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優しい英雄

「ミュレもいるの」

ずっと、口づけをしている二人に、後ろからこっそり声をかけるミュレ。


俺は、その言葉にリュイと離れ、二人で笑ってしまった。

その後ろで顔を膨らましているミュレ。

そんなミュレを見たリュイは、目を見開いた。


「ミュレ!左手はどうしたのです!」

始めて、気が付いたらしい。

ミュレの左手は、無くなっていた。

どうやら、リュイは、【希薄の】が持っていた左手がまさか、ミュレの物だったとは思っていなかったらしい。


「ああ。そうだったな。くっつけてやらないとな」

そういうと、俺は、落ちていたミュレの左手を持ち上げる。


そして、ミュレの左手をミュレにくっつけようとしたら。


ミュレは、一気に後ろに逃げる。

「いや、左手無いと、いろいろ不便だろ?」

俺が、ミュレに話しかけると。

ミュレは、思いっきり首を振り、獣化して一気に上空に上がる。


前足が一本無い猫鳥が、空に舞っている。


俺とリュイが呆気にとられていると。

「嫌なのっ!あんな奴に舐められたり、食べられたりした腕なんかいらないのっ!」


そんな事を言い出すミュレ。

「いや、確かにそうだけど」

俺が呟くと。

「シュン様が食べてくれたのならいいけど、あんな変態に食べられた腕なんかいらないの!そんなのくっつけたら、ミュレ、自分で切り落とすの!!」


いや、いろいろ突っ込みどころはある発言なのだが。

「そうですね。私も、自分で切り落とすかもです」

リュイまで、その言葉にうなづく。


「だから、腕なんてなくてもいいの。でも、シュンに食べられるなら、全然いいから、今度食べて欲しいの」

ミュレのその言葉に、俺が絶句する。


いや、お前、隣の国のしかも王族だろうに。

この国のやつなら、その考えを持っている人もいるんだろうが。

「シュン様?リュイが死んでも、食べてくださいね」

リュイまでそんな事を言い出す。


こいつらは、キンカに長く居すぎて少し感覚がおかしくなっているとしか思えない。

これは、引っ越しも考えるべきか。


俺が真剣に悩んでいると。

「「死んでも、シュン様の一部として生きていたいなの」です」


二人のその言葉に。

俺は、何も言い返せなかった。


結局、左腕をくっつける事を意地でも拒否するミュレを説得できず。

俺は、片腕のミュレを連れてキンカへ帰る事になった。


なんといっても、身重のリュイが、絶対俺達と帰ると言って聞かなかったのだ。

ファイと一緒に帰って欲しかった俺としては、困っていたのだが。


「俺が、冒険者の方を誘導するから。リュイさんと帰ってくれ。それでなくても、今回の事で、絶対親父に怒られるのが確定してるのに、これ以上、怒られる原因を作りたくないんだが」

そんな悲痛な顔でファイに言われてしまえば、同情するしかなかった。


結局、話し合いの結果、冒険者たちは、ファイが索敵しながらキンカまで同行する事になった。


それまでの食料を、各冒険者と、ファイに渡してやる。

「すまねぇ。ほんとうに助かる」

そう言って笑うガウス。

俺は、そんなガウスと一度握手し。


ミュレに乗って、三人でキンカへ帰るのだった。






「はぁ。疲れるなぁ」

ファイがその後ろ姿を見ながら呟く。

「なんだ?お前の親父も、その犬鳥も十分化け物だろうに」

ガウスは青年に、聞き返すと。


「全然違う!親父は、得体のしれない化け物だが、シュンは、竜よりも怖い化け物だよ。お前は、ドウタツを見てないから、そんなに平然としていられるんだよ」

ファイは、力いっぱい反論する。


「そういえば、シュンだったか。ドウタツの100万を壊滅させたとかいううわさ話。

あれは、噂だろ?そんな事が、できる、、わけ、、、」

そこまで行って、ガウスは気が付く。


「今、目の前で見ただろ?数万の敵が、一瞬で消えて行く姿を。あれを、地獄の光景とともに行うのが、シュンなんだよ。火と、嵐と、盛り上がり、付きあがる地面を削りながら死をまき散らす」


さっきの光景は、あまりに綺麗で。

現実離れしていて、記憶から消えてしまいそうなのだが。

そう。シュンは、数十万はいた、ビックバイパーを、確かに一瞬で全て消し去ったのだ。


改めて身震いするガウス。


「シュンは、化け物と言う言葉じゃ、優しいくらいの悪魔だと思ってる。もし敵になったらと思ったら、怖くて前にすら立てなくなるくらいのな」

ファイは、小さく呟く。


それは、領主の跡継ぎとして出た言葉なのか。

町を守る者として、出た言葉なのかは分からなかったが。

冒険者たちは、その言葉を噛みしめシュンという、冒険者の恐ろしさを改めて確認するのだった。



「ね。腕がなくっても、ミュレ、使えるの!」

そんな事を言いながら、ミュレは高速で飛んで行く。

リュイは、シュンに体を預けるようにして、眠っていた。


そんな一時。

俺は、ふと気になって、あの戦いで二人が使ったスキルを確認していた。

そして。

データベースが【愛鳥】と呼んだスキルを見て、固まってしまう。


とりあえず、二人がチートなのと、彼女達が手に入れたスキルは、俺のビットから派生したような物だということは確認できた。


【ビットスキル】

俺のビットを使用した、爆発系、広範囲殲滅スキル。



【魔力吸収(夫)】

【魔力炸裂弾】

【黒炎】

あと、あのスキル。



どれも、これから来る最悪から身を守り。

女神のお願いを聞くためには必要になるスキルだ。


俺は、眠っているリュイの頭を撫でながら、絶望しか無かった心が少し晴れて来ているのを感じていた。


この二人がいれば。

いや。俺の嫁がいれば。

最悪すら、何とか出来ると思えるのだった。







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