竜人
「シュン様。これ、買って帰っていいですか?」
リュイが、子供の服を持って来る。
腰のあたりにフリルが付いた、可愛い服だ。
うっすらとピンク色なのが、シリュの髪の色に合いそうだった。
俺がうなづいていると。
「シュン!これ買って帰るの!」
ミュレが持って来たのは、革で作ったような、指ぬき手袋。
「いやいや」
俺が、反対すると。
「えー絶対、二人に似合うの!」
と言い張るのだが。
「その手は、俺が作った方がいいのが出来るから、却下」
その一言で、ミュレは、しょんぼりと肩を落とす。
もう、16になるのに、ミュレは、いつまでも、子供のようだ。
そんなミュレの頭を撫でていると。
「これなんか、いいんじゃないです?」
リュイが持って来たのは、藍色のローブ。
「ダサいの」
ミュレが小さく呟くのだが。
「ハードレザーを作ったら、合うかもな」
俺の言葉に、ミュレは顔を上げる。
「ミュレも、手伝うの!」
その服を片手でしっかり握りなおして、ミュレが俺を見る。
俺は、思わず吹き出しながら、ミュレを抱きしめてやる。
ミュレがきょとんとして。
リュイの顔が少し膨れた時。
上空から、光が見えた気がした。
頭の中でアラームが鳴り響く。
『敵襲です』
データベースの声が、少し怒りを含んでいるような気がするのだが。
そんな事を気にする事も無く。
上空で、光が爆散する。
「なんです?」
「びっくりなの!」
二人が叫ぶが。
上空に張られた、超巨大な絶対結界が上空からの攻撃をはじいたのだ。
毎日、毎日。
町を練り歩いて、買い物を無意味にしていたわけでは無い。
行く先で、大量の魔力ビットを上空に設置し。
移動させ。
バリアの準備をしていたのだ。
いきなりの爆風に、慌てふためく町の人を見ながら、俺は上空を見る。
一人の男が、羽を広げたまま、空中に立っていた。
「神獣なの?」
ミュレが呟くが。
『竜人です。竜の力を持つ、神のような生物です』
データベースの返答が即座に返って来る。
その言葉を聞きながら。
再び男が、魔力を集めるのを確認する。
「ミュレ!」
「はいなの!」
即座に、ミュレの背中に乗り、上空に飛ぶ俺達。
リュイは、そんな俺達を見ながら、近くの住人達の避難や、誘導を始めていた。
男は、無表情に、魔力がはじかれた事を感心していた。
これほどの魔力弾をはじき返せる結界を張れる者がいるのなら、ぜひ会ってみたかったものだと思いながら。
先ほどとは全く違う量の魔力を集める。
着弾すれば、この町に巨大な穴が開くだろう。
だが、関係ない。
家族のような物であったワイバーンを大量に殺されたのだ。
男の怒りは、深いものだった。
手に作り出した、超爆発の魔力弾を打ち出す。
その数秒後。
自分の目の前で、その魔力弾は、爆発した。
爆風に飛ばされそうになるのを必死に耐える。
その爆風が収まった後、目の前にいたのは、三本足の黒い獣。
しかし、その雰囲気は知っている。
「神獣とは。懐かしいな。見たのは、数千年ぶりか」
男がそう言った瞬間。
彼の羽は、切られていた。
「ちょっと、卑怯なの」
ミュレが呟くが、そんな事は関係ない。
「相手だって、宣告なしで、あんな魔力弾を撃って来たんだ。お返しだよ」
俺は、そんな理屈をミュレに返す。
相手の魔力弾を、男の目の前で防ぎ。その爆風に隠して、切断結界を奴のすぐそばに滑り込ませた。
町を破壊できるほどの魔力弾でも、絶対結界は破れない。
しかも、この絶対結界は、別のビットに拘束する事で、吹き飛ばされにくくしてある。
地竜のブレスにさんざん吹き飛ばされ、考えに考えた空中固定ビットだ。
ただ、本当に固定されるため、一回解体しないと動かせなくなるのは困りものだし、一瞬で作り出せない欠点はあるのだけれども。
羽を両方切られ、落ちていく竜人を見ながら、俺は呟く。
「そのまま、死ぬわけないよな」
地面に落下した男は、ゆっくりと立ち上がる。
キーキーと何か叫んでいるが。
データベースの翻訳機能が、卑怯者や、その程度で、俺は倒せんなど、叫んでいる事を教えてくれる。
俺は、ゆっくりと自分の武器を取り出す。
その姿を見た男はにやりと笑うと、口を開ける。
ミュレが、体を小さくするが。
口から出たドラゴンブレスは、俺達の目の前で絶対結界に防がれ。
何も起きなかった事に唖然とする男を、俺は槍の柄で殴り飛ばしていた。
吹き飛ばされ、建物を崩壊させる勢いで壁にめり込む男。
「竜より竜らしいの」
ミュレの言葉が、少し突き刺さるが、関係ない。
俺が、追撃をしようとしたとき。
黒い球が空中で大爆発を起こす。
リュイが、空を見ているため、俺が顔を上げると。
そこには、リュイより少し背の高い少女が浮かんでいた。
追撃しようとした俺に向かって、上空の少女が、俺に向かい何かの魔法を使ったらしい。
リュイの黒炎が撃ち落としたみたいだが。
データベースの索敵にすら引っかからなかった少女は、俺達を見ながら、ゆっくりと降りて来る。
そして、地面に降り立った時。
少女は、両手を上げたのだった。
明らかに降参のポーズ。
呆気に取られている俺達の前で。
「いやいや、まさか、妾の渾身の魔法を、撃ち落とされるとは思わなんだ。さすがに、これ以上やりあっても、お互いに得は無かろう?ここは、妾に免じて、痛み分けとしてくれんかの?」
少女の言葉に、男が何か叫ぶが。
「うるさいわ。妾の忠告を無視して、降りて来たのは、主じゃろう。ドラゴンブレスすら防がれて、何をしようと言うのか」
うなだれる男に。
「こう見えても、この男は、竜人の中では必要な男でな。見逃してくれんか?もし、見逃してくれるなら、妾を好きにしてもよいぞ」
少女の言葉に、男がさらに叫ぶ。
その言葉に、姫と言う言葉が混ざっていたのは、気のせいだろうか?
そんな時。
大量の冒険者と思われる、フル装備の大群を連れて、バランが走って来るのが見えた。
「潮時かの」
そう少女が呟いた時。
俺の体に痛みが走る。
データベースが遅れて激しいアラームを鳴らす。
俺が上を見ると。
ゴスロリ服を着た女性が、うっすらと笑いながら空中に浮かんでいた。




