表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/312

赤い腕

「ミュレ!」

俺が叫ぶのと同時に、落下を始めるミュレ。

感覚一体化が切れている。

ミュレが気絶しているのを確認した俺は、ミュレから飛び降りその巨体を肩に抱えるようにして持ち、絶対結界の上に降り立つ。

俺の肩の上で、元に戻るミュレを抱きなおし、すぐにナイフを抜き取る。

なぜか、下で、ニヤニヤと笑っている、【希薄の】


そんな奴を無視して、すぐに回復魔法をかける。

傷は一瞬で回復したのだが。

何かおかしい。

『致死毒です。この致死毒は、分かりにくくする効果がついてます』

データベースが、焦ったように警告をしてくる。


俺は、その言葉を聞くと同時にすぐに中和薬を口移しでミュレに流し込む。

少し、呼吸が穏やかになった気がする。


その姿にほっとしていると。

「なんだあ。バレたか。ほんとうに、気が付かない程度に、ゆっくりゆっくり浸透していくように作った、最高傑作の毒だったんだがなぁ」


【希薄の】は、にやけた笑いを浮かべたまま、俺を見上げる。


「で、遊びは終わりだ。お前はゆるさねぇよ。シュン!」

【希薄の】が叫びながら投げたナイフが、俺の絶対結界を通り抜け。

俺の足に突き刺さる。


しまった。

こいつの武器は、俺の結界をすり抜けるんだった。

俺は、そのナイフを抜こうとするのだが。

ナイフがつかめず、すり抜けてしまった。

「ケケケ。どうだ?俺の新しい技だよ。刺さった武器も抜けずに、ハリネズミになって死ねやぁ!毒とか、ちんけなもんで殺しはしねぇぞ!ミリで、切り刻んでやるよ!」


激しくナイフを飛ばす【希薄の】


俺は、痛む足を無視して結界を蹴り、さらに上空へ飛ぶ。

結界をすり抜け、飛んでくるナイフを躱したつもりだったが。


「がっ!」

肩に、一本。ナイフが突き刺さる。

いや、ナイフが突然、肩に刺さった状態で現れたのだ。


俺は、そのナイフを抜こうとするが、やはり、つかめない。

「ははは。はははははは!どうだ!怖いだろう!痛いだろう!泣けよ。わめけよ。命乞いしてみろよ!」


笑い続ける【希薄の】

「さぁ。次は、腹ン中でも、ぐちゃぐちゃにしてやろうか」

ニヤリと笑う【希薄の】


『スキル【顕現】です!こんなスキル、見た事ありません!』

データベースが、鳴き声を混ぜながら、報告してくる。


顕現。 物を空間に出現させるスキルではあるのに。相手の体の上に、直接武器を転送してくるとは。


俺は、空中から、地面に降りる。

足が、肩が痛い。

無意識に、ナイフを抜こうと手を動かし、やはりすり抜ける。


「俺の武器はなぁ。出たり、ひっこめたり出来るんだよ」

笑う【希薄の】


つまり、俺に刺さった状態のまま、次元がずれているのだろう。

空間のはざまにいる物体はつかめないが、ナイフが刺さっている状態なのは変わりない。

だが、これはこれで助かっているのかも知れない。

ぬいてしまえば、大量に出血するだろうから。


俺は、ミュレを地面にそっと降ろす。


「さて。さっきの黒猫が、可愛い嬢ちゃんだったのも、嬉しい誤算だなぁ。お前を動けなくしてから、先に女どもを切り刻むかぁ」

うっとりと顔をゆがめる【希薄の】を一気に切り裂く。


しかし、その体をすり抜ける俺の槍斧

「無駄だぜ。俺の体質を忘れたのか?」

にやにやと笑い続ける。


そうだった。こいつは、次元がずれている。

常に、別の次元にいる状態なのだ。

だから、絶対に切れない。

だが。

「空間に干渉できる魔法なら別だよな」

俺は、やつの回りにはりめぐらしたビットから、一気に空間収納の出入り口を作る。


「なっ!」

奴が叫ぶ声を聞きながら、その入り口をやつにかぶせてやる。


始めて。

始めて、【希薄の】は本気で後ろに跳び退いていた。

奴のナイフが、俺の空間収納に入った事を確認する。

やはり。

別次元にあろうが、別の空間に移動させてしまえば、大丈夫なのだ。

最悪、俺の空間収納の中に永遠に閉じ込めてしまえばいい。

人間や、生きているものは入れられないが、次元がぶれている奴にかぶせれば、ダメージは与えれるはずだ。


俺は、武器を構えなおす。

【希薄の】は、さっきまでの顔を真剣なものに変え。

「だから、きさまは気にくわねぇんだよ。死ねよ!消えろよ!」


突然、とびかかって来る。

俺は、空間収納の入り口を作り、それを待ち構える。

奴が、入り口に触れかけた時。

俺は、何かに突き飛ばされた。

いや。体当たりをされたといったらいいのか。

異常なステータスなはずなのに、なぜか突き飛ばされた俺が見たものは。


巨大な剣が空中に浮かんでいる姿だった。

その剣が切断しているのは。

小さな小さな腕。


にっこりと笑う、青い髪の少女の細い細いもの。

「ミュレ!」

俺が叫ぶと同時に。

ミュレの細い、小さい腕が空中に飛ぶ。


「間に合ったの」

ミュレが笑っているのが、分かる。

「ミュレっ!」

俺は、ただ叫ぶ事しかできなかった。



「ちっ。外したか」

残念そうに舌打ちをした【希薄の】は、空間の入り口の前で止まっていた。

やつは、そのまま、飛んで来たミュレの腕を掴み。

にやりと笑い。

その腕を舐める。

血まみれのその腕を。

「返せ!」

俺は、自分の斧槍を振り回す。

全てすり抜けるその攻撃を受けながら。笑いながら。

やつは。

ミュレの腕を食いちぎったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ