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冒険者として。過去として。

「よろしくお願いします」

「シュンと、一緒なんて学生以来だね」

「・・・」

ライナと、レイアが、俺を見て笑っている。ライナの裾を短い髪の金髪の子供がしっかりと握っていた。

ロアはこちらを見ているも、俺に話しかけてくる事は無い。


今居るところは、東の港町と、王都の真ん中あたりにある、森の中に作られた、テントを大量に張った拠点の中だった。

ここを開拓というか、切り開いて道を作っている最中であると言う。


ロアの回りには、ライナと、レイア。さらにもう一人、女性がにこやかに笑っている。

ロア自身は、仏頂面であったのだが。


ロアを中心として作られた冒険者ギルドと言ってもいい、メンバーは30人近くいた。

ほとんどが交代で、木を切り倒したり地面を均したりと仕事をしている。


「シュン。早く終わらして、帰るの。ミオと、ミリが心配なの」

ミュレが、俺の裾を引っ張る。可愛い子供を見て、自分の子供を思い出したようだ。

俺もすぐに帰って、遊び倒したい。

今、リュイが子供達を見てくれているのではあるのだが。

「ライナ。その子は?」


「ああ。ごめんなさいね。ほら。挨拶をして。お父さんと、お母さん、レイアお母さんの同級生のシュン君よ」

ライナの言葉に、ライナの服をさらにしっかりと握りしめながら。

「ロラ」

と小さく返事をする子供。

「女の子か?」

俺が聞くと、ライナは嬉しそうにうなづく。

見た感じ、男の子にも見えるのだが。

「どうしても連れて行きたいと、煩くてね。僕は危険だから、賛成はしなかったんだけどね」

ロアが初めて口を開く。


まぁ。これだけの冒険者がそろっているのなら、大攻勢や、大進攻でも起きないかぎり安全だとは思うのだが。

すでに、テントなどを張った拠点も出来ているようだし。


俺は周りを見回す。

「で、俺は何を手伝えばいいんだ?」

冒険者たちの動きを見ていると、すこぶる順調に行っているようにしか見えない。


俺が呟いていると。

「あの森の奥にある、コボルトの集落を倒したいんだよ」

ロアが、小さく呟きながら、森の奥を見つめる。

ライナと、レイアの体が震えるのが見える。

泣きそうな顔になりながら、しかし、必死に耐えている二人を見ていて思い出す。

ライナの眼帯とともに。


ああ。この二人は、コボルトにやられたんだった。

ライナは、片目をえぐり取られ。

レイアは、その体を・・


二人はじっと俺を見る。

ロアは、視線を俺からそらしていた。


「確定なのか?」

コボルトが、そこにいるのが、分かっているのか尋ねると。

「昨日、一人襲われたんだ。骨の犬にね。幸い、他のパーティメンバーと共闘できる体制を作っているから、撃退できたけど」

ロアの言葉に俺は小さく頷く。


骨の犬。ボーンウルフがいると言う事は、コボルトアルケミスト、コボルトシャーマンのどちらかがいると言うことだ。


コボルトアルケミストは、薬を使っての自身の強化、毒薬を使ったり、弱体化を狙ってくるが、薬を使って魔物使いのような事もしてくる。

つまり、魔物を操れるのだ。


コボルトシャーマンは、アンデット、ゾンビ系を召喚出来る上、炎の魔法を得意としている。


どちらも使役するのは、骨などのアンデット系。アルケミストも使役した魔物を必ず骨にする。

何故かは分からないのだが。


そして。どちらもAランクの脅威に指定される魔物と言うか、魔人だ。

さらには。どちらも凶悪。


「無事でよかったな」

俺が呟くと、ロアは小さくうなずく。

あいつらは、狩った獲物の一部をコレクションにする。


それは、何でもいい。臓器でも、耳でも、骨でも。ライナの目でも。


「手伝ってくれないか?」

ロアのその言葉に、俺は、びっくりする。

ロアから頼んでくるとは思わなかった。


「いいのか?」

俺が聞き返すと。

「思うところはある。正直、君を許す気にはなれない。しかし、君が僕よりはるか()に行ってしまった事は、聞いているよ」


俺が、アムから呼び出される前にすでに俺が将軍と同等の地位に就く事と、冒険者としてトップに立つ事は告知されていたらしい。


「そうなの!ミュレの婿なのっ!」

と胸を張る青髪の少女。

まぁそうなるよな。

俺は、そんなミュレの頭をガシガシと撫でる。

「痛い、痛いの」

泣きそうになっているミュレを放置して、俺はロアに向き直る。


「分かった。俺達だけで行く。二人には辛いだろう?」

俺の提案に。

ロアは首を振る。

二人も。

「いえ。行きます」

「いつか、乗り越えないといけない事だから」

二人も泣きそうな顔をしたまま。しかしはっきりと言う。

「子供はどうするんだ?」

俺が聞くと。

「私が見ていますから、大丈夫です」

と一人の冒険者の女性が笑っていた。

タヤという赤髪の女性は、ロアの後輩らしい。

「タヤ母ちゃん」

とロラは俺達の話し合いの間。その女性の腕の中に納まっていた。


ずっとロアが好きだったとの事で。


「私、今はロア様の3番目の妻なんです」

そう笑う女性は、嬉しそうだった。


「分かった。じゃぁ、明日出発するか」

俺の言葉に、ロアは、小さく頷くのだった。



「えー!そうなんですか!シュン君て、小さい子好きだったんですか!」

「そういえば、ミュアも、小さかったよね。そんな趣味があったの!?」

「そういえば、【幼女趣味】(ロリコンマスター)なんて名前ついてましたね」

「そうなの!ミュレをいっつも抱っこして寝て、夜はとっても激しいのっ!」

「けど、ミュレさんの子供なら可愛いでしょうね。会いたいですね」

「可愛いの。ミュレの宝なの」


なんか、不穏な女性陣の会話が聞こえて来る。

のろけも聞こえてくるが。


「ちょっといいかな」

俺が、恥ずかしさのあまり逃げようかと思っていると。ロアが声をかけて来た。


俺が頷くと、ロアは俺の横に座る。

「君とは、本当に縁があるね。ほんとうに」

何かつっかえたような言い方をするロア。


「何か言いたいんじゃなかったのか?」

俺が自分の収納から出した、豆乳を温めた物を飲みながら訪ねる。


「担当直入に言うよ。君は、人を殺して、あれだけ殺して。大丈夫なのかい?」

ロアの言葉に、俺は思わずロアを見つめ返す。


その目は真剣だった。

俺は、ロアから目をそらすと。

「無事だと思ってるのか?俺も、元日本人だぞ」


俺は、ふと思い出す。

大量に人を殺した時。

罪悪感に押しつぶされそうになる。

死を覚悟した時。

終った後で、全身に震えがくる。

死ぬ思いをしたとき。

何故こんな事をしなければならないのか、嫌になる。

本当に辛かった時。

ただただ、泣き。何もしたくなくなる。


そんな時。俺は、いつも二人に抱きかかえられ、慰められてしまっている。

自分でも笑いが出てしまうくらい、二人に寄りかかってしまっている。


リュイはその度に、俺の頭を撫でながら。

「いつでも寄りかかってくださいです。ドワーフは強いのです。いつでも泣いてくださいです」

そう言ってくれるのだ。


ミュレですら。

「シュンが死ぬ方がダメだの。だから、気にする事すらないの」

そんな事を言ってくれる。




「何がおかしいんだ!僕は真剣に聞いているんだぞ!」

ふと自分の弱さを思い出して笑っていた俺を見て、叫ぶロア。


その声の大きさに。

ミュレがこちらを振り返り、俺の背中にくっついた。

「シュンが抱えてるものは、重たいの。お兄さんが思ってる物よりずっと重たいの。だから、ミュレが支えるの。だって、シュンは、弱いもの」


最後の言葉だけ、妙に大人びていたミュレを背中ごしに撫でてやる。

嬉しそうな顔をしながらミュレは続ける。


「ミュレも転生者だけど、シュンほど強くなれないの。だから、一緒に抱えると決めたの。全部(すべて)の罪も。全部(すべて)の命も。だから」


ミュレは俺にくっついたまま。ロアに告げる。

「ミュレは、シュンのために生き、シュンのために死ぬと決めたの。シュンの全てを一緒に抱えると決めたの。だから。シュンは大丈夫なの」


ミュレの言葉に。

ロアは怒りを忘れ、茫然としていた。納得したかのように、俯く。

「凄いね。君たちは。本当に。僕はそこまで寄りかかる事も。支える事も出来ないかもしれないな」

ロアが呟くと。

「私たちに、寄りかかってください。支えますから」

ライナが小さくロアの横で笑っていた。


ロアは、少し涙を浮かべながら。

ここに来て初めて、俺の顔を見る。


「君は、何をしようとしているんだい?」

ロアの目には、迷いは無く。

何かが吹っ切れた顔をしていた。

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