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横槍

「【神獣化(ゴット)】なのです」

力いっぱい、返事を返してくる巨大な猫。

猫というか、コウモリのような竜のような羽が生えているので、正確には猫ではないと思うのだが。

そんな姿になったミュレが、俺の足元で笑っているように感じる。

猫の姿なのに、言葉がはっきりと分かる。

「今の姿の方が、ご主人様とつながってる気がするの。不思議なの。このまま、押し倒されてもいいの」

いや。変態度は変わりないようだった。

「今は、無理だ。だが助かった」

俺が軽くミュレを撫でながら返事を返してやると、ぶるっと俺を乗せたまま空中で震えるミュレ。

そして、空をいや、俺たちを見上げているオークナイトを二人で見つめる。


「とりあえず」

「あれを倒してからなの」

俺たち二人は、初めて意見を一致させ。


「いけっ!ミュレっ!」

俺の声とともに、空中からオークナイトに突っ込む。

「行くのっ!」

ミュレは、黒い光をまといながら、オークナイトを弾き飛ばし、他のオークも切り裂く。

「ミュレ、この姿なら、黒弾も落とせるの」

そう言うと、自分を今まで包んでいた黒い光が弾幕のように弾け飛び、周りのオークを貫いて飛んで行く。


再び、空中に戻った俺たちは、二人で、笑い合うと。

空中から黒と、緑の弾幕をオークの集団に落とし始めた。



私は、今信じられない思いで目の前の光景を見ていたです。

私も、ミュレもシュン様を心配して叫んだとたん、ミュレが走りだし、目の前で、巨大な獣になり、シュン様をオークの群れから一瞬で助け出してくれたです。

私の方が、シュン様といる時間は圧倒的に長いはずなのに。私は一瞬ためらってしまったのに。

彼女はためらいなく走って行ったです。

兵士に囲まれたあの瞬間を思い出してしまった私はダメなのかも知れないです。

でもミュレの必死なその姿に、私は気が付いてしまったのです。

ミュレも、本気でシュン様が好きなのだと。

奴隷とかではない。一緒に過ごした時間でもない。

私が一目ぼれしたように。

彼女も、シュン様が好きで仕方ないのだと思うのです。

だから、自分を犠牲にしてでも。

彼を。旦那を助けてくれるです。

ならば。私も、覚悟する時なのです。

この世界で、彼のような人を一人が縛り付ける事は出来ない。

私たちドワーフは、一生を一人と添い遂げる。

けど、彼は人間。多くの妻を持つ種族。

そして、私も、半分の半分は人間。

だからこそ、嫌だけど認めなければならない時が来たのです。彼女の存在を。

私は、自分と、シュン様の分身でもある斧を握りしめる。

悔しいけど。

空を飛べない私には、シュン様のあの動きのサポートは出来ない。

「空は、任せるです。大地は、私が支えるです」

私は、目の前で、飛び回り二人一緒にオークをバラバラにしていく二人を見ながら小さく呟く。

二人は、空を自由に駆け回り、空中から黒と緑の光をばらまいて、敵をオークを倒して行く。

その光は、私とシュン様の持つ槍と、斧と同じ色。


「でも、シュン様の一番は、渡さないです」

私は、妻として、ミュレと女の戦いを始める覚悟を決めるのだった。



「気持ちいいのっ!」

激しく空中を飛び回り、急下降しながら、魔法をばらまき、地面すれすれを飛び、敵を弾き飛ばし、空中に上がる時にも、魔法をばらまき敵を殲滅させる。


「ミュレ、特攻機なのっ!」

そんな事を言っているが、特攻ならもう死んでるぞ。

そんな事を思いながら、俺はミュレを操る。

ミュレは、俺の思いが分かっているのか、俺が行って欲しい所へ飛び込んでくれる。

魔法のタイミングも、そうなのだが、俺が槍を振るい易いように体制を整えてくれたり。

何も言わないのに、何も話した事もないのにミュレが何をしたいのか一瞬で理解できてしまう。

ミュレも、俺が何をしたいのかが分かっているかのように、動いてくれる。


ミュレではないが、本当に気持ちが良かった。

二人で空を飛んでいると、どこまでも行ける気がする。


「ミュレ!行くぞ!」

「はいなのっ!」

何度目かの特攻で、オークナイトを再びバラバラにする。


オークナイトが、再び再生している間に、他のオークを蹴散らし、空間収納にその体の一部を収納していきながら息の根を止めていく。


完全に、俺たちの圧勝となりかけた時。

全身に激しい痛みが走った。

ミュレも、動きを突然止め、同時に、突然、空中で苦しみ始める。


「痛いの。痛いのっ!」

そう言いながら、空中から地面に落ちるように着地するミュレ。

地面に叩きつけられた俺も、全身が痛くて立ち上がれない。

ふと見ると、ミュレが地面で暴れている。

ミュレの羽が、溶けているように見えるのは気のせいだろうか?


ふと、俺が空を見ると、そこには、ゴスロリ服を着た少女が、うっすらと笑いながら浮かんでいた。

片手に、大きな光を持ったまま。

「シュン、さ、ま、体が、痛いです」

リュイが、俺につかまりながら苦しそうに呟く。

『スキル【明星(スターダスト)】です。範囲内の全ての生物を溶かします』

データベースが、また、反則的なスキルの説明をしてくれる。

「4Sかぁ!」

俺は叫びながら、緑色の魔法陣を生み出す。

相手が、継続ダメージなら、こちらは、継続回復で対抗するしかない。

体が痛いと言う事は、この攻撃も俺の絶対結界の防御を無視してくるのだ。

ただれて、落ちかけていた皮膚が継続回復魔法で回復していく。

ミュレも、暴れる事はなくなったが、ピクピクと痙攣し始めていた。

彼女は、レベルが低いから、かなり危ない所だったのかも知れない。


「あら。すごい魔力量ね。可愛い子の割に、頑張るじゃない」

少女は、そう笑いながら、おろしていた片手を上げる。


その手の平に新しく光が生まれ始めるのが見えた。

どう見ても、ダメージ2倍のフラグだ。

俺は、魔力をさらに費やし回復魔法を強化する。

回復魔法に全力を出さないと、ミュレが、リュイが溶けてしまう。

すでに、弱いオーク達は、あっさりと溶け切ってしまい、肉の塊に変化していた。


攻撃する余裕は無い。

そう思っていた時。

「シュン様を守るのは、ミュレだけじゃないのですっ!」

リュイが突然叫び。

防御として役に立たなくなっていた俺の魔力ビットを、打ち飛ばした。


「はぁ!?」

思いもしなかった攻撃に、声を出す【明星の】

俺も声が出なかった。

いや、確かに魔力ビットは動くけど。

動かせるけど。

斧で打つとか。

しかし、その攻撃は、【明星の】気をそらしたのか、飛んで来た弾を避けたためか、新しく生まれ始めていた光が消える。

「やるじゃないの。いい身分ね」

【明星の】が、リュイを睨む。

しかし、リュイは、その視線を受け止めながら、斧を握りなおす。

「シュン様は、()()()が守るのです!」

その声に、ミュレが体を起こし唸り声を上げる。


その中で、リュイは、次の弾を打つ。

その瞬間。

斧が、黒く染まり。

俺の弾が赤く染まる。


そう言えば、リュイの攻撃は、火属性が乗ってたような気がする。

俺がそう思った時。

赤と黒い炎をまとった俺の魔力ビットが、【明星の】に向かってはじけ飛んでいった。

「ちょっ!黒炎とか、どこの漫画よっ!」

慌てて、自分が持っていた光をその魔力ビットに向ける【明星の】


彼女の光の玉に吸い込まれた黒炎の弾は、一瞬きらめき。

光の玉を爆発させたのだった。


【明星の】は今起きた事に、一瞬呆気にとられていたが、肩で激しく息をしているリュイを見て、突然笑いだす。


「ここで、本当の力に目覚めるとか、愛の力って事なのかしら。嫌いじゃないわ」

ひとしきり笑った後、【明星の】はリュイを見つめる。

「愛する人を守る気持ち。凄くわかるわ。そう。全てを犠牲にしてでも」


今まで、まとっていた殺気が綺麗になくなっている【明星の】。


「その子のためにも、お願いされた事を終わらして帰る事にしましょう。また会いましょうね。お嬢さんたち」


そう言って、うっすらと笑うと【明星の】の姿は空高く消えていく。


後に残っていたのは、オーク達の死体のみだった。


「4S」

その場にへたり込みながら、リュイが茫然と呟く。

俺は、そんなリュイの頭を撫でてやり抱きしめる。

リュイは、その瞬間、俺に抱き着きながら泣き始める。

「また、いなくなるかと思って、本当に怖かったです!」

リュイはしばらくの間、俺の腕の中泣いていたのだった。

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