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予期せぬ介入

「あの人たちだと、無理なの!」

ミュレが叫びながら、冒険者の方へと飛んで行く。

次々と飛んで来て襲い掛かる蛇を薙ぎ払いながら、俺達は冒険者の方へと向かっていた。

すでに、冒険者たちは、囲まれている。

しかし、まったく気が付いていない。

「このままだと、全滅だっ!急げミュレ!」

「分かってるのっ!」

俺達は、弾丸のように、飛び降りて行くのだった。




「無茶だ!」

ガルスが、飛んでいったシュンの後ろ姿に向かって叫んでいた。


「リーダー?」

ガルスのパーティメンバーが、その姿に声をかけると。

「ああ。分かっているよ。分かってるよ。あいつが、化け物なのはな。でもな」

ガルスは、唇を噛みしめる。

「俺はよ。戦争に出たから知ってるんだよ。英雄なんて言われたやつがさ、10人に囲まれたら、何も出来ずに死ぬんだよ。たった、10人だぜ。素人みたいな、剣も持った事ないようなやつ10人に、英雄が勝てないんだよ」

ガルスは苦々しい顔をする。

他の冒険者パーティも、下を向いていた。

皆知っている。

大軍と言われるものの恐ろしさを。

囲まれる事の怖さを。

「ええ!?」

沈んだ空気の中、気配察知を使っていた魔法使いが、突然叫び始める。

「とんでもない数ですよ!?多分100以上はいます!」

自分の剣を持つと、ガルスは突然立ち上がる。

「行くぞ!」


その言葉に。

冒険者は全員覚悟を決めた顔をしていた。



「少しずつ、こっちに引っ張れ!奥に行くなよ!囲まれたら終わりだぞ!」


冒険者たちの所へ近づいて行くと、ガルスの叫び声が聞こえる。

多分、数匹ずつ引っ張り倒して行くつもりなのだろう。

しかし、彼らが見えていない範囲で、すでに囲まれつつあるのが、空中からだと良く分かる。


遠くから、ゆっくりと包囲網を狭めているのも見える。

「馬鹿がっ!」

俺は叫びながら、あいつらの目の前に落下するかのように、着地した。

「何しに来た!」

思わず叫んでしまう。

ミュレは、俺を置いてすでに再び空中に飛び上がっている。

俺と感覚を同一化しているためか、ミュレの見ている物が、地上にいてもなんとなく分かる。


すでにしっかり蛇に包囲されていた。

半径は、一キロ近い円を作るように囲まれている。

「あの女王蛇、なかなか、やるじゃないか」

俺が呟くと、突然怒られた冒険者たちが我に返る。

「んな事言うんじゃねぇよ!お前、数の暴力って言葉を知らねぇのか!俺はよ、何人もそれで死んでいった奴を知ってんだよ!」

ガルスが叫ぶが。

俺は、そのガルスの叫び声にかぶせるように叫び返す。

「数の暴力なんて、経験しっぱなしなんだよ!俺は、いっつも数万、数千と戦ってばかりだからなっ!お前たちが来ても、どうにもならない数だから、来るなって言ったんだよ!」

その言葉に、冒険者全員が、言葉を失った時。

「動き出したの。一気に詰めて来る気なの」

ミュレの考えが俺の中に聞こえて来る。


感覚一体。便利ではあるが。

空中から見える、理不尽さと、数の暴力を絵にしたような風景が見えてしまい。

俺は、小さく笑う。


「な、な、な」

あまりの数の多さに気配察知がうまく働いていなかったのだろうか。いや、近づいて来たから、感知出来たのか。魔法使いたちが突然頭を押さえて、うずくまり始める。

「なんだ!どうした?」

ガルスが心配するが。

「気配察知を切れ!あまりの数の多さに、気が狂うぞ!」

俺がとっさに指示を出すと、皆魔力の放出を止めるのが分かった。

「おい。シュン。それって、どういう意味・・・?」

ガルスが俺を見つめるが。

その意味はすぐに理解する事になった。


黒い壁。

そう言うしかない、蛇の群れが360度、全ての方向から見え始めたのだ。

「そういうことだ。数が違うんだよ」

俺は、笑みを浮かべたまま、ガルスに返事を返す。


「来てしまったんだ。覚悟を決めろよ。ガルス」

玉のような汗をかいている、おっさんに、俺は笑いかけると。

絶対結界を、冒険者がいる場所の、全包囲にかけていく。

冒険者を囲むように。

冒険者パーティを包むように。


突然現れた光の壁に、慌てる冒険者たち。


「心配するな。俺の結界だ。絶対壊れないから、その中から、敵をつついていりゃいい。だが、絶対出るなよ。出たら、結界の中へは戻れなくなるぞ」


俺は、それだけ言うと、結界の外へ出て、最後の結界を張る。

結界は、出たら中へは入れないが、中から、外へ出る事は可能だ。

だが、それを見せるため、思いっきり、自分の結界に体当たりをしてやる。

びくともせず、俺をはじき返す絶対結界。

それを確認した後。

俺は、自分の武器を構えなおす。

自分の槍を握りしめながら、自分の口がゆがむのが分かる。

にやつく笑顔が出てきてしまう。



その瞬間。目の前にミュレが落ちて来た。

そう。ミュレが自分から落ちて来たのだ。

シャーと怒りながら。


「シュン、今、一人で戦おうとしてたのっ!絶対ダメだのっ!ミュレもいるのっ!」

力いっぱい、年下の妻に怒られる。

俺が、一瞬気が抜けてしまった時に。

ミュレに咥えられ、俺は再び空に飛んでいた。

「ミュレがいるんだから、シュン様は、ミュレに乗ってたらいいの」

そんな声が聞こえて来て。

俺は、今までの薄ら笑いではなく。

空中で、本気で笑ってしまう。


うん。そうだな。ミュレがいる。

冒険者たちは自分の結界で囲んだんだから、空中から、爆撃すればいい。

やる事は変わりないじゃないか。


無数の敵と切り合い続ける事を考え、悲痛な考えに陥っていた俺は、軽くなった気持ちをミュレを撫でる事でミュレに、伝えるのだった。


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