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チートを超えるチート

「右側を先に叩くぞ!」

俺は、ミュレに怒鳴るように指示を出しながら、空中を飛び回る。

ミュレも、感覚が一体化しているせいで、すぐに反応してくれる。


ミュレに怒られた俺は、なぜか少し晴れやかな気持ちで、大量の蛇と戦っていた。


「数が多いの!」

ミュレの泣き言も聞こえるが、そんな事は十分わかっている。

「やるしかないんだ!あいつらくらいは、町に帰してやらないとな!」

俺は、ミュレ叫び返しながら一気に魔力を解放する。

冒険者たちは、無事に帰してやりたい。

そんな気持ちを反映するかのように、小さく地面があちこちで弾け飛び、数多くの血が舞い散る。

ミュレの魔力弾をばらまいた結果なのだが。

焼石に水か。


「爆発系魔法が無いのが、こんなに辛いと思った事はないの」

全く数が減っている様子が無い事に。ミュレの泣き言はまだ続いている。

だが、仕方ない。

爆発系、広範囲魔法が何故か無い世界なのだ。

俺も、何度も作ろうとはしてみた。

しかし、火炎魔法は覚えらえれるのに、竜巻は作れるのに、火災旋風すら作れない。

何かの力が、広範囲、殲滅魔法を作る事を邪魔しているとしか思えない。


そんな事を思っていると。

「あのね、ちょっと、言いにくい事が起きたの」

ミュレが、小さく呟く。

感覚を一体化しているので、ミュレの言いたい事も分かっていた。

「魔力が無くなったの」

そう言いながら、どんどんミュレの体が小さくなっていく。


俺は、慌てて空中に絶対結界を張り、その上に立つ。

力尽きて、ぐったりしているミュレを抱き絞めたまま、俺は、まだビットを動かし続ける。

ビックバイパーがいなくなった訳じゃない。

戦いが終わったわけじゃないんだ。

何とか、数を減らそうと、空中から魔法を撃ち落とすのだが。


自分自身が、飛び回れなくなったせいで、ビットの展開がさっきまでとは違い、遅くなってしまっている。

「ちょっと、やばいかもな」

俺も、無限の魔力があるわけじゃない。

これだけの数だ。

全部を倒せるわけもないし、女王が呼び寄せているのか、データベース上でカウントされているビックバイバーの数は増える一方だ。

決着の仕方すら分からない。


飛び上がって来たビックバイバーが何匹か、俺の足元の絶対結界にぶつかり、落下していくのが見える。

俺の絶対結界の高度も少しづつ下がっている。

「上に上がるか」

俺は、そう呟きビットを数個。

自分の回りに改めて出した時。


ぱくっと。突然、ミュレは、俺のビットを食べてしまった。


「おい!」

俺がびっくりして叫んだ時。

ミュレが、にっこりと笑い。

俺の唇も一瞬で奪われる。

次の瞬間。

俺は、再び獣化したミュレの上に乗っていた。


一体化した感覚が、ミュレの魔力が全回復しているのを感じる。

『ミュレが、【魔力吸収(夫)】のスキルを手に入れました。』


データベースが不機嫌そうにそんな報告をしてくる。

そのスキルは。


かつてミュアが持っていた、『譲渡』の下位互換。

譲渡は、二人がキスし続けている必要があったのだが、ミュレが覚えたスキルは、俺のビットから、魔力を吸収するもの。

ただ、誰でもなんでも吸収できるわけではなく、俺の魔力ビットからだけ吸収できるらしい。

今、俺の魔力の総量は、正直、大隊規模すら超えていると言ってもいいくらいの量がある。

俺自身の魔力切れはまず無いと思っていいのだが。


「元気はつらつなのっ!」

どこからか怒られそうな発言をしながら、ミュレは再び空中を飛び回る。

俺は、そんなミュレの体を撫でてやる。

「まったく。俺の嫁たちは、なんでこう、訳の分からないスキルを手に入れるんだろうな」

確かに、特訓すれば。

強く望めば。

スキルは手に入る。

しかし、こんなスキルがあるなんて思いもしなかった。

「ミュレも、リュイも、シュンがいれば、無敵なのっ!」

どや顔で叫ぶミュレ。


そんな時。

俺の足元が、いきなり爆発した。

俺も、ミュレも、一瞬呆気にとられる。


そう。

俺の足元の蛇の大群の中で、爆発が起きたのだ。

起きるはずのない爆発が。

辺りに、黒い炎が舞い散り。

さらに、黒い炎が次々に爆発し始める。


俺が、呆気にとられていると。

「リュイなの!」

ミュレが叫ぶ。


俺が見たその先で。

犬鳥に乗ったファイと、真剣な顔をした、ピンクの髪の少女が立っていた。


「リュイさん、やっぱりこんな無茶は、駄目だと思うんやけど」

ファイが、おずおずと声をかける、ピンクの髪の少女は、そんな言葉など耳にも入らない様子で、本気で怒っていた。

「シュン様は、無茶しかしないのです!目を離すと、すぐこれなのです!」

ファイなど、視界にすら入っていないかのように、一人で怒鳴るリュイ。


「あれほど、無茶をしないでと言ったのに、なんでも一人でやろうとするから、本当に相石は大変なのです!」

リュイは、その怒りを紛らわすかのように。

自分の回りに次々と飛んで来るシュンのビットをその斧で弾き飛ばす。


弾き飛ばされたビットは、黒い炎に包まれ。

ビックバイバーに着弾して、ビックバイバーを弾き飛ばす。

その身を黒い炎に包まれたビックバイバーは、破裂して、周りのビックバイバーを巻き込み、さらに破裂を繰り返していく。

連鎖の爆発。

そう。

今、リュイが使っているのは、この世界に今までありえなかった、広範囲殲滅魔法であった。



結界に囲まれた中で、茫然と目の前の光景を見ていた。

今、何を見ているのだろうか。

シュンに作ってもらった、結界の中という安全圏の中で、俺は、ガルスは信じられない物を見ていた。


力尽きたのか、巨大な鳥のような姿から小さな少女に戻った、シュンの奴隷と思われる女の子は、突然力を取り戻し、再び空中を舞い始める。


魔力回復薬を飲んでも、あそこまでいきなり回復はしないはずなのだが。

疲労まで無かったかのように、元気に飛び回る黒い鳥に目を奪われていると、いきなり目の前で、ビックバイバーが弾け飛び始めた。

次々とはじけ飛ぶ蛇に、俺を含め、パーティメンバーも他のメンバーすら叫び声を上げている。

俺も何が起こっているのか、理解できない。


ただ分かっているのは。

この現象を起こしているのは、今、ドンキさんが普段乗っている犬鳥から、降りてきたピンクの髪をした少女だと言う事。

そして。彼女は。


「シュンの嫁たちも、本当の化け物ですか」

小さく呟く声が聞こえ。

俺は心の底から納得してしまっていた。

シュンも化け物だが。

ミュレさんも、リュイさんも。

本物の化け物だったのだと。




「まったく」

俺は、ミュレの上で、苦笑いしか出なかった。

俺の嫁たちも。無茶をする。


大きいお腹を抱えたまま、ビットを力いっぱい弾き飛ばすリュイ。

はらはらしながら、見ているしか出来ないファイ。

ミュレは、そんなリュイを一目見ると、小さく頷き。一気に大物に向かって飛び始める。


半分置いて行かれている気分の俺を無視して、黒い爆発が追いかけて来る中、クイーンバイパーに一直線に飛ぶミュレ。


俺は、そんな二人を感じながら。

自虐的な笑みではなく。

心の底から。

微笑みを浮かべた時。

「めんどくさいのです!」

そんな言葉が聞こえた気がした。


俺が、疑問に思った時。

一気に俺の魔力が何かに、抜かれて行った。

思わず、吐き気しかしない、クソまずい特性ポーションを取り出し、一気飲みする。


ポーションを飲み終えて、一息ついて後ろを振り返った時。

真っ黒い、翼を生やした炎の鳥が、超低空を飛んで来るのが見えた。


「俺より、お前らの方が、チートだろう?」

そう呟くしかなかった。


そう。

リュイは。

俺のビットを大量に一斉に飛ばしたのだ。そのビットは、巨大な炎の鳥を作り出し俺達の下を一直線に飛んで行く。

俺のビットで作った巨大な魔法陣を叩き、俺の大量のビットを使ったビットスキル。

『【愛鳥】です』うきうきしたかのような声で、説明してくるデータベース。

ちょっとしたイタズラが成功したかのような声に、苦いがおいしい料理を作った時のミュアの顔を思い出す。


俺のビットスキルは、データベースが一部、管理しているはずなのだが。

「勝手にビットを大量生産しやがったな」

俺の声に。

俺のデータベースはだんまりを決め込むのだった。

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