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報酬。

「俺達は、ここに残るよ。にゃんが、出産するまでな」

俺達が、獣人の町から、王都に一度戻る話をしていると、ヒウマが入って来て、笑いながら話しかけて来た。

話を聞けば、少し動き過ぎたのか、にゃんの体調があまり良くないらしい。

まあ、お腹が大きいままここまで移動してきたし、その上でのバジリスク襲撃だったしな。

さらには、父親である長の看病までしていたようだし。

結局、王都に戻ると母子ともに危ないので、このまま獣人の町。つまりは、にゃんの実家で出産をさせる事にしたとのことだった。

「にゃんの事を考えたら帰るに帰れなくてな」

そう言って笑うヒウマは、完全に父親の顔だった。

俺達が町を出る時。

やっと毒が抜けた長が、笑いながら拳を出して来る。

「また、来てくれ。親友」

そういう長は、心からの笑顔で笑っていた。


拳を合わせ、俺達は、ミュレに乗る。

どうしたわけか、ミュレに乗ってもリュイは酔わなくなっていた。

二人に何かあったのか聞いて見ても、二人で顔を合わせて、「「内緒です」なの」

という返事しか返ってこなかったから、ちょっと気にはなるのだが。


まぁ、そんなこんなで王都に帰って来た俺達は、冒険者ギルドに向かう。

「ああ。シュンさん。なかなか帰って来ないから、心配していたんですよ」

帰って来てギルドに入ると、そうそうに受付のお姉さんにそう言われ。

そのまま、ギルドマスターの部屋に案内される。


頭が薄くなってきたギルドマスターは、俺を見るなり立ち上がり、力いっぱい俺の手を握って来た。

「よかった。よかった。討伐依頼は出したものの、数がまったく不明だったから、心配していたんだが。しかも、なかなか帰って来ないしな。最近の状況も考え、何かがあったのかと思って、捜索依頼も考えていたんだ」

そんな事をひとしきり話すと、そのままギルドマスターは、俺達3人に椅子を進めてくる。

「話をしてくれないか?」

そう言われれば、依頼報告をするしかなかった。


「で、オークナイトがいた。と。さらに、【明星の】がいたと」

ギルドマスターは、俺の話を聞きながら頭を抱えている。


「最終的には、【明星の】がオークナイトを持ち去って消えていったと」

俺の報告の後、ギルドマスターは、じっと考え事をしていた。

そして、顔を上げると。

「報告は聞いた。信じられないが、君の言う事が本当であるなら、国難級の依頼になるところだった可能性がある。しかも、4Sまで絡んでくるとはね」

じっと、俺の顔を見るギルドマスター。

「それと、こちらが確認している事で、君の報告漏れの件だ。村長と、警備主任に、武器を渡しただろう?」

その事を言われ、少し動揺する。

「あの武器は、流石に危険度が高すぎる。だが、接収する権限は私たちにはないからな。

国王と相談して、あの武器に関しては、見て見ぬふりをすることにした」

俺は、混乱する。

今話をしているのは、冒険者のギルドマスターのはずである。

なのに、今、ギルドマスターが言っている言葉は、まるでこの王国の代表のようでもある。


「オークナイトの存在は、確認できていない。だが、溶け切ったオークが何十体もいたのも確認している。普通に40体はいたとの報告だ。その規模であるなら、オークナイトがいても疑問は無い」

リュイと、ミュレが、俺の手を両方から握ってくる。

二人とも、不安を感じ始めたらしい。

俺は二人の手を握り返して不安を減らしてやる。

そこまで言うと、ギルドマスターは、にこやかに笑う。

「シュン。君には、言っておくよ。なぜ、一介のギルドマスターが、ここまで知っているのか。私は、ね、アムの育ての父親であり、そこのミュレ君を隠したんだよ」

そう言って、ふっと笑みを浮かべるギルドマスター。

「ミュレは、アムと一緒に住んでいたけど、その生活費やら、二人が勉強できるように環境を整えたりね」

そう言った時。

「おいおい、その辺は、俺の仕事だっただろ?」

後ろから入って来た、一人の老人の顔を見て、ミュレがびっくりする。

「ダルワンおじさん!」

奥から入って来たのは、酔っ払いのじじい。


「ダルワン。怪しい冒険者と思ってたが、今は怪しさ限界突破だな」

俺が、ダルワンに声をかけると。

ダルワンは、頭を掻きながら。

「まあ。冒険者をずっとやってて、一度Aランクまで上がるといろいろお願いされるんだよ。

まさか、お前が、王族やら、ギルドマスターとここまで絡んでくるとは思わなかったしな」

そう言いながら、苦笑いをする。

腰の水筒がちゃぽっと音を鳴らす。

「おじさん、また酒飲んでるのっ!体壊れるから、控えた方がいいのっ!」

ミュレが、椅子を乗り越えそうなくらい体を乗り出してダルワンを叱っている。


ダルワンは、その声に頭を掻きながら小さくうなずくばかり。

「孫に叱られる、じいさんだな」

俺が呟くと。

「その孫をかっさらって行った奴に言われたかねぇよ」

と返されてしまう。

「で、さっきの話だが、本当なのか?【明星の】がオークナイトを持っていったと言うのは」

ダルワンの質問に、うなずいて返事をする。


ダルワンも、しばらく考えていたのだが。

「理由は分からないな。俺の知っている事を合わせても、思いつくことが無い」


顔を上げると、俺を見て、真剣な顔をするダルワン。

「4Sは、王国の敵というか、アムと、お前の敵になった。話を聞くと、どうやら大臣は【皇の】に乗せられて西の侵略を始めようとしていた節もある事が分かった」

その言葉にうなずき同意するギルドマスター。

「お前にいたっては、4Sからしたら、玩具から、邪魔者に昇格したようだ。多分、これから本格的に攻めてくるだろう」

その言葉に、俺は背筋が震える。

こっちも敵と認識していたが、相手も敵として見てくるのか。

4Sの強さを知っている以上。

俺は、まだ繋がっている二人の手を強く握る。

二人とも、俺の顔を見て、すぐに俺に頭を寄せてくるリュイと、腕に絡んでくるミュレ。

「私は、シュン様と常に一緒です。いつでも、シュン様を守るです」

「ミュレ、転生者なの。転生者は最強なの!?大丈夫なのっ!」

二人が俺を励ましてくる。

俺は、そんな二人に笑って返事をしてやる。

そんな俺を見ながら。


「あーあ。俺も、嫁を見つければよかったな」

「仲がいいのは、分かったが、あまり見せつけてくれないでくれるかな」

と、年長組ふたりにたしなめられてしまった。


「で、今回の依頼報酬なのだが」

ギルドマスターは、自分の机に大金貨を一枚置く。

俺は、その金貨に思わず目を見張る。

だって、100万だぞ。

「これは、依頼報酬だ。オークナイトがいたとするなら、これでも少ないが、事実確認は不明だ。だが、残っていたオークの死体を見るかぎり、その可能性は高い」

さらに、もう一枚、大金貨が増える。

「本当なら、白金貨と言いたいところなのだが。そういうわけにもいかなくてな。すまない。その代わりと言ってはなんなのだが」

ギルドマスターは、そう言うと。

奥から、さらに、ギルドカードを持って来た。

「今回の件。北の坑道の件。西の砦の防衛の件。東の竜討伐の件」

俺が今までやって来た、大きい事件を並べていくギルドマスター。


「全てを考えた所、君をいつまでもDランクにしておくのは、あまりにもおかしい」

俺は、ふと自分のギルドカードを見る。

そういえば、バタバタしていて、まったく気にしていなかったが、俺はDランクだったんだ。

「しかも、王族として国に関わる依頼も受けてもらう事が増える可能性は高い。ランクが低いがために、君が不当な扱いを受ける事があってはならない。今現在では、君は隣国の領主の守護下にあり、隣国の冒険者の扱いではあるが、この国の国難に対して、お願いすることもあると思われる」

ギルドマスターは、俺の顔を見続ける。

「だから、今回のこれは、ギルドからのお願いでもある。君にこのカードを持っていて欲しい」


そう言って、渡されたカードは。

Aランク。


俺が、ギルドマスターを見ると。

さらに、2枚のカードが出て来る。

リュイと、ミュレのカードだ。

リュイは、Cランク。ミュレはDランクのカード。

「身分証明証は必要だろう?」

そう言うギルドマスターは、悪い顔をしていた。


「絶対、このカードをもらったいきさつは言うんじゃないぞ」

そう言って念を押してくるダルワン。

そりゃそうだ。

本来なら、ギルド養成学校を卒業するか、25歳からの冒険者登録試験に受からないともらえないカード。

それを、ギルドマスター権限で出しているのだ。

いわば、闇卒業。コネ卒業証書である。しかも、リュイにいたっては、いきなりCランクである。

それは言えば、俺の件についても同じなのだが。

普通なら、ゆっくりランクを上げていくはずなのに、突然のAランク昇進などありえない事である。

「シュン君に対しては、申告漏れの依頼達成数がかなりあるから、こちらのミスで処理させてもらっている。気にしなくていい」

ギルドマスターは、再び悪い顔で笑みを浮かべる。


「それと、オークの肉や、魔物の素材を少し売ってもらえないかな?」

そう言って、笑うギルドマスターだった。



「はぁ!ふざけんなっ!なんでこんなものの頭があるんだよっ!」

ついでに使い道がないため、買い取ってもらおうと出したバジリスクの頭に対して、怒りだすダルワン。


「これは、やっぱり、アレか?」

困惑するギルドマスター。

「アレだよっ!国難級モンスターバジリスクだよっ!」

叫び続けるダルワン。

Aランクモンスターとは良く言ったものだ。

結局、ため息を吐きながらギルドマスターは、大金貨をさらに2枚追加してくれるのだった。







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