オークの王
「来るです!」
進軍を始めたオーク達の一匹が、俺たちを見つけたのか、雄たけびを上げる。
リュイは、斧をしっかりと握りしめる。
「リュイは、出過ぎるなよ。相手は、オークだ。超回復持ちだから、倒すのは簡単じゃない。ミュレは、常に距離を置く事。いいね」
俺は、ミュレに、そう言い聞かせる。
「らじゃなの」
ミュレは可愛く返事をする。
俺は、自分の武器を構えなおすと、大きく息を一つ吐く。
「行くぞっ!敵は、オークの大群っ!」
俺は、魔力ビットを解放する。
「ほんとに、タフすぎるです」
リュイが、深く斬りつけたオークの傷がみるみるふさがっていくのを見て、呆れたような声を上げる。
2体のオークのナタが、リュイを襲う。
しかし、その片方のオークの目に矢が刺さり、たじろいた所をすり抜け、包囲から逃げるリュイ。
「助かったです!」
「ぐっ!なの!」
二人の連携はなかなかなものだ。
俺は、二人の様子を見ながら、ビットをメインで操りながらオークを倒していく。
七色に輝く板を張るビット達は、オークをあっさりと二つに切り飛ばす。
「この世界の常識だよ。切り飛ばして、回収した部位は生えて来ない。いくら超再生でもね」
手を、足をビットが斬り飛ばし、すぐ空間収納に入れていく。
そのため、手足のなくなったオークは、こちらに突進してくるのだが、俺の槍の一撃であっさり心臓部分に、大穴を開けられ死んでいく。
小さい、子供のオークを斬り飛ばしながら、俺は心の中で「ごめんな」
と謝る。
乱戦になっている今、子供だけ避ける事など出来ない。
特に、魔力ビットは辺りを走り回っているのだ。
「なんか、オークが可哀そうなの」
ミュレにそう言われてしまうほど、あっさりと倒されて、空間収納に収まっていくオーク達。
ざっと、30体くらい倒したか。
リュイも、5体は倒しているように見える。
その時、オーク達が突然後ろに下がり、一体のオークが出て来た。
でかい。2m以上はある。
叫ぶオーク。他のオーク達が、その声に反応する。
『Aランク魔獣 オークナイトです』
データベースが、警告と一緒に報告してくれる。
「このオークは、今までと何か違うです」
リュイも、めずらしく額に汗を浮かべていた。
「リュイ、手を出すな。ミュレも。下手したら死ぬぞ」
俺は、二人に声をかけながら、槍を持ち直す。
オークナイトは、その武器を頭上から一気に振り下ろす。
『【爆散】来ます!』
データベースの報告とともに。
その身長の半分はありそうな鉄の塊が、地面に衝突し周りを爆発させる。
「スキルかよっ!」
俺は叫びながら、爆発を避けるように後ろに飛びのく。
ニヤリと笑ったオークナイトは、その巨大な鉄の塊を一気に振り上げる。
「連続っ!」
俺は、瞬間。目の前に結界を出す。
空中で起きた爆発を結界でうけとめ、爆発の威力は消滅させるも、爆風で飛ばされてしまう。
空中で、姿勢を整えた俺は、足元にビットと結界を作成。
結界を蹴り、そのままさらに空中から空中へと跳ぶ。
俺が着地するはずだった場所まで一気に走り、その武器を振り上げたオークナイトは空振りした自分の武器を見て、驚いた表情をする。
その顔を見ながら、俺は、空中から槍を繰り出し、オークナイトの腕を一撃で切り飛ばした。
俺の槍は、槍というよりは斧槍だ。
斬り飛ばす事が出来るようになっている。
斬り飛ばした手ごたえを感じながら、着地して後ろを見ると、信じられない物を見てしまった。
ニヤリと笑ったまま、オークナイトが、無事な片手で武器を振り下ろして来たのだ。
思わず、槍斧で、受け止める。
一気に地面が爆発する。
二人が俺の名前を呼んだ気がしたが、俺は、それどころではなかった。
斬り飛ばした部分から伸びた白い筋が飛んだ手を引き寄せ、俺が切り飛ばした手が俺の目の前でくっついたのだ。
「なんだよ。それ。俺の回復魔法より、強力じゃないか」
俺は半分呆れてその様子を見てしまう。
再びニヤリと笑うオークナイトは、くっついた腕を振り回す。
俺は、絶対結界を地面固定で設置。
それを真っ向から受け止める。
「チェックメイト!」
魔力ビットで、首を吹き飛ばす。
ゆっくりと倒れるかと思ったオークナイトは、飛んでいく首が再び本体に引き寄せられ一瞬でくっつく。
「魔王かよ。お前」
俺が思わず呟く中、オークナイトは、再び武器を振り下ろす。
俺は、一気に後ろにとびのき爆風を避ける。
爆風が収まった時、目の前でオークナイトがすでに振りかぶっていた。
こいつ、早い!
オーバーステータスの俺の速さといい勝負して来る。
こんなやつ、普通の冒険者なら絶対勝てるはずが無いじゃないか。
俺は、そう思いながら2撃目を絶対結界で受け止める。
再び爆発が起きる。
絶対結界をわざと吹き飛ばしながら、俺は接近し。
オークナイトの体に触れながらビットを展開。
あいつの体をバラバラにする。
「倒しただろ」
俺が呟いた瞬間。
オークナイトは、逆再生でもするかのように再びくっついたのだった。
「無理です!逃げるです!」
私は、シュン様に叫ぶ。
目の前で、バラバラになったオークは、中央に集まり、すぐに復活してしまった。
あれは、魔物とか、竜とか、そんなモノじゃないです。
バラバラになって生きているなんて、この世のモノじゃないです。
私は必死にシュン様に叫ぶ。
手伝いには行けない。
あの爆風の中に入ったら、小さい私は吹き飛ばされるだけだ。
シュン様の足手まといにしかならない。
私は、自分の、シュン様の分身でもある自分の斧をしっかりにぎりしめながら、叫ぶ事しかできなかった。
「ふざ、けるなっ!」
俺は、槍を突き出し、オークナイトに大穴を開ける。
絶対、表記が間違っている。
「オークキング、いや、これは、冥王だろ」
そう呟きながら、一瞬でふさがる大穴を見ていた。
異常すぎる。
回復も。くっつく速さも。
そして、ありえない蘇生も。
『オークナイトのスキル、【集合個体】です』
データベースが報告してくる。
再び襲い掛かってくる爆風を避けながら、説明を聞くと。
自分のダメージを同族へ分散。自身のダメージを無しにし、命すら同族と共有するスキル。
つまり。
「ここにいる100体近いオーク全部倒せってか」
俺は、薄く笑う。
100体近いオークにダメージが分散しているなら、本人は痛くもないのだろう。
オークの異常な生命力と相まって、絶対にスキル保持者が死なないスキルに昇格してしまっている。
バラバラになっても、生きている以上、空間収納に入れる事も出来ない。
そして、死ぬ前に回復し、復活する。
「優しくないとか、そんな次元じゃないんだが」
俺は、舞うように振り払った斧で、オークナイトを真っ二つにしながら、苦笑いしか出ない。
Aランク。
いや、仲間がいる時は、Sランクと言ってもいい魔物だ。
爆風を受けながら、俺は追撃してくるオークナイトを確認する。
その瞬間。
背中に痛みが走った。
周りに下がっていた別のオークに切りつけられたのが分かった。
しまった。下がり過ぎた。
他の下がっていたオークの真っただ中に入ってしまった。
オークナイトは、今度は爆風を使わずに力だけで鉄の塊を振り下ろしてくる。
オークも、俺の周りをとりかこみ、一気に切りつけて来る。
「シュン様っ!」
リュイの叫び声が聞こえる。
「ダメなのっ!」
ミュレの声も聞こえる。
絶対結界のカゴを速攻で作り、カゴの中でオークに叩かれながら反撃の時を待つ。
その時。
目の前のオークナイトが黒い巨大な塊に吹き飛ばされた。
さらに、数匹のオークまで一緒に吹き飛ばされる。
「ご主人様は、ミュレが助けるの」
気が付くと俺は、いつの間にか巨大な空飛ぶ猫の上に乗っていた。
頭の中に、ミュレの言葉が響く。
「獣化」
俺が呟くと。
「違うの。【神獣化】なの」
ミュレが、得意げに伝えて来たのだった。




