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幸せと、責任

「出来ない」

俺は、王都で必死に結界アイテムを作っていた。


すでに使っている素材は、ディアボロスの骨と、バジリスクの骨である。

なのに。

まったく安定する事なく、崩れてしまう。


「ほんと、お前は化け物だよな」

その工程をずっと見ていた男が呆れた顔で呟く。


そう。王都には、鍛冶が出来る場所がないため、知り合いの家で作業を行っていた。


「おねぇちゃーん!助けてー!」

「ダメなの。お兄ちゃんは、がまんなの」

「ミオも、ミリもようちゃなぁ」


「王女様でも、うちの子をいじめるのはだめにゃ!」


奥から、そんな話し声が聞こえてくるのだが、何をしているのやら。

しかし、そんな事を気にしている暇はなかった。


「どう見ても強度不足だよな。これで強度不足とか、ありえないと思うんだが」

崩れた骨を見て、男、ヒウマが呟く。


獣人の村で出産し、しばらくあちらで過ごしていたヒウマ夫妻は、王都に戻って来ていた。

獣人の村では、十分な収入が無い事と、子供が大きくなるとにゃんに乗せて帰れなくなる事が一番の理由だったらしい。


そのヒウマも、いろいろな鉱石を出してくれてはいたのだが。

「まさか、骨を魔石化するとか、考えもしなかったな。たしかに、魔物は魔法も使うし、魔力の通りはいいな」

ヒウマも、俺の横で骨の材料を使い、何かを作っていた。


ヒウマの【武器作成】は、俺の【武器作成】と少し違うはずなのだが。

俺の作業を見ただけで、魔骨化させる事に成功していた。


「あー。また崩れた」

俺は、さらさらになってしまった骨を見て、肩を落とす。

「こりゃ、竜並みの強度がないと、無理なんじゃないか?」

そのサラサラになった骨を集め、何かこねくり回し。

自分の商品の鉄製の武器に撒きながらヒウマが答える。


「何をしているんだ?」

「いや、再利用。これをやったら、強度が2倍になったからさ」

そんな事をしれっというヒウマ。


確かに、データベースで見てみると、鉄製の武器 から、鉄製の武器S (魔骨コーティング)に変わっていた。


「それ、俺の素材なんだが?」

俺が呟くと。

「先輩は立てるもんだ。それと、獣人を襲った奴なんだから、俺にも権利はあるだろ?」

ヒウマは、そんな事をいいながら、武器に粉を振りかける作業を続ける。

絶対にさらに高くして売る気だな。


まぁ、最近は、俺も高額な依頼を優先して行っていたのだが。

子供がいると何かと必要な物が増える。


だが、やられっぱなしも腹が立つ。

ちょっと反撃してやろうかな。


「そんな事言ってたら、探してた物はお前には、やらないぞ」

その言葉に。

ヒウマの手が止まった。


「あったのか!あったんだな!どこだ?教えろ!」

いきなり俺の肩をつかみ、激しく揺さぶるヒウマ。

唐突の事で、抵抗も出来ずに揺さぶられてしまう俺。


「い、いいから、とり、あえず、ゆさぶるの、やめろ」

俺の言葉にやっと止めてくれたヒウマに。

空間収納から、魔骨で作った水筒を取り出す。


「なんだこれ?」

ヒウマがそれをしばらく不思議そうに見ていたのだが。

蓋がある事に気が付き。

「まさか、水筒か?」

「ああ。魔骨で作った、魔法瓶の試作品だ。上手に出来なかったから、少し漏れるんだけどな」

失敗作は見せたくなかったんだが、中身を手土産にしたかったから、急いで作ったんだ。


ヒウマは、恐る恐る蓋を開け。

中の液体を一口飲む。

その瞬間。

目を見開いた。

「これだ!これだよ!」

水筒を見ながら、叫ぶヒウマ。


「どこにあった!?」

また、揺さぶられそうな気がして、俺は一歩下がる。

「キンカだよ。あそこがとんでもない発展をしているのは知ってると思うが、コーヒーが、王国の首都、ダライアスにあったらしくて、最近取引されているんだ」

「牛乳は!?砂糖は!?」

「乳牛がいないのは、知っているだろ?だから、それは豆乳だよ。砂糖は、ちょっと言いにくいんだが」

ヒウマが怪訝な顔をする。


「キンカの領主のスキルで、強引に作りやがった。らしい。ただ、それ一杯で、武器一個買えるくらい高いぞ」

俺の言葉に、ヒウマは笑う。


「稼いで、買ってやるよ。お前が持って来てくれたらもっといいんだが、この水筒の完成版を作れば、こっちでも作れるようになるだろ?豆乳の方が、痛むのは遅かったはずだしな」

ヒウマは、楽しそうに笑う。


俺は、その顔を見て一緒に笑う。

「とーちゃ?」

子供達が、ひょっこりとこちらを見ているのを見ながら、俺達は二人で笑うのだった。


「コーヒー牛乳はありがたいんだが」

ヒウマは、ひとしきりコーヒー牛乳もどきを堪能すると、水筒を置く。


子供達も、にゃんやら、ミュレや、リュイまで不思議そうにちびちび飲んでいたりする。

多めに持って来てよかった。


「やはり、どうやっても、強度不足だ。どうするんだ?」


ヒウマは心配そうに俺を見る。

確かに、このままでは、アムに合わせる顔が無い。


あれだけ大きな事を言っておきながら、5年近く放置して、出来ませんでしたでは恥ずかしすぎる。


「ヒウマ。お願いがあるんだが。子供達を少し見ていてくれないか?」

しばらく考え込み。

解決方法は一つしか無い事に気が付いた。


「まったく。分かったよ。しばらく、ここに居たらいい」

ヒウマが笑う。

俺の考えは分かったらしい。


「私も、ここに残って子供の面倒を見るです。けど、無茶は絶対しないと約束お願いするです。絶対です。」


そのやりとりを聞いていたリュイも俺に声をかける。

ただ、リュイの顔は、かなり真剣で、怖かったが。


ちょっと依頼をこなしてくるって言って、出て行って無数の蛇と戦ったり、【希薄の】と戦ったりして死にかけたりしたからなぁ。


俺が数年前の事を思い出していると。

顔を突然両手で挟まれる。

そのまま、リュイの胸にうずめられてしまう。


「シュン様がいなくなったら、誰がリュイを食べてくれるですか?」

危ない事を言うリュイ。

「ミュレも、いつ食べてくれるのか、教えて欲しいなの」

ミュレまで、危ない事を言い出す。


「はぁ。隣の国の食人文化は聞いてはいたが、実際に聞くと、かなりクルな」

ヒウマが苦笑いをしているのが分かる。


「いや、こいつらは、本当は違うからな。変な考えに染まっただけだから」

俺がどもりながら答えるが。

「あー!まぁまとぱぁぱ、にゃんにゃしてるー!」

シリュに叫ばれ。


俺は真っ赤になってしまう。

「シリュも、ミオも、ミリも。あなたの子です。置いて逝く事は許しませんです」

しかし、リュイは、悶える俺に諭すように話かけながら俺を絶対に離してくれないのだった。

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