狂気再び
黒い炎の鳥が俺の下を飛び過ぎて行く。
その中で、周りもふくめ、炎の鳥が通り過ぎた後の全てのビックバイバーが燃え尽き、俺の空間収納に、蛇の丸焼きが大量に入って来る。
「本当に、チート過ぎるだろ」
俺は、呟かざるを得ない。
この世界には、広範囲、殲滅魔法は存在していないはずなのだ。
この世界には、爆発系の魔法は存在しないはずなのだ。
なのに。
目の前を飛ぶ鳥は、問答無用で、大量の死をまき散らしている。
「リュイばっかり、ずるいの。ミュレも、攻撃スキルが欲しかったの」
ミュレが、俺の下で、ぼそりと呟くのだが、ミュレがさっき得たスキルも、大概なものだと思うんだ。が。
「一瞬で、全回復するとか、ラストエリクサーを無限に持ってるようなものなんだぞ。お前がさっき得たスキルも、化け物だろ」
俺の声に、でも、でも、やっぱり、周りを全部倒せたら、気持ちいいの!と体を震わすミュレ。
危うく落ちそうになり、俺は、ミュレを軽くたたく。
丸焦げにして、空間収納に入って行くため、俺の前には、綺麗に一本の道が作られている。
女王蛇に向かって伸びているその道を俺は、ミュレを操り、飛んで行く。
そして、巨大は鳥は、これまた巨大な蛇についに衝突した。
衝突と同時に、一気に鳥が爆散する。
目の前に、ハートマークが出来た気がするのだが、気にしない。
炎に包まれ、暴れ出したクイーンバイパーが、その口を俺達に向かい大きく開ける。
その瞬間。
後ろのゲートから、さらに大量のビックバイバーが飛び出して来た。
「まだいるのかよ!」
叫びながら、風魔法を使い、あいつが呼び寄せた追加のビックバイパーを吹き飛ばす。
「行くのっ!」
ミュレがそう叫ぶと、爆撃に使っている黒い魔力弾を突然、口から打ち出す。
それは、空中で突然爆散し、飛んで来たビックバイバーを見事に撃ち落とした。
「やってみたら、出来たの!ミュレ天才なの!」
はしゃぐミュレに、俺は何も言えなくなる。
俺の嫁たちは、デストロイヤーか?
『魔力炸裂弾です』
データベースが、またしてやったりと報告してくる。
その報告を聞きながら、俺はすかさず回避行動をとっていた。
俺達のすぐ下を、竜の胴体とおもわんばかりの女王の巨体が、通り過ぎていくのが見えた。
飛んで来たらしい巨体をみながら俺は叫んでいた。
「いらずら報告は、後だ!ミュアっ!」
「シュン?ミュレは、ミュレだよ?」
回避行動を続けながら、ミュレが首をかしげる。
しかし、その言葉に返事をする暇もなく、俺は再びミュレに回避を告げていた。
やつのしっぽが、俺達を叩き落とそうと飛んで来るのを、さらに飛びすぎる事で回避する。
「流石にでかすぎるな」
「あの体で飛べるのも、信じられないの」
ミュレも、気持ちを切り替えたのか、クイーンバイパーを睨む。
激しく地面に衝突し、激しい土煙を上げているその巨体を見ながら、ミュレはふたたび空中で羽ばたき、口を開く。
「行くのっ!」
さっきより、大き目の魔力弾が、口から発射され。
クイーンバイパーに着弾。炸裂し、爆発を起こす。
その時に気が付いてしまった。ミュレの炸裂弾の中に、丸い核のような物がある。
「ミュレ、その炸裂弾、俺のビットを使ってるのか?」
その言葉に。
ミュレは、視線を別の方向に向ける。
「そうなんだな!」
頭を抱えたくなる。
俺のビットは、俺が使っても、爆発しないのに。
なぜか、俺の嫁たちが使うと、爆裂するらしい。
そのスキルを、その攻撃方法をずっと、ずっと探していたのに。
俺は、なぜか負けた気分になり、落ち込んでいたのだが。
「ミュレは、シュンのモノなの。だから、ミュレのこれは、シュンのスキルなの」
ミュレは、当たり前の事といわんばかりに返事を返す。
俺は、その言葉にミュレを撫でてやる。
足元で暴れるクイーンバイパーを見ながら、俺は気持ちを切り替える。
「一気にやるぞ!」
「はいなの!」
ミュレが、二発目を打ち出す。
俺のビットを核とし、打ち出された魔力弾がふたたびクイーンバイパーを打ちのめす。
「とどめだ」
俺は、そう呟くと。
空中にビットをばらまく。
「行けっつ!」
俺の言葉に反応し。
黒い板となったビット達は、クイーンバイパーを切り刻む。
激しくのたうちまわる巨大蛇を空中で見ながら、さらに出て来る蛇たちを食い止めるため、ゲートも、俺のビットで、切り刻み、破壊する。
「打ち止めだ」
俺が呟くのと同時に。
クイーンバイパーは、その頭を持ち上げ、俺を睨みつけた後。
その体を地面に沈みこませ、動かなくなったのだった。
「次は、残りの蛇の処理なの」
ミュレがそう言い、爆撃用の魔力弾をビックバイパーに撃ち込んだとき。
俺の頭の中で、激しいアラームが鳴った。
「ミュレ、回避!」
俺の言葉に間髪入れず、すぐに横へと飛ぶミュレ。
その羽が、数枚空中に舞う。ミュレの血とともに。
「なになの?!」
驚いているミュレに、とっさに回復魔法をかける。
回復魔法のおかげで、血は止まったらしいのだが。
俺は、地面を睨む。
崩れるゲートの前に立っていたのは。
「ケケケ。ダメだなぁ。せっかくの実験用ゲートを壊しちゃぁよ。【皇の】に怒られるだろう。けど、また会えたなぁ。ピンクの子もいるみたいだし。楽しいなぁ」
そう言いながら、自分のナイフを舐める姿がおぼろげながら見える。
「腕はくっついたのか」
俺が呟くと。
「うるせぇよ!でめぇは、さっさと死ねよ!」
そのナイフを投げて来る。
俺は、ミュレに回避を告げる。
ミュレも、すぐさま回避行動をとる。
なのに。
ナイフは、ミュレの胸に吸い込まれていた。




