冒険者最高峰という事
空を飛び。
普通ならとんでもなく時間がかかる距離を、ほぼ一日で飛んで来た俺達は、その破壊された町を見て、あっけにとられていた。
王国、首都ダライアス。
その規模は、東京23区はおろか、周りの首都圏内といわれる地域全てを含めた広さがある、超巨大な町である。
1000万以上の人が住む巨大都市。
高層ビルが立ち並んでいるわけではないのだが、圧倒的な広さの町のためキンカや、ドウタツにあるような、高い塀や壁、城壁すらない。
襲える物なら、襲ってみるがいい。圧倒的な兵力で返り討ちにしてやる。
そう言わんばかりの巨大都市なのだ。
しかし、その巨大都市が。
空中から見てすぐに分かるように、綺麗に4つに裂かれていた。
「これは、酷いと思うです」
リュイが小さく呟く。
俺も、その光景を見て、思わずうなずいてしまう。
そんな地獄のような十字架を見ながら、俺達は、貴族たちが住む中央区画に降りて行くのだった。
「お前のせいで!」
降りた瞬間。
突然一人の男から罵声を浴びせられる。
明らかに、高価な、豪華な服と、ローブを着たその男は、すぐにこの町を支配する、特権階級の一人だと分かった。
「卿、少し落ち着くべきです」
他の一人がその男をたしなめる。
ふと見ると、数十人の男が、俺達をいつの間にか取り囲んでいた。
「シュン殿。で良いかな。ようこそ、ダライアスに。と言いたい所ではあるのだが、今回の件。隣の国の王族であろうとも、許せるものでは無い。いろいろと話を聞きたいので、付いて来てもらってよいかな」
その中の一人。
初老の男が、進みでて、俺をにらむように見つめて来る。
その男たちに連れて行かされた先は、広すぎるほど広い屋敷だった。
誰かの家では無く。
この国の政治を行うためだけに作られた、議会のような物だという事は分かった。
そして。
凄まじく多くの人が周りを取り囲む中。
大量の椅子と、人が取り囲む中で、俺たちは裁判の受けるかのように、その中心の証言台のような場所に連れて来られていた。
周りにいる大量の貴族たちから、絶えず罵声が飛んでいる。
そんな中。
俺に声をかけた初老の男は、その中で一番高い場所に立ち。
「シュンリンデンバーグ殿で間違いないか?」
と尋ねて来る。
俺は頷くが、ミュレが、小さく「嫌な雰囲気なの」と呟くのが聞こえる。
「これより、今回の災厄について、聞き取りを始める!」
そう宣言される。
そこからは、質問と言うよりは、尋問だった。
「お前は、ナニモノだ?」
から始まり。
「ダライアスを壊滅させるために、竜族をけしかけたのか」
「乗っ取りに来たのか」
「キンカは戦うつもりなのか」
「むしろ、帝国からの宣戦布告か」
などなど。
ひどいのになると、今、ここで俺の首を跳ねて、献上すれば丸く収まるといった発言まで。
もう、これは、裁判と同じ。しかも、俺が許される事は絶対に無い、地獄の裁判のような物だった。
「シュン様。もし、襲い掛かってくる事があれば、暴れていいです?」
リュイがそんな事を呟くくらい、イライラするような尋問のような質問が続く。
そんな中で。
「竜族は、シュンリンデンバーグの身柄を欲している。これは事実であろう。次の襲撃がいつあるのかは分からぬが、次に来ると言ったのは事実。それだけ恨みがあるのであれば、この男が、竜族に何かしたのも事実なのであろう」
そう、最上段に立つ男が言い放ち。
「シュンリンデンバーグを拘束し、次の襲撃時に、身柄を引き渡す」
それだけ言い、長い長い、無意味な尋問の時間は終わってしまった。
そのまま、牢屋へ連れていかれそうな雰囲気を感じたのだが。
一人の男が、声を上げる。
「卿の方々に申し上げたい!シュンリンデンバーグは、確かに、大罪を犯しているのかもしれないのですが、同時に、冒険者として、最高位の地位を持っている男でもあります!」
その男は、これだけ広い場所で、すみずみまで通るような大声で叫ぶ。
「今、彼を拘束するということは、冒険者をないがしろにする事と一緒。彼の拘束による弊害は、あまりにも大きすぎます!さらに、彼は最高位の冒険者である以上、この町の事など知らぬふりをして自身の依頼をこなしていけば、良かっただけの事!」
全員の声が、一段小さくなるのが分かった。
「なれば、彼が来てくれた事。今回の厄災について、手伝ってくれると言う事!冒険者についての取り決めに基づき、彼を丁重にもてなす事が、最善策と思われます!ご意見を賜りたい!」
その言葉に、「いや、そうはいっても」
「町の者が納得せぬ」
「大量に死んだのだぞ」
「我々の町が襲われているのだぞ」
など、愚痴のような言葉が漏れて来る。
その中で。
「卿たちの、不満、疑問、怒りはもっともであると感じる。しかし、冒険者最高位、4Sの称号を持つ物は、竜を上回る者にか与えられる事は無い!なれば、彼は、この町をおそった竜族すら超える者であると言う事!その意味、もう一度ご一考願いたい!」
その言葉に、一気に会場におびえが走る。
そして。
「そこまで言うのなら、冒険者がその者をしっかり監視してくれるのだな。もし、逃げたり、行方が分からなくなるようであれば、分かっておるな」
一人が放ったその言葉に。
「無論。冒険者は、約束を破る事を良しとしない。我々が、責任を持ち。彼を監視しよう」
はっきりと断言し。
「ならば、今回の彼の身柄については、冒険者に一任する事とする」
そう言われて、このおかしな無理やり連れてこられた茶番は、終ったのだった。
俺達が、屋敷から出ると、俺達を囲んでいた、兵士のような人達は凄まじい速さで、屋敷に戻っていく。
そして、俺達の目の前には、さっき、大声で俺達を解放するように叫んでくれた男が立っていた。
「シュンリンデンバーグ殿と、その奥方。ほんとうに、申し訳ありません。突然、おかしな出迎え、心から謝罪いたします」
手を胸の添え、そのまま、膝を折る。
「私は、このダライアスの冒険者育成を始め、冒険者の全てを取り仕切らせていただいている、バランと言います。冒険者総括と言えば良いのでしょうか」
そう言い添える。
「この町の者たちは、4Sという言葉の重さ、そしてその強さ、地位の高さを理解している者がほとんどおりません。お許し願えれば、幸いでございます」
頭を下げたまま、微動だにしないバラス。
それは、王に対して、謝罪をする姿そのものだった。
「いや、大丈夫だが」
俺が呟くように、声をかけると。
凄まじい勢いで頭を上げ。満面の笑みで。
「ありがとうございます!このバラン、シュンリンデンバーグ様のために、尽力をつくさせていただきます!」
そんな事を言ったのだった。




