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女神の事情だよね?

「驚きました」


赤い光と、炎に完全に包まれたと思っていたのだが。

突然、何も見えない真っ白な世界に突然放り込まれ、茫然としていた俺の耳?に、突然優しい声が聞こえた。


自分の全身全てが光りに包まれていた。

いや、そう思っているだけかもしれない。

魔法で吹き飛ばされた時のような浮遊感でも無く。

体中、すべてがふわふわしていた。まるで、空を飛んでいる感覚のようでありながら、しっかり地面を踏みしめて、立っているような安心感すらある。浮いているのか、立っているのか。

自分でもまったく分からない場所。


「?」


突然聞こえてきた声に返事をしようとする。

しかし、何かを喋ろうとするも、開いた口からは、言葉らしい音は何も出て来ない。

うめき声だけが喉から漏れるだけだった。

そりゃそうだ。ここ何十年、独り言すら喋って来なかったのだから。


俺が口を開き、うめき声をもらしていると。

優しい声が響いて来た。

「あ、話さなくても良いですわよ。ここでは、思うだけで、わかりますから」

いや、頭に直接聞こえたと言った方がいいのかも知れない。

鈴を転がしたような、穏やかな。透き通った声。


『何処だ?何処にいる?』

思わず、心で叫ぶ。声は聞こえるが、姿は全く見えない。

声から女性のように思えるのだが。


「私は、ここにいますよ。そして、ここは創造の狭間。世界と世界の間にある世界です」

穏やかなな声で心の叫びに返事が聞こえる。

いや、今聞こえている言葉が、言葉というものでは無い事にこの時、気が付いた。

心に、頭に直接染み渡るような音。いや、言い換えるなら思念。

伝えたい事のニュアンスを含んだ気持ちそのもの。波動。

いろいろな言い方はあるかもしれないが、それは言葉では無い何か。

テレパシーなんてのは、こんな感じなのかも知れないとバカな事を思う。


今、語り掛けて来てくれる女性の声の、優しい、穏やかな意思が俺の頭の中で、言葉となり、心にしみわたる。

意思を向ければ、優しそうな、女性のようなシルエットを持った巨大な何かが空間にいた。


大きさなど分からない。しかし、そこにいると分かる。


「本当に驚きました。あの世界に、生き残りの人がいたなんて」

女性は、驚きの波を送って来る。

『気がついたらいた』

咄嗟に俺は心の中で返答をする。いや、思ったと言った方がいいのかも知れない。

「そうですね。何かの現象が起きて、転移してしまったようですが、あの世界で、あれだけ長い間、生き延びる事が出来た。それだけでも凄い事なのですよ」

『必死』

「それでもです」

ふわりと頬を、俺という存在を撫でられ、俺の心は解れて行く。

辛かった数十年がそれだけで、報われたような心地よさだった。

女神。彼女の事は、そう言うのが正しいのかも知れない。


「そして、困った事になったのです」

女神というか、その存在そのものともいうべき女性が困惑の波動を出す。

「あなたが巻き込まれた、あの星の崩壊。あれは、あの世界。あの星。あの宇宙の崩壊を意味していました」

困惑したまま、女神は続ける。


「そして。あの世界は、他の世界と近付きすぎていて、崩壊と同時に、他の世界も全て崩壊させて行ったのです」

『他の世界?』

「ええ。あなたがいた、地球と呼ばれていた星のあった世界も巻き込まれて崩れました。今は、時を巻き戻して、崩壊を防ごうとしているのですが」

さらに激しい困惑が女神から聞こえる。

その波動で、理解できてしまった。


『無理?』


「はい、すでに、1《ナユタ》くらい試したのですが、全ての崩壊が止まらないのです」

困惑の波動を出したまま、女神が続ける。


「そこで、あなたにお願いがあるのです。あの世界に再び行き、世界崩壊のきっかけとなる、大進撃を止めていただきたいのです」

再び、頬を撫でられる。

穏やかな気持ちで、疑う事もなく、その言葉が心の中に染み渡る。


『大進撃?』


「はい。あの世界の全ての魔物、獣が、生き物。特に知的なものを抹殺するために移動し、地上を埋め尽くすのです。いつも、世界の崩壊は、その大進撃が始まりとなっていました。それは姿を変えて。場所を変えて。時間すら変えて、いつか必ず起きるのです。」


『数は』

敵の数は、数千万とか、数百万だろうか?

そんな事を思っていたら、とんでもない返事が返って来る。


「およそ10億です」


『無理。無理。無理』

そんな数、見た事も無い。

一人で倒せる数じゃない。生き残る事なんて、夢のまた夢だ。


「分かっています。しかし、最後まであの世界で生き残っていられた、貴方なら、生き延びる事が出来るかも知れません。もし、あなたがいれば。あなたを通じて、あの世界に。この世界の、世界の狭間の力を、私の力を少しずつでも送り込めそうなのです。その力があれば、何とかなると思うのです。どうか。お願いします。私を助けてはいただけないでしょうか?」


『絶対無理』


「分かってます。しかし、あなたの存在があれば、いろいろ行える事が増えるのは確実なのです。どうか、お願いいたします」


本当に申し訳ない、助けて欲しい、お願いしますの波動が次々と溢れる。それは、一万回のお願いよりも深いものだった。


『はあ・・・』


諦めのような感覚とともに、俺は腹をくくる。

ここまで真剣に、深くお願いされたのは、俺の人生の中で初めてだった。

少しだけなら、助けてあげてもいいかも知れないと。そう思えるほどには。


「本当に、本当にありがとうございます。あなたに私が贈れる全ての祝福を」


了承してしまった時から、俺の意識はゆっくりと消えていく。


「全ての記憶は13才になると、思い出せるようにしましょう。全てを背負える幸せをあなたに。そして、救いのない、あの世界をどうかお願いします」


女神の意思とともに、俺の意識は光に溶けていった。


不吉な一言が気になりながら。





2021 7 28 軽い修正行いました。

2021 8  3  大幅修正しました。

2023 1 修正かけました

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