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獣人と、人を捨てた者

「ちっがうっ!もっと、ギュッツとして、こう、腹にグッとして体をグアッともとに戻す感覚だっ!」

「全然分からないなのっ!」

ミュレは、今必死に獣化の解除の仕方を教えてもらっている。

獣人の町に来て、数日が経っていた。

獣化は、感覚らしい。

しかも、獣人の町の中でも、獣化できるのは長の一族を始めとする限られた一族のみだと言う。

それだけに、獣化を解除する方法を教えられる獣人も少なかった。


「分からないのが、不思議なのにゃ。にゃんは、早めに覚えれたのにゃ」

にゃんが、そう言いながら、揺れ椅子に座りミュレの練習風景を見ていた。

「いや、感覚派かよ」

思わずそう突っ込みたくなる。


この数日、ミュレは、獣化解除が出来ないために、足場や、街が作られているヘビの道の折り返し部分につくられた広場で寝ていた。


今も、広場で獣化したり、人間に戻ったりしているにゃんの、おじさんと言われていた人に徹底的に怒られている。


俺はというと、リュイと一緒に獣人の町を観光していたりする。

その姿に嫉妬したミュレが、

「ミュレも、一緒したいなのっ!」

などと、駄々をこねたりもしたのだが、リュイがふっと視線を向けると、ミュレは、大きい獣化した体を縮めて「ミュレ頑張るの」

と返事をしたりしていたのだった。


この数日、獣人の村を観光していて分かった事は、主食が肉な事。

しかも、王国では乗り物として使われていたロックバードがメインだった。

そのため、獣人の町では養殖をしているらしく、ロックバードが、広場や、廊下から落ちそうなくらい、あちこちにいたりする。

小さいロックバードも、人が乗れるサイズのロックバードも。

ヘビの道のようにくねくねと崖を削った所に、家が掘られているのだが、その道の高さは180cm近い俺が普通に歩いて、両手を上げても軽く飛んでも天井には届かない。2メートル下手をしたら、3メートル近く高さがあるし、幅も、俺が横になれるくらい広い道なのだが、ロックバードがあちこちを走っているため、歩きにくい状況になっていた。

まぁ、それはおいておいて、岩の中に向かって作られている家の中も十分な高さと広さがあったりする。

しかも、横に広げるのは禁止だが、奥に広げるのは、自由らしく、長の家も、奥は工事中になっていた。


「スープの材料が増えるです」

リュイが嬉しそうに、獣人の店で、肉を買い込んでいく。

にゃんは、王都ではきちんと服を着ていたので、気にならなかったのだが、獣人の町では、ほとんどの人が、服を着ていなかったりもする。


「まぁ。体が全てだからな。獣人にとっては。強そうだったら、モテるんだよ」

ヒウマは、笑いながら獣人スタイルと言う、腰布を巻いただけの恰好で過ごしていた。


にゃんも、今はふつうに裸である。

その事を知ったリュイが、真面目な顔で。

「私も、脱いだ方がいいです?」

と聞いて来たので、全力で否定したのだが。

リュイの素肌は絶対に誰にも見せたくない。


俺も、しっかりローブを着こんでいたりする。

「シュン様!こっちの、骨アクセサリーが、じゃらじゃらで可愛いです!」

リュイが、笑顔で俺を呼ぶ。

苦笑いを浮かべながら、俺はリュイの買い物に付き合うのだった。




それから、数日。

ミュレは、力尽きて人間に戻ってしまい、俺たちが今使わせてもらっている家のベッドで寝ていた。


「痛いの。体が痛いの。動きたくないの」

そう言いながら、俺にくっついてくるミュレを撫でてやると、安心するのかすぐ寝てしまう。

「これはこれで、可哀そうと思うのです」

リュイも、あまりに痛がるミュレに、同情の顔をしていた。

あまり効果は無いようなのだが、今日、何回目かの回復魔法をかけてやって、ミュレのそばを離れた時。

「シュン殿」

と突然声をかけられた。

俺が顔を向けると、そこには、にゃんの父親である長が立っていた。


「お世話になってます」

いつ入って来たのか、分からなかった事に、悔しさを感じながら俺は挨拶をする。

長は、俺の顔をひとしきり見直して。


「ヒウマから聞いた。シュン殿は、相当な手練れとの事ではないか。手合わせを願いたい」

腕組みをしたままで、いきなり闘いを申し込まれてしまった。

「それとも、獣人の相手は出来ぬか?」

そんな事を言われてしまえば、家を貸してもらっている手前、断る事も出来ない。


結局、広場で俺と長は向き合っていたのだった。


「シュン。親父は強いぞ。がんばれよー」

気が抜けるような投げやりな応援をするヒウマ。


「武器は、自由に使って良い。私の武器は、これだがな」

そう言って長は、自分の腕を見せて来る。

なぜか、直感で分かってしまった。

この人は、手加減される事が何よりも嫌いな人だ。

「素手に、武器は卑怯かもしれませんが、全力で行かせてもらいます」

俺はそう言うと、自分の槍斧を取り出す。

長は、にやりと笑うと。

「全力、感謝する」


体を猫が獲物を狙う時のように体を小さくする長。

俺は、ゆっくりと槍の真ん中を持ち、構える。

次の瞬間。


激しい衝撃とともに、俺は数歩後ろに吹き飛ばされていた。

長の拳を槍で受けたのに、両手が重く感じる。

「さすが。一撃を耐えるか」

長は、そういうと、再び突撃してくる。

早い。

猫。いや、豹が獲物にとびかかる時の圧迫感か。

両手から繰り出される拳は、俺の横を通りすぎる度に、音を切って行く。

これは。

ビットも使用するべきか。

俺は、防戦一方になってしまい、そんな事を考える。

そんな事を考えていた時。

長の拳が、俺の腹に入ってしまった。


「ぐっ」

俺は、思わずうめくが、すぐに違和感を感じた。まったく痛くない。

一撃を入れた長はすぐに後ろに下がり、不思議そうな顔で自分の手を見ていた。

俺は、自分の体をもう一度確認する。


うん。痛くない。

ビットで防いだわけではない。


「シュン殿。どんな鍛え方をしておるのだ?拳が壊れそうな気がしたぞ」

長が、不思議そうな顔をする。

ああ。

そうか。4Sの。【希薄の】と戦うために、ステータスを爆上げしていたんだった。

俺は、一度構えを解き槍を軽く振るう。


「シュン殿は、本当に【人】か?ゴーレムよりも硬く感じたのだが」

長が手を軽く振ると、再び構えなおす。


人を捨てたステータス。

そんな感覚は今まで無かったのだが、一対一になると、実感してしまう。

「人を捨てる、、、か」

俺は、小さく呟き。

再び、槍を構えなおす。


上等だ。

獣人よりも、竜よりも強くなってやる。


守りたい人を守りたいだけなのだから。


再び突撃してくる長の体を槍で誘導するようにそらしていき。

俺は長の体に、蹴りを入れていた。


一気に吹き飛ぶ長。

3メートル近くある天井にぶつかり、そのまま地面に落下していく。


地面に叩きつけられた長は、激しくせき込む。

何度かせき込み、立ち上がる長。

その目が、いままでとは違う。まとっている殺気も違う。

俺は、始めて体を沈めて構えを取る。


3度目の突撃が来た時。

長の拳は俺には届いていなかった。


「これが、御法度なのは知ってるけどよ。親父、死ぬぞ!」

全身岩鎧をまとったヒウマが、長の拳を完全に受け止めていた。

青白く光っているようにも見えるヒウマの鎧は、長の拳を砕いたのか拳から血がしたたり落ちる。

「ふん。初日は、手加減をしておったのか?ヒウマ。私も、みくびられたものだな」


さっきまで長がまとっていた殺気は吹き飛んでいた。

俺も、槍を空間収納にしまう。


「ヒウマ、闘いに水を差すのは、厳罰だが、今回は見なかった事にしてやる。正直、頭に血が上ってしまっておってな。あのまま突っ込んだら、シュン殿に貫かれて死んでおったわ」


豪快に笑う長。

「シュン殿。ヒウマの友として、にゃんの友としてではなく、儂とも友になってくれ」

そう言って、潰れた拳のまま手を差し出す長。


「儂の名前は、ベヒモスだ。よろしくな。シュン殿」

その手を握り返しながら、告げられた長の名前に、巨大なカバを思い浮かべてしまう俺だった。


そんな時。

獣人の一人が、でっぱりになっている足場から飛び降りて来る。

「長!バジリスクが上から来ています!」

その報告に、長の目が再び殺気を帯びるのが見てとれたのだった。

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