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穏やかな夜

黒い服が舞い踊る。ひらひらと舞う服を邪魔だと払いのける。

ふと、女性の顔が見えたような気がすると。

まばゆい光が突然辺りを照らす。

女性がその光を持っていた。

その中に、一人の少女が眠っている。

青い髪の少女が。

そして、笑いながら女性はその光を握りつぶし。

光の泡となり、四方に散らばる。

俺は、必死に叫びながら、その欠片を集めようと手を伸ばし。


「行くなっ!ミュアっ!」

俺は、叫びながら起き上がる。

全身汗をかいていた。

嫌な夢だった。

ミュアの事を思い出し、俺はうつむく。


その時、俺の膝で眠っているピンクの髪の少女が見えた。

「リュイ?」

疲れ切ったのか、熟睡している彼女の顔は幸せそうでもある。

俺は、その頭を撫でてやり。

身じろぎするリュイを見て、微笑む。


そして、周りを見回す。

俺の寝かされていたベッドは一人用のはずなのだが、横に、青い髪の猫耳少女も寝ている。

狭いだろうに、丸まって寝ている彼女は、落ちるギリギリだった。

猫をずらすように、少しベッドの中央にずらしてやる。

そこまでして、やっと俺は記憶が戻ってきた。

「ああ。そうか」

俺は小さく呟く。

バジリスクと戦い、俺は、自分を盾にして、ミュレを守ろうとして、致死毒と、溶解液の中に立っていたんだった。

自分の体を見れば、体のあちこちが痛いし、じくじくと爛れているのが分かるが、それほど痛みは無い。

毒は、しっかり浴びたはずだし、解毒薬を飲んだ記憶は無いんだが。

そう思った時、リュイの近くに空になった瓶が数本あるのが見えた。

さらに一本、見覚えがある薬が残っている。


「これを、俺に飲ませてくれてたのか?」

俺は、俺の上で寝ているリュイに問いかける。

しかし、彼女は熟睡中だ。

この薬は知っている。俺も作る事が出来る。

致死毒を消す薬草、中和草と俺は呼んでいたのだが、この草を軽く煮詰め、草を煎りすりつぶし、その汁を少量ずつ入れながら粉にした草を煮詰めドロドロにしたものだ。

普通なら飲める代物じゃない。

まして寝ている人間が飲めるような物でもない。


でも、この薬の吐きそうなほどの苦みは俺の口に残っている。

ふと見ると、リュイの唇も青く染まっている。

「そういう事か」

俺は、ふっと笑うと、リュイの髪を梳いてやる。

多分、直接自分の口から流し込んでくれだのだろう。

苦かっただろうに。

一人で、40年過ごした時に感じた事がある味だ。

俺は、昔の記憶をよみがえらせながら、彼女をねぎらってやる。


そんな穏やかな時を過ごしていた時。

この家の入り口が開く音がした。

そっちの方を見ると、大きなお腹を抱えた小さい少女が入って来るのが見えた。

「を。起きたにゃ?良く寝てたのにゃ」

そう言いながら、両手に抱えていたロックバードの足焼きを降ろすにゃん。


「うん。もう、大丈夫そうにゃ。あの馬鹿の方を見に行くから、邪魔者は退散する事にするのにゃ」

そう言うと、にゃんは、するっと俺達が寝ている家を出ていく。

「今回は、本当にありがとうにゃ。ヒウマ以外で、カッコいいとちょっと思ったにゃ」

そう言い残して。


俺は、自分に回復魔法をかける。

傷が治って行くのが分かる。その上で。

目の前にある薬をがぶ飲みする。

にげぇ。

ただただ苦いその緑色の液体を飲み干し。

俺は、自分の空間収納から同じ薬を数個取り出す。

昔、ミュアと一緒に薬草を採取した後、何個か作っていたものだ。

20個はまだあるはず。

そして、その瓶を見ながらふと思う。

「傷に致死毒が入って、全身に浴びていた以上、もう死んでるはずなんだけどな」

夢を思い出す。

ミュレが助けてくれたのかも知れない。


かすかな記憶の中。

魔力ビットが、おかしな形を作っていたのを思い出す。

ふと気になって、ビットを出して結界を張ってみるも、黒い板が出ただけだった。

虹色の板も、羽も出て来ない。

「まぁ。そうだよな」

俺が呟いて、切断結界を解除した時。


俺は、いきなり押し倒されていた。

ピンクの髪が、俺の胸で震えている。

俺は、もう一度その髪を撫でながら、笑う。

「ありがとうリュイ」

その声に、明らかな鳴き声で。

「おはようなのです」

と胸から返事が聞こえたのだった。



「で、がんばりすぎたと?」

次の日。

俺は、高熱を出して寝込んでいた。

ヒウマが、呆れた顔で俺を覗き込む。

リュイが、後悔半分、心配半分で俺を看病している。


俺は、返事も出来ずに顔をそむける。

仕方ないだろ。獣2匹に襲われたんだよ。

最初は一匹のピンクの獣だけだったのに、いつの間にか、青い獣まで参戦して来たんだ。


今までなら、夜の時は絶対リュイが寄せ付けなかったのだが。


「まぁ、分からんでもないけどな。今回は、流石に俺も死んだと思ったからな。バジリスクがあんなに強いとは思わなかった」


ヒウマは、笑いながらヒウマから目をそらした俺の顔を見る。


「親父に代わってお礼を言いたい。シュン。本当にすまない。そして、ありがとう。獣人に死人が一人も出なかった事は、奇跡としか言いようがない事態だ」


俺は、その言葉に少し照れてしまう。

犠牲なし。

その言葉が俺をねぎらってくれている気がする。

「しかし、あんなのが、何回もおりて来るなら、引っ越した方がいいんじゃないのか?」

俺がぼやっとした頭で、ヒウマに言うと、ヒウマは頭を振る。


「あんなのが、何回もおりて来てたまるかよ。100年に一回降りてくるかどうかの魔物だ。

普段は、もっと弱いやつしか降りて来るわけないだろ?数十年に2回もおりてくるなんて、大災害もいいところだ」

ヒウマは、全身で怒りをまとい返事をする。


そうか。バジリスクの襲来は、大災害みたいなものなのか。

そう思えば、俺は少し納得した気になった。


「まぁ、毒は抜けきってないんだ。無理したツケと思って寝とけ。シュンが倒れてるのを見るだけで、レアだから、いい物を見させてもらった」


そんなヒウマのあおりを聞きながら、そのまま、眠たくなり、俺は目を閉じる。

ピンクの髪の反対で、頭をベッドに乗せたまま眠っている青い髪の少女を感じながら。




俺が次に起きた時、完全に毒は抜けていた。

あと、数個出した薬は、半分瓶がなくなっていたので、誰かが使ったのだろう。


リュイは、俺の横で寝ていた。

ミュレも、いつの間にか横づけしたもう一つのベッドの上で眠っている。


多分、今は夜中だろう。

データベースを起動すると、夜中の1時の時間を教えてくれる。


俺は、布団を抜け出る。

体が重い。外に出れば、少し肌寒い。

改めて確認すると、ローブはぼろぼろになったのか、腰に布を巻きつけているだけの姿だった。

そりゃ、襲われるわな。

どうでもいい事を考えながら、何日寝ていたのか、ふと気になってデータベースに聞いて見ると。

『4・日・で・す!』

と少し怒った口調での返答が返って来た。

その声が、ミュアの怒った口調そっくりで。

思わず、笑みが出てしまう。


ミュアを思い出して泣くことは無くなった。

隣に、リュイが、ミュレがいてくれる。

支えてくれる。

ミュアを忘れたわけじゃないけど。

「大事な人ばかり増えるな」

俺は小さく、夜空をみながら呟く。

データベースが何かを言った気がしたが、気にはならない。

何故か、ミュアと一緒に夜空を見た夜を思い出しながら、俺はしばらく夜空を眺めていた。


後ろから、リュイの心配した声が聞こえてくるまで。




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