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幕間 王国再建

「本気で言っているのかい?」

僕は、国王に言われた事に対して問いただしていた。


僕は、自分のせいで自分の兵士を全て失ってしまった。

何一つ残っていない。

同級生のヒウマは、僕のスキルを使って、人を助ければいいと言われたけど、僕自身が許す事が出来ない。

シュンも、自分自身も。

だから、全てを捨ててもう一度冒険者に戻ろうと思っていた。

妻たちにも、別れを告げて来た。


そして、今、国王にその報告をしに来たのだが。

国王から言われたのは、ただ一つ。

「せっかくの団長だ。捨てるわけにはいかないよ」

だったのだ。


少し前。僕は、城に呼び出しを受けた。

理由は分かっていた。今回の失態の責任を受けなければならない。

僕は、国王の前で静かに頭を下げる。首を斬りやすいように。

「ロア・カロッゾ。君には、蒼碧騎士団壊滅の責任を取ってもらう」

首をとられても仕方がない結果なのは分かっている。

「たった今から、蒼碧騎士団の団長の任を解く」

当たり前だろう。僕に団長の資格はない。

「敵の戦力を見極めれず、突撃させるなど、無知の極みである」

シュンが、あんなに強いとは思わなかった。

けど、結果は結果だ。受け入れるしかない。

「また、自身の強さも、十分とは言えないものである」

あの強さと同等を求めれても、僕には無理だ。

「しかし、団長を任されての任期が短いのも事実である」

僕は、突然変わった口調に、国王を思わず見上げる。

「そして、その団長になるように命じたのは、私である。よって、責は、私にもある」

頭が混乱する。国王が、アムが悪いわけではない。

今回の事は、僕が全面的に悪いし、あやまっても、泣いても見逃してくれる事じゃない。

「兵士達にも、家族がいた。その事を深く考え、罪悪と考える事は悪い事ではない」

僕は国王が何を言いたいのか分からない。

「よって、ロア・カロッゾには、蒼碧騎士団から外れてもらい、新たに設立する、邀撃部隊、青龍隊のリーダーを命じる」

その言葉に、僕はあっけにとられて、思わず発言してしまう。

「本気で言っているのかい?」

不敬にもとられるその発言に。


国王は笑っていた。

「君のせいでと言いたいけど、その前にも私の指示で、数千人の被害を出しているしね。5000人の兵士を失ったこの国は、すでに危ないを通り越して、滅亡寸前と言ってもいい」

国王は、笑みを一瞬で消し僕を見つめる。

「ならば、人をかき集めなければならない。青龍隊は、冒険者を中心に編成し、ロアが気にいった人間を集め、編成し、育成を行っていい部隊だ。抱える人間が多くなれば、報告に来ればいい。丸ごと抱えあげる準備もある」

その言葉に。

僕は再び頭を下げる。

「まぁ。ぶっちゃけると、冒険者を集めて部隊を作って欲しいと言う事だよ。育てながらね。人数は、1000~2000人。冒険者をそれだけ集めるのは、そうとう苦しいと思うが、頑張って欲しい」

国王が笑ってくれる。

「と同時に、東の港町への街道工事を行う事にしている。君には、その警備と、護衛、途中の宿町、村作りの手助けをお願いしたい。これは、冒険者への依頼となる。ロアが、君が依頼主になる仕事だ。」

僕は、思わず体が震える。


「はるか東の大国。海の向こう側のベッフェル公国との本格的な交易も始めたいしね」

軽い口調で言うが、それは、今までだれも成しえなかった事。今も貿易はあるが、本格的な物ではない。


陛下は、立ち上がると、声を荒げる。

「罪を感じるなら、全力で、私を支えてみせろ。ロア・カロッゾ」

国王の言葉に、僕は、床に額がつくほど頭を下げるのだった。





ロアが出て行った後、王座に座りなおし、僕は、おおきなため息を吐く。

「慣れない事はするものじゃないよ」

僕は、再びため息をつく。

王として。

この国の現状がどうなのかは、知り尽くしているつもりだ。

国々の歴史なら、昔の記憶が残っていて、世界の歴史も覚えている。

少しなら、町おこしに口出しした事もある。


そんな中。

この国は、どうにもならない状況なのは明らかだった。

この国の資源は何かと言われれば。

実は、魔物の素材なのだ。

北の鉱石はたぶんすでに取り尽くされている。

南一か所に農地が固まっているのに、オークが住処を張る森が近くにあり、安心、安定した食料も確保が難しい。

西の砦の向こうの森からは、何度も魔物の大量進攻があったと言う。

しかも、王都との交流もなく、西の砦は孤立させていたらしい。


結局、完全に安全なのは、東の港町なのだ。

僕が小さい頃に、竜が出たため町が流されてしまったらしいが、被害はそれほど多くなかったと聞いている。

村が数個消えたくらいで、港町はほぼ無傷で残っている。

十分発展可能だ。

だが、問題が一つ。東の港町への直線上には、森がある。

「切り開きながら、道と街道町の整備。兵士が出来る仕事量じゃない」

結局は、冒険者頼みとなる。

冒険者に、道の整備を頼むのは、初めてではある。

だが、この国には、商業ギルドも、建築ギルドも無いのだ。

何もない。

そう言ってもいい。

今まで、ここまで発展出来た事が奇跡に近い国なのだ。

「この状態で、隣を攻めようとか、寝言だよ」

大臣の野望を思い出しながら、ふかくため息をつく。


「町と、街道の整備を行いながら、冒険者の育成と仕事のあっせん。警備兵の再編成、遠征、魔物の大群に対する、討伐軍の再編成」


自分で書き出した仕事量を見て、笑いが出てしまう。僕を殺す気だよね。これ。

泣きそうな顔をしながら、アムは目の前に書き連ねたやらなければならない事を少しづつ進めるのだった。




「「ロア様!」」

城を出た瞬間。僕は、元妻に呼び止められた。

いや、正確には、二人が目の前に立っていた。

僕が茫然と立っていると。

ライナが近づいて来て、僕は頬を叩かれていた。

ライナが泣いているのが分かる。

「私は、ロア様の妻です!ロア様が、苦しい時も、きらびやかな時も、地を這っている時も一緒にいるのが妻です!勝手に決めて、勝手に出て行かないでください!あなたを捨てるのは、私たちの意思でのみです!そして、私たちは、絶対あなたを捨てません!」

城の前で、門番の兵士の前で、怒鳴られてしまう。

僕は、そんなライナを見る。

泣いていた。

彼女は、全力で泣いていた。

綺麗だった金髪も、ぼろぼろにして、彼女は泣いていた。

「たった一度負けたくらいで、何ですか!私に、愛を、希望をくれた人はどこに行ったんですか!」

レイアも、泣いていた。


その時になって、僕は、いかに自分が自分勝手だったのかを気づかされてしまった。

今まで、この二人を本当に頼っていたのだろうか?

いや、都合のいいパーティーメンバー程度の考えだったのかも知れない。

その事に気が付いてしまい、僕は、その場に立ち尽くす。


全力で泣いている二人を見て。

夫婦とは、なんなのか分かって来た気がする。

僕は、初めて。

そうこっちの世界に生まれて初めて、二人にむかって自分から土下座する。

「ほんとうにごめん。僕は、今まで勝手だったと思う。今まで支えてくれて本当にありがとう」

二人は泣き止まない。

「だから、もう一度、いや、これから僕を支えて欲しい。こんな勝手な僕だけど、支えてくれるかい?」

僕は、初めて妻達に土下座のままお願いをする。

二人は、僕の前に座り。

「当たり前です。ライナは、ロア様の妻です」

「何があっても、一緒にいると決めたんだ。ついて行くのはあたりまえよ」

二人は、泣き笑いのまま返事をしてくれる。

僕は、今日、初めて二人と結婚したのだと実感したのだった。




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