帰る場所
「もう、大丈夫だよ。本当にお世話になったね」
ロアは、俺に向かって手を差し伸べて来る。
レイアと、ライナも。
ロラもこちらをじっと見ていた。
コボルトを倒し。
その拠点を壊滅させ。
しばらくは、まあ、数日程度なのではあるが、道や拠点の整備を手伝っていたのだが。
「子供達が心配なの」
というミュレの言葉に俺達は帰る事にして、ロアにその事を伝えたのだが。
ロアは、あっさりと了承してくれた。
「この道の整備は、もともと、僕たちの仕事だしね。これくらい自分達でしないと。お互いに、いい年になったんだし。甘えているばかりだと、僕が駄目になってしまいそうだしね。どうしようもないさ」
そう言って笑うロア。
俺も、少し笑みが出てしまう。
ロアは、何故かすがすがしい顔をしていた。
レイアも、ライナも。
「私たちは、あなたが好きでした。けど、今は、私たちには支えたいと思う人がいるので、大丈夫です。あの時。助けてくれて、ありがとう。シュン君」
「あの時も、この前も、助けてくれてありがとうね。この武器は、大事に使ってる。シュン君との思いででもあるけれど。私が、逃げ出さないための戒めとして」
二人とも、にこやかに笑う。
いや、昔、好きな人だった人からもらった武具を、肌身離さず持っている事に、ロアは、何か思う事があるんじゃないかと思ったのだが。
「あれだけ高性能な武器は、どこを探してもないからね。何も思わないよ。あと、君には勝てない事が骨身に染みて分かってしまったしね。覚悟も。背負う物も」
ロアは、そう言って笑っていた。
俺は、何か腑に落ちない気持ちを持ったまま、ロア一家と別れて王都へ飛び立つのだった。
「ロア様」
ライナが、ロアの手を取る。
その手を握り返しながらロアは、一つため息をつく。
「なぁ。ライナ。シュン君は、戦う時、あんなに必死なのかい?昔から」
ロアは、隣にいる自分の妻にため息まじりに声をかける。
彼は気が付いていないのか。
彼は戦う時、本当に辛そうな顔をする。
なのに、時折、寒気がするくらい怖い笑いを浮かべる。
しかし。その中で、誰かが傷つきそうになるたびに、ひどく悲しそうにすら見える、激しい怒りを含んだ顔をする。
戦闘の中。
彼は情緒不安定といっても良いくらいコロコロと顔を変えていた。
「はい。いつも真剣で。何かに追われているかのように戦うのがシュン君です」
ライナは、飛んでいくその後ろ姿を見送りながら呟く。
「背負うもの。か」
ロアは、ため息を吐くしかなかった。
彼は、自分が背負っている物を降ろそうとはしないだろう。
この世の運命。
世界の命。
全てを放り出してもいいはずなのに、彼はそこに立っている。
どれだけ苦しい思いをすれば、あの強い気持ちを持てるのかは分からない。
しかし、彼には、一つだけ。確かに見て取れる、強い思いが感じられる。
「『守る。』か」
彼は、この戦いで、その意思をしっかりと示してくれた。味方を。自分の愛する者を守ると言う強い意思。
自分の妻だけではなく、ライナを、レイアを、そして自分まで守りながら戦ってくれた。
周りをまだ回っている黒い板を見ながら、ロアは自分の妻の手をもう一度握り返す。
「彼の強さのひと欠片くらいは、欲しいね」
ロアは妻と一緒に、命を守り、命を背負うという意味を自分の中で噛みしめながら、遠くに消えて行った黒い猫を見つめ続けるのだった。
「シュン様!もうすぐ着くの!」
ミュレが、嬉しそうに声を出す。
王都は、目の前だった。
「ああ。帰って子供達と遊んであげないと」
俺が呟くと。
「ミュレも、遊んで欲しいの。いっぱいご褒美欲しいの」
楽しそうに話すミュレ。
俺は、そんなミュレの体を撫でてやる。
その気持ちが伝わったのか。
ミュレは、嬉しい気持ち一杯で、さらに加速して王都へ向かって飛ぶのだった。
「おかえりなさいです」
俺達が帰ると、リュイが、笑っていた。
隣で、シリュが、嬉しそうに手を振る。
「おかえりなぁのてす」
そんなシリュを思わず抱きかかえると。
「あー、ずっこ。ずっこ」
「ミリもー!ミリもー!」
と、ミオとミリも足元に抱き着いて来る。
「きちんと、いい子にしてたの?」
ミュレの言葉に、同時に元気に返事をする二人。
俺が、リュイに顔を向けると。
「さすが、獣人の血と言ったらいいのか。シリュよりも、成長がすごく早いのです」
リュイが苦笑いをする。
お姉さんのシリュはまだあまり上手に話が出来ないのに、しっかりと話す事まで出来るようになっている獣人の子の二人の成長に。
嬉しいやら、寂しいやら、複雑な気持ちになるのだった。
風が吹きすさぶ中。
目の前で、巨大な町が燃えていた。
「我らを愚弄する者には、それ相応に、身のほどを知ってもらわねばならぬ。強者こそ全て。我らの末弟の町を破壊するなら、同じく、破壊するまで」
巨大な町の上に立つその男は、翼を大きく広げ。
両手を突き出す。
「竜の怒り。受けるがいい」
両手から放たれた、その一撃は、町を真っ二つに切り裂く。
どこまでも、地平の先まで続くかの如く広い町が、綺麗に裂けていく。
「誰か!何が起きているのか、分かる者はいないのか!」
「分かりません!噂の4Sでは無いようです。ひぇぇっぇぇ」
突然来た、地震のような衝撃に身をすくめる。
「キンカの回し者ではないのか!あの噂のシュンとか言うやつだろう!殺せ!ドンキも、シュンも、キンカをつぶせぇ!」
叫びながらも、次に来る衝撃がその全ての悲鳴をかき消して行く。
大きく形を変えたその町を見ながら、羽を持つ男は無表情で町を見る。
「末弟を虐殺した者。いるのなら、出て来るがいい。次の襲撃は、さらに苛烈になるだろう。それまで、おびえて暮らせ。末弟たちと同じように」
町を十字に焼き尽くし。まだ燃え続ける町を見下ろしながら、男は無表情で飛んでいる。
しばらく、下を眺めた後。
ふと、口の端を上げる。
次の瞬間。
一撃。
とどめと言わんばかりに、町に魔力弾を一発撃ちこんだ後。男は、空高く飛んで去っていくのだった。
王国の首領首都、ダライアスは、たった一人の男にてすさまじい被害と、凄まじい死人を出して燃え続けていた。
誤字報告ありがとうございます!
全然気が付いていませんでした。
ダメダメですね。
これからも、がんばって書いて行けたらと思いますので、これからも読んでいただけると幸せます。
※次の章から、女性が増えますが、ハーレムにはなりません。




