圧勝
「あそこです」
ライナが小さく声をかける。
ロアたちから大まかな場所を聞いた俺は、自分のデータベースの地図検索とビットの探索を行い、コボルトがいた、正確な場所も数も調べておいていた。
いたのだが。
目の前の光景に吐きそうになっていた。
今、コボルト達は、収穫物なのか。
魔物の臓器を引きずり出していた。
何の魔物かは分からない。
しかし、何か騒いでおり、トラブルでも起きているのかと思ってしまう。
そんな騒ぎの中。
黒いフードを被ったコボルトが、こちらを見る。
「気づかれたみたいだ!」
ロアが叫ぶ。
俺は。
次の一瞬で、コボルトシャーマンの首を跳ねていた。
ビットの黒い板が正確にその首を持って去って行く。
「ピグアピグ!!!」
さらに騒ぐ残りのコボルト。
何かの瓶を投げつけるが。
「遅い」
俺は風魔法を使い、その瓶を押し返してやる。
投げつけた奴の目の前で弾ける緑色のビン。
緑色の霧が発生する。
コボルトのいる場所で。
「ライナ!」
俺が指示すると、ライナは俺の作った杖を使い、氷の散弾を放つ。
2.3体、氷に貫かれる。
俺は、さらにビットを移動。
緑の霧をビットから放った、風魔法で拭き散らす。
氷の魔法を使ったライナの存在を確認したコボルト達が、一斉にライナに向かう。
しかし、ライナにたどり着く前に、ロアが全て切り裂き、倒して行く。
ロアの剣筋は、やはり速い。
俺が見て来た中でも、シュリフ将軍に匹敵すると思う。
ロアを抜け、ライナに襲い掛かった2体のコボルトが氷のツブテの、的になっていた。ライナに向かって行った全てのコボルトを倒したのを確認した俺は、一瞬後、爆炎をまとったままのレイアが、コボルトアルケミストを殴っているのを見た。
「気丈だな」
俺は、そんなレイアに関心する。
自分が一度は、襲われた種族。
恐怖があるだろうに。
気丈にも向かって行く姿に。
俺は、彼女を支援するため、彼女の目の前にビットを滑り込ませる。
彼女が拳の2撃目を入れようとしたとき。
彼女が突然、燃える。
コボルトアルケミストがにやりと笑うのがやけにはっきり見える。
怪しい色のビンが少し見える。
しかし。甘い。
コボルトアルケミストが投げた火炎びんは、俺の絶対結界に阻まれ彼女を守り。
彼女は、そのままコボルトを殴りつけていた。
びっくりした顔をするコボルトアルケミストの表情をしっかりと確認しながら、その首を、俺はあっさりと切り落とした。
「シュン、私の獲物だったのに」
レイアが苦情を言うが、相手が悪い。
首が無いのに。もう片方の手で何かを投げようとするコボルトアルケミスト。
レイアの苦情を聞き流しながら、コボルトアルケミストの片手を素早く切り落とす。
地面に落ちた手から、紫にも近い色の毒々しいビンが転がり落ちる。
「え」
びっくりした顔のレイアに。
「突っ込みすぎだ。バジリスクに匹敵する、範囲致死毒だ。浴びたら死ぬぞ」
俺の一言に、レイアは少し茫然としていた。
その時。
「止まったら危ないの!」
そんな注意と一緒に、黒い球が俺達の横を通り過ぎて行き。
俺達の後ろで爆発する。
今度はその魔力弾の威力にびっくりするロア達。
後ろから一斉に襲い掛かろうとしていたコボルト達が、爆発におびえ、一斉に散り散りに逃げていくのが見える。
「終わりだな」
俺が呟く先で。
逃げていくコボルト達は俺のビットに狩られていたのだった。
「あっさりだったわね」
「ありえない強さだ」
レイアとロアが茫然と呟く。
「コボルトシャーマンと、コボルトアルケミストをこんなにあっさり倒せるなんて、信じられません」
ライナも、まだ勝った事が信じられないといった風に呟く。
俺が、笑って返事をしようとしたとき。
アラームと殺気を感じて。
槍斧で後ろから来る何かを防ぐ。
巨大な剣が、俺の槍斧に止められ。
爆発が起きた。
小さな指向性の爆発。
人一人を倒すだけの爆発。
その技、スキルを持っているのは。
「なんで、オークナイトがここにいるんだよ」
俺は、呟くしかなかった。
臓器をはみ出させ。
オークナイトが、剣を振るっている。
「タァ タァ」
そんな息を吐きながら、さらに剣を振るうオークナイト。
俺はとっさに後ろに引きながら、結界を張る。
結界の向こうで爆発が起きる。
「なんだ!あいつは!」
ロアが叫ぶが。
「オークナイトだ!ロアは手を出すな!AAAランクでもおかしくない、化け物だ!」
俺は叫び返しながら、槍を突き出し。
オークナイトの体を引き裂く。
その瞬間から、再生が始まるのだが。
突然、オークナイトのすぐ横、空中で爆発が起きた。
レイアの悲鳴が聞こえる。
「手を出すなと言っただろ!」
俺は叫びながら、一人で、突撃して返り討ちにあったレイアに回復魔法をかける。
すでに切り裂かれていた臓器は復活したのか、皮膚に覆われて見えなくなっている。
オークナイトが横振りをして来る。
その横顔に、黒い弾が当たり、爆発する。
その瞬間。
俺は空中に飛んでいた。
3本足の猫に乗った状態で。
「空中に居れば、大丈夫なの」
ミュレの言葉に。
俺は笑う。
「俺達は大丈夫でも、ロア達は大丈夫じゃないだろ」
ミュレは、今気が付いたらしく。
慌てているのが分かる。
そんなミュレの毛をしっかりと撫でてやりながら、感覚を同調していく。
「ん」
嬉しそうに体を震わせるミュレ。
「「一気にいく」の」
俺達は、一気に急降下する。
槍を構えたまま。
ミュレが口を開き。
オークナイトが剣を振り上げ。
二つの爆発が重なり合う。
本来ならありえない光景。
その爆風の中で。
オークナイトの首を俺はあっさり斬り落とす。
ミュレは地面に着地、滑るように向きを変える。
俺も向きを変え。
オークナイトを背後から真っ二つに切り裂く。
3つに分かれたオークナイトが復活しないのを確認した俺達は。
ため息をつく。
ロア達が恐る恐るやって来る中。
ミュレは、神獣化を解除する。
ただ。片手だからバランスは悪い。
俺はしっかりと抱き着いてくる、彼女を支えてやるのだった。
シュンたちが帰った後。
「派手にやられたねぇ」
学生服を着た青年が、ゴスロリ服を着た女性と舞い降りて来る。
「タァ、ダァ」
首だけのオークナイトが呟く。
「まだ生きているのは、流石というべきか。やっと出来た再会なのに、彼は冷たいねぇ」
学生服の男はそう呟くと。
何かの魔法をかける。
すると、一気に体が生えるように首から下が再生していく。
「これが、再生魔法になったらいいのにね」
ゴスロリ服の女性が呟くが。
「彼の遺伝子とオークの力。魔物の森の奴を掛け合わせてやっと出来たくらいだからな。実用的じゃない」
男は、冷たくオークを眺めている。
「さぁ。君を拒否した、君の思い人に、復讐してやる時だ」
その言葉に。
オークナイトは、空に向かい叫ぶ。
その体の色は、真っ赤に染まっていた。




