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幕間 勇者の再起

「手伝ってくれないか?」

僕の言葉に、冒険者たちは皆目をそらして出ていく。


僕、ロア・カロッゾは、必死に冒険者を誘っていた。

昔の同級生も、後輩も。さらには、新人と思われる子にも声をかけていく。

しかし、ことごとく断られてしまう。


この前騒動で、僕の名声は地に落ちている。

いや、それ以下かも知れない。

噂を聞いたCランクの冒険者からは、「破滅のロアだろ?一緒に死にたくは無いから辞めとくわ」

と言われてしまった。


それでも、僕は毎日のように冒険者に声をかける。

この勧誘も、自分の中では贖罪と思っている。


軍隊を。他人の命を預かるという覚悟。

自分の一言で何千という人間が命を落としてしまうというその恐怖。


その全てを分かったつもりでいた。

知っていたつもりでいた。

だが現実にその全てを失い、自分の部隊の兵士達の遺族に泣かれ、罵られ。

僕は、命の重みと、軍を扱うという指揮官という重みを知ってしまった。


ライナが、レイアがいなければ、僕は自分で自分の胸を刺してしまっていたかも知れない。

それほどに、一人一人の声は僕の心をえぐっていった。


兵士の家族に、挨拶に行こうと思ったのはなぜだったのか。もう忘れてしまった。

でも、行きたかった。彼らが、何をして、どんなことをして生きて来たのか。

知らなければならない気がしたんだ。


家族の言葉に、僕の全てを削り取られた後。

僕は、ライナと、レイアに完全によりかかってしまっていた。


彼女たちにすがり、泣き。

慰められ。彼女達に怒りをぶつけ。

それでも、彼女達は僕を捨てないでいてくれる。



ずっと行っていた謝罪は、この1年で、2000の兵士の半分に達していた。


そう。一年。

国王から、冒険者の部隊を作って欲しいと言われて一年が経っていた。


全ての人に断られ。

ギルドで、声をかけ。

朝と、夜に家族へお詫びを言いに行く。

そんな生活。


疲れは感じていた。

焦りもあった。

しかし、辞める訳にはいかなかった。


それが、僕の浅はかな考えの結果で、僕に与えられる罰なのだから。


今日も、ギルドで冒険者に声をかける。

すると。

「【魔力球の】ロア先輩ですか?」

一人の女の子が声をかけて来てくれた。


「私、ロア先輩のファンなんです!いろいろあったみたいなんですけど、それでも好きなんです!一緒にさせてもらっていいですか?」


タヤと言ったその少女は、僕の1個下の少女だった。

いや、僕ももう27になる。

彼女も、もういい女性だ。

僕は、その子の手を取る。

「僕は、何も出来ないし、何も残ってないけど。けど、僕を支えてくれると嬉しい」

その言葉に、女性は、頬を赤らめながらうなずいて返事をしてくれた。


一人。

たった一人。

でも、僕には新しい一人。


僕は泣きながら、お礼を言う。

その姿を見ていた冒険者が、僕の肩を叩く。

「最近ずっと見ていたんだが。やりたい事があるのかい?団長」

そう言ってくれたのは、昔の同級生。

今は、パーティーのリーダーをしている人だ。


「助けて欲しい。この僕を」

僕は、泣き顔のままその人に返事をする。

彼は、笑いながら。

「いいぜ。同級生の頼みだ。付き合ってやるよ」

そう言ってくれる。

僕は、本当に。

心から。

泣きながら彼らにお礼を言うのだった。



「大丈夫ですか?」

パーティー毎付き合ってくれることになった同級生は、ガイと言う名前だった。

今、ライナが傷ついた彼らに回復をかけている。


「聖女様に回復してもらえる日が来るとは思わなかったな」

「ほんと。ガイと一緒のパーティで良かった」

「【爆炎の女神】のレイア様も、本当にきれい。あんなになりたいな」

「私も、いつかロア様の子供欲しいなぁ」


怪しい言葉を発するタヤはともかく、ガイのパーティメンバーは、本当にいい人たちだった。

ライナは、タヤを警戒しているのか、時々黒いモノがライナの後ろに見える気がするのだが。


ガイのパーティと一緒になる事で、僕の一日はさらに忙しい物になってしまった。


朝から、冒険者の勧誘を。

お昼すぎから、ガイたちと討伐依頼を中心に仕事を行い。

日が完全に暮れてから、兵士達への謝罪へと向かう。


だけど、僕が行くと最近はあまり怒鳴られることは無くなっていた。

ロア・カロッゾの名前を出しても、扉を閉められることも無くなった。


許されたとは思わない。

しかし、僕のそばで、僕の手をまだ握ってくれる二人の妻は何も言わずに謝罪周りにもずっと付き合ってくれている。


僕は、この手を離すことがないように。

命を守るために。

生きる事を決意するのだった。






「ダルワン」

冒険者ギルドの一室で、頭を気にするマスターがダルワンの報告書を見て、うっすらと笑う。

「どこで、これだけの情報を仕入れてくるんだが。

本当に、お前は怖いな。軍の情報部にでもいるのか?」


酒をあおりながらダルワンは笑う。

「これのおかげだ。飲めば、大体の事は分かるようになるもんだ」

ギルドマスターは、笑うしかない。

その飲み代は、自分の依頼料と、前にシュン君からもらったと言う、大金貨だろう。

シュン君にAランクカードを渡した後。

ダルワンは、シュン君から大金貨を一枚もらっていた。

理由は。

「ミュレを助けてくれて、守ってくれてありがとう」

とのことだった。

まったく。

奴隷として贈られた時は、どうなるかと思ったのだが。

あの時、ミュレ君を見て安心できた。


大切にされている。

そして、ミュレ君もシュン君を大事にしていた。


「アムが叔父になるのは早いかもな」

俺があの3人を思い出し、笑っているとダルワンは人の悪い笑みを浮かべる。

「本当にジジイになるわけだ」

その言葉に、手元の書類を突き付けながら叫ぶ。

「うらやましいかっ!泣いて悔しがれっ!」

「バーカ、お前の事じゃねぇよ。俺のがミュレと一緒にいた時間は長いんだよ。本当のジジイは俺に決まってるだろうが」

ダルワンは、そう言いながらニヤリと笑う。


意地の悪いジジイだ。

俺は、ミュレの可愛さをダルワンにこんこんと言い放ってやる。

しかし、負けずにダルワンも、言い返してきやがる。


俺と、奴のミュレの褒め合い合戦は1コル(2時間)以上続くのだった。


ダルワンの報告書には、ロアがパーティを作った事。

ロアのパーティのおかげで近隣の魔物退治が一気にはかどっている事。

もしかしたら、ライナが妊娠している可能性がある事が書かれていた。


大きな騒動はあった。

しかし、訪れた束の間の幸せを堪能するのだった。






これで第2章終わりです。

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。

もう少し、日常の穏やかな日々がかける技量が欲しいと思うこのごろです。

もう少し続きますので、読んでいただけたら幸せます


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