冒険者。
「ちょっと困った事になってね」
ドンキに冒険者として呼ばれた俺は、ドンキの屋敷でティーソイラテを飲んでいた。
ドンキは、少し笑いながら、こちらを見て来る。
「実はね、西の森からビックバイパーが大量にこちらに出て来たらしいんだ。かなり拡散しているようでね」
その言葉に、俺は、思わずラテを噴き出す。
ビックバイパー。
バジリスクやら、ウロボロスを相手にした俺にとっては、アオダイショウのような物なのだが、この辺りの冒険者にとっては、まったく違う相手である。
こちら、フェーロン共和国の冒険者は、魔物との闘いにまったく慣れていない。
帝国の冒険者なら、5パーティくらいいれば、あっさり殲滅できるのだが。
「で、今回の依頼なんだけどね」
ドンキは、にっこりとこちらを見て来る。
俺は、思わずどんな無茶をいわれるのかと身構える。
「冒険者3パーティを引き連れて、戦闘指導をお願いしたいんだ」
その言葉に、俺は、思わずドンキを見つめ返す。
「本気か?ビックバイパーは、Cランク以上の冒険者ならおいしい獲物だが、この辺りの冒険者は、魔物との闘いにおいては、Dランク以下だぞ。多分、死人がでるぞ」
俺が、問い返すと。
「だから、君への依頼なんじゃないか。全員を守りながら、指導できるでしょ?」
にこやかに笑うドンキからは、拒否は受け付けないという激しい圧力を感じる。
「分かったよ。やれるだけやってみるよ」
俺は、小さくため息を吐きながら答えるのだった。
出立の日。
「ミュレ、飛ばなくていいの?」
ミュレが、そう聞いてくるのだが。
「今回は、冒険者との共闘になるみたいだから、飛ばなくていいよ」
俺がそうミュレに伝える。
そんな会話をしていると、リュイが俺の手を握りしめ。
「一緒に行けないのが、本当に残念なのです。本当について行きたいのです」
と寂しそうに笑う。
俺がそんなリュイの頭を撫でると、再びリュイは顔を赤くし。
「ミュレ、シュン様をお任せするのです。絶対に守って欲しいのです」
とミュレの顔を見る。
そんなリュイに。ミュレは小さく拳をにぎりしめながら。
「大丈夫なのっ。任せて欲しいなのっ」
元気に返事をするのだった。
「なるべく、子供が生まれる前に、帰って来て欲しいのです」
最後にリュイにそんな事を言われれば、頑張るしかない。
俺は、そのままキンカの町の入り口に向かうのだった。
そこには、冒険者が3パーティー、15人が集まっていた。
一つのパーティが5人で編成されているのだが。
「リーダーの、トラスだ。よろしく」
そう言う20代前半の青年のパーティは、剣士が3人。魔法メインと思われる人が2人。全員男性。
「よろしくね。リティよ」
女性がリーダーを務めるこちらは、3人の魔法メインと思われる女性と、2人の剣士。
こちらは、全員女性。
「まぁ、頼むわ。ガルスだ」
そう言う、40代と思われる男性がリーダーを務めるパーティは、2人の剣士の女性と、2人の男性の剣士。魔法メインは一人。
「ああ。よろしく。俺が、シュンだ」
俺は、小さく返事をする。
「基本パーティーで動いてもらう事になるけど、まぁ、食料はこちらが出すから。あと、戦闘だが」
俺は、周りの冒険者を全員見回す。
まったく知らない人達だ。
闘い方も全く分からない。
「途中で、野生オオカミでもいたら、戦ってもらって見させてもらう」
俺の言葉に、全員が体をこわばらせるのが分かった。
この共和国では、ほとんど魔物と遭遇することは無い。
出合えば死ぬこともあるくらいだ。
その中で、野生オオカミは、結構危ない種類の魔物に分類されている。
帝国では、町から町へ移動したら、ほぼ確実に出合う敵であり、あとは数が多いか少ないかの問題で、数が多すぎれば逃げるしかないが、少なければ、比較的に簡単に倒せる魔物ではある。
そんな中。
俺達は出発したのだった。
「ゆっくり歩くのは、久しぶりなの」
ミュレが笑いながら、俺の回りを走り回る。
俺はそんなミュレを時々しかりながら歩いていた。
後からぞろぞろとついてくる、冒険者たち。
比較的、周りを気にし過ぎている気がするのは、気のせいではないはずである。
俺は、そんな彼らを見て、小さくため息を吐くのだった。
その夜。
俺は、全パーティの食事を大鍋でささっと作り。
食べ過ぎて、動けなくなったミュレを横目に、冒険者の魔法使いたちを集める。
「一日、一緒に歩いて来たけど、普段の護衛とかも、こんな感じ?」
俺がリーダーたちに声をかけると。
「いつもは、もっとのんびりしてるけど、出る前にオオカミとの戦闘があると言われたから、緊張しちゃって」
と、リティが苦笑いをする。
その言葉に、俺は小さくため息をつく。
ドンキが言いたい事が分かった。
圧倒的に、闘い慣れをしていない。
つまりは。
育てろ。と言う事なのか。
「いろいろ分かった。で、これも、実はキンカの領主さんからの依頼なんだが」
俺は、皆を見回す。
「スパルタがいいかい?」
俺は、小さく彼ら、彼女らを見ながら笑うのだった。




