うごめく大地
「ミュレも、甘く考えてたの」
【神獣化】を見せて、びっくりしていた冒険者たちを置き去りにして、俺達は目的地についていた。
冒険者たちが、ミュレが巨大化するのを見て騒いでいたが、まぁ、気にしてはいられない。
俺達は、データベースの地図が真っ赤に染まっている一角を空から見ていた。
「昔、テレビで見たけど、蛇の島みたいだな」
俺がそう言うと、ミュレがぶるっと震えるのが分かった。
「ちょっと、ミュレ、この数は苦手なの」
ミュレが呟くのも良く分かる。
今俺達の真下に見えるのは、見渡す限りの蛇だった。
地面すら見えず、一面全てが、うごめく黒い物体に覆われている。
それが、少しの範囲ならまだしも、上空から見える範囲全てという凄まじい数だった。
「増殖でもしたのか?」
「こんなの増やしたくないの。増やしても全然いい事ないの」
万。いや、下手したら、数十万、数百万はいる。
「まぁ。見てても気持ち悪いだけだからな。やるか」
「とってもやりたくないの」
俺の言葉に、ミュレはしょんぼりした返事を返して来る。
俺はそんなミュレの体を小さく叩いてやり。
「さあ。やるぞ!」
自分に気合を入れる意味で声を張り上げる。
と同時にミュレと感覚を同化していく。
ミュレが震え。
「にゅっ!いきなりは、ダメなのっ!」
そう言いながら、ミュレと感覚を同調し、一体化していく。心に侵食されていくようで、支配される感覚が、嬉しいと感じるミュレが、少し興奮しているのは、やっかいな性癖のせいだろう。
俺は、ミュレの体に顔を一度うずめ。
ミュレの臭いを嗅ぐと、ビットを展開するのだった。
「なんでも来いなのっ!」
突然元気になったミュレに笑いながら、空からの攻撃を開始する。
ミュレも、獣の血があるようで、自分の臭いを嗅がれたり、俺の臭いを嗅ぐのは好きなようなのだが。
感覚が一体化しているので、俺がちょっとだけ気持ち良くなっているのが分かったらしい。
猫を見たら、時々、吸いたくなるじゃないか。
ミュレの機嫌が、一気に良くなる。
ビットを、地面すれすれに飛ばしながら、俺は情報を集めて行く。
ビックバイバーは、大型犬くらいの高さと太さを持つ巨大蛇なのだが、比較的おとなしい魔物だ。
締め上げられたり、人間くらいなら大人でも飲み込まれてしまうが、ディアボロスのように、飛ぶわけでも、バリジスクのように、辺り一帯に毒をまき散らすような凶悪な攻撃はしてこない。
ただ、ただ、巨大な蛇なのだが。
「さすがに、この数は嫌になるな」
俺は、ビットから、魔法を放ち、数を少しずつ減らしながらも呟く。
ミュレも、魔力弾で空爆して、俺の追撃しているのだが、まったく地面の蛇の数が減る様子はない。
「もう、飽きてきたの」
ミュレが呟く。
俺も飽きてきているのを感じていた。一向に数が減る気配すらない。
「しかし、こんな数、どこから来たんだ?」
俺が呟くと。
「ミュレも、分からないの。帝国でも、これだけの数が来たら絶対に大騒ぎなの。森から出て来たとは絶対に思えないの」
ミュレが俺の独り言に返事を返してくれた時。
俺のビットの一つが、とんでもない物を見つけた。
紫色の光を放つ、巨大なゲート。
そして、その前にそびえたっていたのは、4階建てのアパートに匹敵するような大きさの巨大蛇。
「なんで、見つけられなかったんだ!」
俺は思わず叫んでいた。
クイーンバイパー。蛇の女王。 バジリスクとは違い、蛇を呼び寄せ、コロニーを作る女王アリのような蛇の女王である。
凄まじく大きいのだが。あれは、魔の森でしか見た事がない。
俺が、40年孤独に戦っていた時に、見かけた事はあるが、あまりの大きさに隠れてやりすごした奴だ。
奴は、常に無数の蛇を回りに連れているため、俺一人だと絞殺される未来しか見えなかったヤバイ奴なのだ。
「あの光の中からさっき出て来たの!」
獣人特有の視力で見えたらしい。ミュレが叫ぶ。
それを聞いて、俺は納得してしまった。
あのゲートは、昔に炭鉱で見たゲートに良く似ている。
あれも、無限に魔物を吐き出していた。
炭鉱のゲートでは、やっかいなゲジゲジまで出て来ていたし、亀や、ムカデも大量に出て来ていた。
それと同じように。
きっとさっき見た、ジャイアントバッファローもこのゲートから出て来たのだろう。
それなら、こんな平原にあの魔物がいた理由も分かる。
そして、これだけの数の蛇がここにいる理由も。どっかから、移動して来たのか。
「ゲートが開いたから、移住でもしようと思ったのか」
「それは、絶対にやめて欲しいなの。ミュレ、気持ち悪くて眠れなくなるの」
ミュレの毛が逆立つのが分かる。
まぁ、ミュレの意見には、俺も賛成である。
こんな風景をみたら、しばらくは悪夢にうなされそうだ。
「ミュレ、あの女王からやるぞ!」
「はいなのっ!」
俺の指示に、元気に返事をして、巨大な蛇に向かい飛んで行くミュレ。
しかし。
いきなり、目の前に蛇の口が現れる。
慌てて、槍で殴り飛ばす。
おとなしく地面に落ちていくビックバイバーを見ていると、すぐ次々とビックバイパーが、地面から飛びあがってミュレに襲い掛かって来た。
次々と跳びあがり襲い掛かって来る蛇を叩き落としていくのだが、流石に数が多い。
俺が、対処しきれずに、噛まれると感じた時。
ミュレは、咄嗟に、さらに空高く飛びあがり、蛇のジャンプの届かない高さまで飛び上がって逃げてくれていた。
「面倒なの」
「だな」
遥か空中で、一息ついたミュレの言葉に、俺も呟く。
女王蛇の高さは、他の蛇もジャンプができる高さらしい。
明らかに女王に近づけないように邪魔をしてきていた。
「やっぱり、上空から、空爆が一番いいか」
俺がそう呟き、ビットを大量に発動させたとき。
「なんでなのっ!シュン!厄介な事になったのっ!」
ミュレが突然叫ぶ。
俺が何か起きたのか分からず戸惑っていると。
データベース上の地図に、緑色の丸が十何個近づいて来るのが分かった。
「まさか」
俺が呟くと。
「まさかなのっ!あの人たち、こっちに来たのっ!」
ミュレが悲痛な声で叫ぶ。獣人の異常な視力にて、見えていたらしい。
俺は、思わず頭を抱えるしかなかった。
必死の形相で、走ってくる冒険者たちがなんとなく見える。
そう。
俺と一緒にいた冒険者たちが、範囲感知の魔法を使い、大量の敵を察知して、俺とミュレが心配になり助けに来たのだった。




