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空からの警告

「そういう事だよ」

俺は、キンカに戻り、子供と嫁たちを家に戻した後、自分一人でドンキに会いに行っていたのだが。


そこでドンキに聞いた話に頭が痛くなっていた。

今まで絶対的に、人間に対して、関わりを持たなかった【竜族】が人間の世界に降りて来たその理由。

それが。


俺だった。


「“ワイバーンは、竜の末弟とは言え、竜である事は変わりなし。その竜を虐殺するとは、いかなるものか。首謀者を打ち立て、竜の威厳を示し得るものである。竜の怒りをその身に受けるがいい“だそうだよ。君が、強いのは分かっていた事だけど、一体何体のワイバーンを倒したのかい?2.3体なら、ここまで怒る事はないと思うんだけどね」

ドンキは、呆れた顔で、俺を見ていた。

まさか、20体近くいた巣をほぼ壊滅したとも言えず。

俺は、冷や汗を流しながらその言葉を聞いているしかなかった。


「でね。さらに厄介な事に。今回の件で、こちらが仕掛けた、ダライアス乗っ取りのシナリオだと向うが言い出してね。一回目の攻撃で、ダライアスは、かなり壊滅的なダメージを受けたみたいなんだけど、2回目の襲撃を宣言して帰ったみたいでね。もし、次の襲撃を防げなかったら、キンカ対、王国の戦争が始まりそうなんだよ」

その言葉に俺は言葉が詰まる。


「大量の死人が出る。いや、もうキンカは、王国の東を全て平らげてしまったから、本当の大戦争になるだろうね。今までの小競り合いとは、規模が変わって来る」


ドンキは、シュンを見つめながら。

「行ってもらう事になる。というか、君しか止められない。天使か、悪魔か、竜か、何が原因かは分からないけど、一人で町一つ潰せる奴だ。しかも、ダライアスほど大きい町を。そんな化け物を止められる人間を僕は、君しか知らない」


俺は、ドンキの圧力もあり。

了承するしかなかった。



「行く事になるですか?」

家に帰ると、リュイが恐る恐る聞いて来る。

子供達は遊び疲れたのか、すでに寝ていた。

「ミュレは、乗り物だから行くの」

ミュレが元気に返事をして、慌てて口を押える。

「ダライアスですか。子供を任せる事が出来る所がなさそうです。ドンキ様にお願いするしかないです」

リュイが、当然着いて行きますと言った返事をする。

「え、いや、もし何かあったら、子供の事も考えたら」

俺が、しどろもどろに返事を返す。

リュイには、家にいて欲しかった。


子供たちのためにも。

しかし。

リュイは、きっぱりと言い返す。

「私がいないと、絶対無理するです。待つのは嫌いなのです。着いて行くです」

その言葉に。


俺は返事が出来ずにいると。

「お子様は、私たちがお守りいたします」

そう言って、俺の家のお手伝いというか、メイドをしてくれている女性たちが頭を下げる。


「ドンキ様より、きつく言い遣っております。何かあれば、シュン様も、奥様も最前線に立たれるであろうと。その時、家を、子を守り、育てるのは、私たちの仕事であると。むしろ、それが一番の仕事であると」



「お任せください。そして、旦那様と、奥様はお立ちください。それが、私たちと、お子様をお守りする最善策であると、思います」


二人のメイドが毅然とした姿で立っていた。


この二人は、ドンキが寄越してきた住み込みのメイド達のメイド長と、副長であった。


「「「私たちは、絶対にお子様をお守りいたします」」」

他のメイド、執事達も頭を下げて、一斉に声を出す。


「私が鍛えた方もいるので、大丈夫です」

リュイがにっこりと笑う。


数人、震えているのは、気のせいであろうか。


「リュイの考える敵が、荒野にいる蟻40匹とかだから、絶対地獄の特訓させられてる気がするの」

ミュレの独り言ににっこりと笑うリュイ。


ああ。そうだった。リュイも、【神に選ばれた者】だった。

転生者でも、転移者でもないはずなのに、最初から、地竜と戦えるくらい強いし、覚悟が違う子だった。


そのリュイに鍛えられたとは。確かに地獄だったのかも知れない。

俺が、同情して見ているとメイドや、執事たちは、小さく縮こまる。


しかし、メイド長と、副長は、しっかりと立っていた。

足が二人とも凄まじく震えていたけれども。




結局、俺達は、子供をメイド達に任せ旅立つ事にした。

子供達にその事を伝えると。

「世界を救いに行くの?」

「英雄のしゅつげきだぁ!」

「がんばぁて、ね。しりゅもがんばぁするから」


年下のはずのミリと、ミオが笑って返事をする。

シリュが、まだしっかり話せない中必死に応援してくれる。


俺は、そんな子供達と目いっぱい遊んで、出発する事にしたのだった。




「行っちゃったね」

「うん」

大きな黒い猫鳥が、遠くに飛んで行くのを見ながら、ミリとミオは泣いていた。

何か、嫌な予感がする。

本当は、行って欲しくなかった。


けど、お父さんも、ミュレお母さんも、リュイお母さんも、英雄だ。

「英雄の子供だもの。頑張らなきゃ」

ミオの言葉に。ミリは小さく頷く。

後ろで、シリュがメイドにくっついてずっと泣いている。


獣人は、成長が早い。

そして、12歳から子供を産み、親になり。

どんなに長生きでも、60歳には死んでしまう。


長生きするであろう、シリュが羨ましく思う事もある。

けど。

「お父さんが、頑張るなら、頑張らないとね」

「うん」

ミオは、自分の手の中で、小さく魔力を発動させる。

爪が伸びたミオの手を見ながら、ミリも魔力を発動させる。

両足が、黒くなったのを確認する。


【神獣化(弱)】二人ともそのスキルを持っていた。

ミオは、全てを切り裂く爪を。

ミリは、誰も追いつけない足を。


そして。

シリュは、メイドの服を握ったまま泣いている。

その周りに、ふわふわと、丸い水色の球が浮かびあがる。


【魔力ビット(魔)】

シュンほど素早く使う事は出来ないが、魔力を打ち出す事が出来る魔力ビット。

シリュは、それを掴んで投げる事が出来た。

もちろん、着弾すれば、小さな爆発が起きる。



メイド達は、そんな子供達を、笑顔で見る。

その力を抑えるために、リュイに鍛えられたのだ。


そう。本当の仮想敵は、蟻や、魔物ではなく。

この子たちだったのだ。

この子たちが持つ、潜在的な強さを感じ取ったリュイが、危機感を感じていたのだ。


結局、神に愛された子の子供たちも、また、神に愛された者だった。


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