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キンカ

「こら!走らないのっ!」

ミュレが、必死に子供を追いかけている。

今ミュレが追いかけているのは、青い髪に、黒い目の女の子と、男の子だ。


流石、獣人の子と言えばいいのか。

1歳にして、立派な走りっぷりである。


「「にゅー」」

二人が走っていると。

「駄目にゃてす!」

ピンクの長い髪に、黒い目の女の子が二人の前に立つ。

思わず立ち止まった二人の子を片手で抱き寄せるミュレ。


「ミュレ母さんに迷惑かけたらダメなのです」

ピンクの少女が、しゃがみこみ、目線を合わせて話をする。

「かぁたっ!」

少女が、リュイに抱き着く。

リュイはそんな娘を抱きしめる。


「ぼら、お父さんも何か言ってくださいなのです」

リュイが、俺の方を向いて笑う。


俺は、苦笑いをしながら、自分の子供達に話しかけるのだった。

あれから3年たった。俺も、29になり、もうサラリーマン時代の年に近づきつつあった。

あの頃と違うのは、毎日が忙しく、楽しく、笑顔しか無い事だろうか。


キンカにある俺の家はかなり広い物になっており、さらに増築中という凄まじさだった。

俺の家の周りにも家があったはずなのだが。

いつの間にか無くなっていたりするし。


「家族団らんの所、申し訳ないのだけどね」


俺の家を、鬼改造し、さらに増築し続けている張本人がやってきた。

自分は、大した広さもない屋敷に住んでいるのだが、一応このキンカの領主だ。

もう少ししたら、俺の家の方が、ドンキの屋敷の大きさを追い抜く事が分かっていたりする。


「おいちゃ!」

俺とミュレの双子の子供、男の子の方がドンキに走って行く。

「おお。大きくなったな。ミオ。ミリも、シリュも、元気そうで何よりだ」


ドンキは、好々爺の表情で、俺の子供達を見つめる。

俺は、シリュと呼ばれた、リュイとの子供の頭を撫でてやると。

リュイに睨まれた。

「娘には、ダメです」

リュイに、そう言われて、ドワーフの習慣を思い出す。

ついついやってしまうんだよな。

そう。ドワーフにとっては、頭を撫でるというのは、「お前が欲しい」という、プロポーズと言うか、ナンパというか、つまりは、夜のお誘いの意味があるのだ。


俺は、悪いと言いながら、リュイの頭を撫でる。

一瞬で顔を真っ赤にするリュイ。

「仲が良いのは、いい事だと思うよ」

ドンキはにこやかにそんな俺達を見る。


そう。結局あの【希薄と】の死闘の後。

俺は、ミュレに力いっぱい襲われた。リュイにも。


あの戦いの後、何を思ったのか、リュイまで、ミュレとの間に子供を作れと言い出したのだ。

あのとき、ミュレは、14になったばかりだった。

どう見ても、子供だと思っていたのだが。

「獣人は、12歳には、子供を産むのが普通なの。獣人は強いの!」

とミュレに言われてしまい、ここでも、カルチャーショックというか、異種族の文化の違いを確認してしまったのだった。


それで、13歳だったミュレを俺の奴隷として送って来たのか。

子供を作れと言う意味だった、その事に気が付いた俺は、ひそかに、帝国の国王になっているミュレの兄である、アムを恨んだのだったが。


結局、ミュレに押し切られる形で、ミュレとの間にも子供が出来てしまった。

「まぁ。前の世界だったら、犯罪者だよね」

ドンキに、にこやかにそう言われてしまい、俺は何も言い返せなかった。


ちなみに、獣人には、発情期があるそうなのだが、自分の死や、相手を強く意識すると強制的に発情するらしい。


家に帰ってからのミュレは、その状態だったらしく、ミュレ自身も辛かったそうなのだ。


昔を思いだしながら、俺は背中にミリをくっつけ。両手にミオとシリュを抱えていると。


「で、僕が来た理由なんだけどね。アム国王からの伝言だよ。『王都を守る結界は出来たのかな?そろそろ、待つのも、限界なんだけど。あと、姪と、甥にも会いたいんだけど』だそうだよ」


にこやかに、しかし、少し怒った口調のドンキ。


俺は、その言葉を聞いて。

「忘れてた・・・」

小さく呟くのだった。


ドンキは、そんな俺に。

「今から行って来れるよね」


にこやかに、笑うのだった。真剣な目で。



「ひやー」


大きな猫鳥の背中で、子供達がはしゃぐのを、必死に抑える、俺とリュイ。

子供達が落ちないように、絶対結界を合わせ張りにしてミュレの背中に張っていたりもする。


ミュレは、さらに巨大化できるようになっており、すでにワイバーン並みの大きさまで巨大化できるようになっていた。


流石はスキル、【獣化】ではなく、【神獣化】と言ったところか。


子供3人と大人2人が乗っているのに、全然余裕がある。


結局俺達は、一家総出で、王都へ行く事になってしまった。

ドンキが怖かったのもあるのだが。

流石に、これ以上アムを待たせるわけには行かなかったのもある。

だが一番の問題は、結界を作るための道具だった。

魔物の骨で行うしかないのだが。

B級以上の魔物でないと安定しそうにない。

だったら、王都に先に行った方が早かった。


あっちの方が魔物は圧倒的に多いのだから。


そんな事も関係なく、風も、雲も光の壁の向こうに過ぎていく光景を十分楽しむ子供達だった。




シュンたちが王都に旅立った時。

一人のドワーフが、キンカについていた。

「やっと来れたか」


ヒゲを付ける事を好むドワーフにしては、ヒゲを綺麗にそり落としているその姿は、正確な年齢が分からない。


リュックを抱え直しながら、そのドワーフはキンカの街並みを見渡す。


「しかし、まさか、ドワーフの穴までつながる街道まで作るとは、キンカの領主は凄まじいな」

無いヒゲを撫でるような動作をしながら、呟くドワーフ。

間にも、十分な村や、町がところどころに作られており、ドワーフの穴から出る事自体が死を意味していた数年前からは考えられないほど、キンカ周辺、フェーロン王国の東側は発展していた。

城塞都市との交流も盛んであるし、無数の魔物との戦いから生還して来た冒険者たちが、次々とクランという、巨大な冒険者の集まりを作っていった。


無数の敵と戦うために。

数個のパーティを同時に派遣するために。

地獄を見てきた冒険者たちは、凄まじく強くなっており、後輩を必死に育成していたのだった。


そんな冒険者たちに憧れ。

次々と人が集まり。

西方城塞都市や、ダライアスの冒険者たちもキンカに流れ込んできていた。


冒険者が集まれば、商売が活発になる。

活発になれば、さらに人が集まって来る。


活気あふれる都市に。

笑みを浮かべていると。

「師匠?タチュ師匠じゃないかい?」

ドンキのお気に入りの女性ドワーフ。

ダザが声をかける。


「おお。ダザか。あれから、腕は上げたか?」

そういうタチュに。

「まったくダメダメだよ。シュンの作るナイフにすら追いつけないさ」

肩をすくめるダザに。タチュは笑う。

「あれは、規格外だ。あれほどの腕の鍛冶士はそうはいない。さらに腕を上げたんだろうな。奴も」

そう言うタチュ。

「で、そのシュンは何処にいるのか知っているか?孫に会いに来たんだが」

タチュが尋ねると。

ダザは心底、可哀そうな顔をする。


「シュンたちなら、一家総出で、帝国へ行ったよ。すれ違いだね」

その言葉に。

タチュは、自分の荷物を思わず落としてしまうのだった。


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