受け止められる瞬間。
激しいアラームが頭の中で、鳴り響いた。 地竜の一撃を思い出す。
俺は、反射的に、リュイと、竜人の少女を抱えその場から跳んでいた。ミュレも、俺と感覚を一体化しているため、何かを感じたのか、溶けた羽を必死に羽ばたかせ、一緒に飛ぶ。
結界をあっさり押し切り、光りが地面に着弾した時。激しい爆発が、地面で起きる。
いや。爆発というよりは一瞬で地面が溶けていた。
ガラスのような光を放つ地面がそこにあった。
「ギャルソン!」
竜人の少女が、俺の腕の中で叫ぶが。
「大丈夫。俺の結界と相打ちで、なんとか防げた」
俺の言葉と、再び吹き飛ばされていた、竜人の男が、少し動く姿を見て、安心した顔をする少女。
「あら。私の奥の手を受けて、誰も死なないなんて、本当に強くなったわね。坊や」
そう笑う女性に俺は寒気を感じていた。
何か、彼女に、束縛されるような。掴まれるような錯覚すら覚えてしまう。
「【皇の】が、欲しがると思うのよね。あなたの腕の中にいる子。どっちかくれないかしら?」
その言葉に、震え出す、リュイと、少女。
俺のすぐ後ろで、ミュレも振るえていた。
緑色の光の中で、俺は女性を見上げる。
再び。女性が、笑い。
彼女のそばに浮かぶ光の玉が激しく光る。
俺の絶対結界がその光を防ぐ。
ビットは、全て溶かされてしまうが。
地面に直接張った絶対結界は、溶かされながらも、光の線を防いでくれる。
「地竜かよ。本当に。バケモンが」
俺は笑いを浮かべながら、その攻撃に耐える事に全力を注ぐ。
何秒光の中にいたのだろうか。
俺が身動きできずにいると、ゴスロリ服の女性は、ふと突然、空を見上げるようなしぐさをする。
「あら。そう?え。いいの?うん。今から行く。いや、すぐ行くから。待っててよ。うん。いっぱい愛してね」
そんな事をぶつぶつと話すと。
「ちょっと、用事が出来ちゃった。またね。坊やと、お嬢ちゃんたち」
そう言い残して、ゴスロリ服の女性は、空高く飛んで行ってしまう。
彼女が見えなくなったのを確認して、俺は地面に手をつく。
リュイと、竜人の少女も、俺を心配するように撫でてくれる。
ミュレは、泣きながら俺の足にしがみついていた。
さすがに、魔力切れだった。やり過ぎたか。
4S。 【明星の】
とんでもない化け物だ。
範囲内の全てを溶かしてしまう、光を放つ玉を生み出すスキル。【明星】。
回復魔法だけで、俺の莫大な魔力を使い切りそうになるとは思っていなかった。
俺の最大の武器でもある、魔力ビットを全て溶かされてしまう彼女のスキルは、ある意味、俺にとっては、天敵なのかもしれない。
いや。
4S全員が、化け物なのだ。
俺が動けないでいると、竜人の少女は、ふと、後ろを見る。
町を襲った竜人の男が倒れている。
その周りには、本当に動けなくなっている冒険者の大群。
全員、武器防具が溶けており、かろうじて俺の回復領域のおかげで、死ななかった人もいるようだった。
「あれが、4S。敵にすると、勝てる気がしないな」
バランが、せき込みながら呟くのが聞こえて来る。
しかし、気丈にも立ち上がると、竜人の男に溶けた剣を突き付ける。
「それでも、お前は討伐させてもらう」
少女にギャルソンと呼ばれた男は、動けないのか、不敵な笑みを浮かべてバランを見る。
バランが男に剣を突き立てようとしたとき。
竜人の少女は、俺の肩に突然かみついた。
「痛てぇ!」
俺が叫んだ声に、手が止まるバラン。
「姫さま!ダメです!そんな奴に!やめてください!」
俺にかみついた少女を見た、ギャルソンまで叫んでいた。
俺が少女を引き離すと、少し肉を食いちぎられてしまっていた。
慌てて、回復魔法をかける。
呆気にとられてる、リュイとミュレの目の前で。
少女は、俺の肉を飲み込み。
自分の腕の一部を噛みちぎり。噴き出す赤い血を気にもせずに。
俺にキスをしたのだった。
そのまま、少女の肉が俺の口の中に入って来る。
押し込まれて来る肉を思わず飲み込んでしまう。
その瞬間。
俺と、少女の体が、光り。
俺の手と、少女の手に入れ墨のような紋様が浮かび上がる。
それは、二人が手を絡ませると、一つの絵になるようだった。
絡み合う、二つの蛇が、お互いを食べ合う絵柄。
ウロボロス。無限の蛇。
昔の地球で聞いた事のある絵が頭に浮かぶ。
少女は、バランの方を向くと。
「妾は、竜人の姫である!そして、今、この男の物となった!よって、竜人は、全てこの男の物である!此度の件、まことに申し訳ないが、妾達にも、理由がある!この男とともに滅ぼし合いたいのであれば、その男を貫くがいい!」
声高に叫んでいた。
その言葉に。
全ての冒険者も、バランも剣を降ろす。
そんな中。俺の回復領域はさらに広がっていく。緑色の光は、範囲を徐々に広げ。
【明星の】スキルで、傷ついてしまった全てを癒し続けていた。
評価などしていただけると、本当に嬉しいので、ポチポチとしていただけると本当に嬉しいです。
後、
敵である4Sは、全員、対多数を殲滅できるスキルを持っています。