表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/312

浄化。光の中に

「うまいなぁ。なぁそう思うだろ?」

【希薄の】は、口の中の物を飲み込み、手にしている物を再び舐める。


俺は、それを見ながら、まったく動けなかった。

怒りで。悔しさで。


「やっぱり、若い肉はいいよなぁ」


「ふざけるな!それを返せぇ!」

俺は、怒りのあまり自分の槍を奴に投げていた。


槍は、あっさりと奴を貫通し、奴の後ろの地面に刺さる。

【希薄の】はにやりと笑う。


俺は、足の痛みも無視して走りだす。

やつを何がなんでもぶん殴ってやる!


一瞬で奴の前に立ち。

拳で奴を殴る。俺の拳が当たる瞬間に、自分の手に空間収納の入り口を作る。

しかし、怒り狂った俺の魔力は正しく発動せず。それは空間収納の入り口ではなく、空間をゆがますだけに留まる。

そんな事も関係ない。

俺は、その魔法とも、魔力ともいえないものを拳にまとったまま、奴を殴り飛ばした。


一撃。

奴にヒットした感覚はあった。

俺が、笑った瞬間。俺の拳が弾け飛ぶ。

ゆがんだ空間ごと奴をなぐった反動で、俺の腕が耐えれなかったらしい。

いかにステータスが高かろうとも。


激しく出血する右手を見ながら、俺は奴を睨む。

一発殴られた奴は、少し驚いた顔をしていたが、俺の腕を見て思いっきり笑い出した。


うるさい。

黙れ。


返せ。


ミュレの腕を。


俺が、もう一度血まみれの自分の腕を上げようとしたとき。

そっと手を添えられる。

「シュン様。無茶はしない約束なのです」

リュイに止められた自分の腕を見る。

自分の血で、その両手が濡れていくにも関わらず、リュイは優しく、しっかりと俺の手を包み込む。

「なんだぁ。女に諭されて、止まるのかぁ。お前は、女のイヌかぁ」


【希薄の】が煽って来る。

リュイにそっと止められ、冷静になった今なら分かる。

奴は、俺の手の届かない場所まで、一瞬で下がっていた。

俺を怖がったのだ。その上で、俺を怒らせ、自滅させる気だったのだ。

「ちっ。面白くねぇなぁ」

【希薄の】は、舌打ちすると。


ミュレの手をこちらに向ける。

「ほれほれ、これが欲しいんだろうが?」

うす笑いを浮かべながら、その腕を振る。


リュイの俺を握る手が震えている。

俺は、左手で、リュイの手を握り返す。


俺の腕の出血はすでに止まりかけている。

真っ赤にそまった二人の手を見ながら。

俺は、【希薄の】を睨む。


「その顔。その顔が気にいらねぇんだろ!」

奴が叫ぶ。

リュイの肩に、ナイフが突き刺さる。

しかし、リュイは、痛みすら感じないかのように、俺と一緒に奴を睨み続ける。


「なんだよ!てめぇら!気にいらねぇ。気にいらねぇ。そうだ、そうかよ!」

奴は、何かに気がついたかのように、ひとしきり笑う。


「てめぇらの、子供をやりゃ、少しは気がまぎれるかぁ!」

その言葉とともに。

リュイの大きなお腹に、剣が。

剣が突き刺さる前に、その剣が一瞬で消える。


「はぁ?」

慌てた様子の【希薄の】

剣に触れた光輝く羽が、はらはらと地面に落ちていき、吸い込まれるように消えて行く。


「私も、この子も。シュン様とともにシュン様と歩くのです」

リュイは、動かない。

「あなたのような、何もない人には、決して折る事も、奪う事もできない絆なのです」

リュイがはっきりと告げる。


「うるせぇ!ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ!」

叫ぶ【希薄の】

「奪い取ったもんの勝ちだろうがよぉ!」


「可哀そうな人なのです」

リュイの言葉に。

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

力一杯叫けぶ【希薄の】


「てめぇら、絶対に殺してやる!」

突き出したその手が。

鈍い音を立てて、消える。

「は?」

【希薄の】が上を見ると。

辺り一面に、光の羽が降り注いでいた。


それは、光の雪のようで。

幻想的で。

ミュレに触れた羽はミュレをやさしく包み込む。

気を失っていたミュレがゆっくりと体を起こす。

羽をもぐもぐさせているのは、ご愛敬か。

羽を飲み込んだ後、その風景に。

「綺麗なの」


小さく呟く。

その光の羽のなか、奴は、ゆっくりとその体が消えて行く。

「ふざけるな!なんで、次元が、次元かぁ!」

慌てて羽を払いのけるその指が。その手が消えて行く。

「逃げれば、逃げれば」

何か、紫の光が奴の後ろに生まれるも。

羽は容赦なく、その光すら消し去る。

腕が、肩が、羽に触れ消えて行く。

「なんだよ!な、、ん、、、」

それが奴の、【希薄の】最後の言葉になった。

顔に羽が舞い落ちた時。一瞬【希薄の】目に、涙が見えた気がしたが。

羽は、優しく、残酷に奴の頭を消し去った。


リュイの肩に触れた羽は、優しくリュイの体を滑り降りて行く。

俺にも羽は積もるが、俺の体を癒し地面に落ちて行く。

奴のナイフも。

全て消えて行く。

俺の中に入っていた致死毒も、全ての音すら一瞬で異次元に消し去って行く羽。


「シュン様」

リュイは、俺の手を握ったまま。

俺もリュイの手を握ったまま。

お互いに、口づけを交わすのだった。



俺達は、絶望的な戦闘をしていたと言うのに、突然現れた光景を。信じられない光景を見ていた。

辺り一面に、光の羽が振る。


シュンの結界の中から、絶望的な数の敵と戦っていたはずなのに。


全ての冒険者が、シュンの結界から出ていた。

だが、そんな事すら気にしていられない。

光の羽は、空から無数に舞い降ち。

全ての蛇を跡形もなく消し去っていったのだ。

何も無かったかのように。

羽は、蛇を消し、地面に吸い込まれて消えて行く。

ただただ、光が舞い降りるその光景は、綺麗と言うには、陳腐なほどだった。


「きれい、、、、」

誰が呟いたのか。

その光の中。俺は、がらにもなく、涙を流していた。


ただただ、音すらなく光の羽は全てを浄化するかのように。

魔物と言う俺達の敵を消し去っていったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ