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お気楽な猫

「寒くないです?」

さっきの戦いの後遺症なのか。

リュイは、俺にぴったりとくっついて離れない。

ミュレは、自分の体をしきりに舐めている。

俺は、リュイの頭を時々撫でながら、そんな光景をしばらく見ていた。


オークの残りは、【明星の】スキルで全て溶けてしまった。

オークナイトすら見当たらない。


ほんとうに、反則的な攻撃力である。

顔を赤くしながら、それでも離れないリュイ。

まぁ、【明星の】と戦っている間は、死んだと思ったからリュイを感じていられるのは嬉しい事だったのだが。


「ミュレ、そろそろ人に戻ったらどうだ?」

ふと、まだ猫竜のままでいるミュレに声をかける。

昔に見た、ヒウマの連れだったにゃんは、人と獣に自由に姿を変えていた事を思い出す。


「そういえば、ミュレの姿には、びっくりしました。シュン様は、見た事があるのですか?」

「ああ。昔に、先輩の彼女?が獣人で、獣になったりしていたんだ」


ミュレは、じっとこっちを見始める。

その後で。

「ミュレ!戻り方分からないの!」


元気に、力いっぱいとんでもない事を発した。



「前は、ほっといたら勝手に戻ったの!数日眠たくて寝てたの!」

元気に言うミュレ。

いや、それは魔力枯渇になったか、スキルが暴走して寝込んでしまったのではないのだろうか。

「だから、ほっとくと治るの!」


俺と、リュイは、そんなミュレの言葉を聞きながら、二人で顔を見合わせるのだった。





『元に戻れないのは、スキルの扱いが出来ていないだけだと思われます』


データベースで検索すると、そんな返答が返って来た。


「これは、相談に行くしかないかなぁ」

俺は、のんきにあくびをしている、巨大な猫を見ながらため息をつくのだった。


「早いけど、酔いそうです」

リュイは、ミュレの上で、ぐったりしていた。


ミュレに酔ったリュイは、今俺の胸の所でぴったりとくっついていたりする。

「ミュレ、頑張るから、帰ったらミュレもだっこしてほしいの」


そんな事を言いながら、ミュレは、俺たちを乗せて空を飛んでいた。

数日かかった南の村への道のりはもう終わりに近づいている。


歩いて数日かかった道のりも。

ミュレが飛べば1コル半(3時間)程度で着いてしまう。

改めて、ミュレのすごさを感じながら、少し前の事を思い出す。


ミュレを見て、バウスはいきなり討伐隊を組み始めて、説得するのに時間がかかってしまった。

その上で、謝って来るバウスをなだめたり、オーク討伐終了の話を聞いて、土下座しそうな勢いで感謝されたりといろいろあった。


さらには、村長のガッシュからも、大量の食料を渡されてしまった。

「私たちには、これくらいしかできません。どうぞお持ちください」

と言われてしまえば、断る事も出来ない。

彼らは、空間収納の事も知っていたので、さらに荷物になるからと断るのも無理であった。

そんな事を思い出しながら、目の前に見えて来た王都を俺は、見つめるのだった。





「ガッシュ。いいのか?」


村の中、バウスは自分の仲間でもある村長に話かける。

「こんな小さな農村で、これに見合うだけの報酬も、オーク退治に見合う報酬もあげれられないだろうよ」

バウスが言っているのは、渡した食料の事だろう。この村の一年の収穫の1/4に近い数を渡している。国を一年支える食料の1/4だ。

「足りない分は、備蓄分から放出するさ」

そうバウスに返事をしながら、ガッシュは、目の前にある剣を見て、ため息をつく。

シュンがオーク退治に出た後、これを振ってみた。

騎士達がここに逗留していたときに、自分も魔力の使い方を少し覚えた。

その経験から、この剣の本当の性能が分かってガッシュはその場にうなだれる事になったのだ。

「俺は、英雄でもなければ、勇者でもないからよ。こんなとんでもない武器をもらっても仕方がないんだがなぁ」

「俺も一緒だ。こんなしがない村の警備兵がこんな武器を持ってたら、何事かと思うよなぁ」

バウスもため息をつく。

この武器。

シュンがくれた剣は、振っていると、力が溜まる気がして来る。

そして、その力が限界に達した時、剣が開く感じがしていきなり炎に包まれるのだ。

その後は、炎が消えるまで凄まじい威力を発揮し続ける。


こんな武器、見た事も聞いた事もない。

「これを持って、どうしろというんだよ」

「今更、英雄を気取れるほど、若くないからなぁ。俺たち」

二人は、小さくため息をつきながら、剣を眺める。


「だが、これのおかげで、一人でオークも倒せる気がするぜ」

「無茶しようものなら、奥さんに殴られるぞ」

バウスの言葉に、ガッシュは小さく笑って返事をする。


シュンの言葉では、オークナイトが居たらしい。

二人とも信じてはいなかったが。

オークナイトは、A級。もしくはS級にすら分類される魔物だ。

一匹で、国をも滅ぼす事ができる存在。


そんなモノが居たと言われても信じる事は出来ない。

しかし、今目の前にある武器をあっさり作ってしまえる彼の言う事だ。


倒したと言われても信じたくなる。

「あの強さに、たどり着く事は、結局できねぇな」

「星を掴めるか試して見るようなものだな」

二人は、シュンと初めて会った昔を思い出す。


若い頃は、二人で、オークに突撃もした。無茶もした。

しかし。

結局シュンのような英雄にはなれなかった。

「まぁ、俺たちが認める英雄だ」

「分かってるよ。これからも、あの人の背中を見るさ。困ってたら、むりやり恩を返させてもらおう。俺たちのやり方でな」

「そうだな」

年を取り、家族を持ち、無茶が出来なくなった二人は、苦笑いを浮かべながら、走り続ける、自分達よりはるかに若い英雄を思い笑い合うのだった。


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