絆。仲間。
「シュン様」
ナンと言う、南の町へ行く途中の野営地で私は、シュン様を抱きしめていた。
「大丈夫です。リュイが居るです」
ただ、それだけを言いシュン様をしっかり抱きかかえる。
シュン様の生い立ち。
知りたいとは思っていた。けど、シュン様はその話に触れると少し顔が引きつってしまう。
彼は気が付いていないのだろうけど。
今、ミュレが言った、シュン様を知りたいと言う素直な言葉に、シュン様は自分の昔の事を話してくれた。
思わず泣いていた。
彼を思って。昔の彼を思って。
10億なんて、途方もない数を倒してくれと言われ、生まれて来て親を殺され、育ててくれた人も死に、何度も、なんども絶望を、悲しみを見続けて来ただろう彼を。
ミュレも隣で号泣していた。
私は、彼を抱きしめる。
それしか出来ない。
これが、シュン様なんだ。私の旦那様。
彼は何回、折れても、足を止めない。その事に、喜びすら感じる。
私は出合った時の事を思い出す。
地竜に、笑いながら立ち向かう彼を。
彼が止まらないのなら、後ろを支えよう。
動けなくなったのなら、動けるまで抱いてあげよう。
彼は、弱いけど、決してあきらめる事は無いだろうから。
私は、ずっと、泣いている彼を抱きしめながら、改めて心に誓う。
「私の弱くて、強い、旦那様」
その日は、日が昇るまで、彼を抱きしめていたのだった。
「私たち全員、親無しなの。おそろいなの」
次の日、元気に笑うミュレに、俺と、リュイは思わず顔を合わせて笑っていた。
年甲斐もなく、泣いてしまった。
リュイの胸の中で。
しかし、しっかり泣いたからなのか、今まで一人で朝まで泣いた時よりも、心はすっきりしていた。
全てを打ち明けた。
俺が転生者である事。
10億という、馬鹿みたいな数の魔物の侵略から、守って欲しいと言われた事。
故郷の事。親の事。
今までの戦いの事。
守れなかった人達。
その全てを聞いて、リュイは、ただ一言、俺を抱きしめたままで「私はここにいるです」
と言ってくれた。
リュイも、話をしてくれた。
父親も、母親も知らない事。
自分が、ハーフ同士の子供と言われてもまったく実感はない事。
そして、タチュに本当に大事に育ててもらった事。
ドワーフとして、ドワーフの全てを教えてもらった。
リュイは、笑っていた。
ミュレも、話をする。
転生前は、小学生だった事。
まぁ、どっちかというと薄い本を作ってた耳年増な人間だった事。
しかし、病気で死んでしまった事。
生まれ変わって周りが分かるようになった時、獣人だった事に初めて気が付いた感動。
兄と一緒に何回も、売られそうになり、ギルドマスターに保護してもらった事。
兄も転生者だった事が判明した時の喜び。
母親が死んだと聞かされた時の悲しみ。
ただ、意味不明な情景も入るために、ミュレの話は長く、朝までかかりそうだったが。
野営をしながら、俺は空を見る。
ミュレも、リュイも、親は死んでいるためいない。
ミュレにいたっては、父親が誰なのかすら知らないらしい。
生きているのか、死んでいるのかすら不明だとの事だった。
ただ、アムの方は、シュリフ将軍との子供だと聞いて、俺は頭を抱える。
聞いていた気はしていたが、あまり記憶に残っていなかったのだが。
今考えると、とんでもない奴である。
獣人とはいえ、王女にまで手を出すとは。
しかもまだ子供と言ってもいい年齢の。
あの将軍、どんだけ手が早くて、一体何人子供を作ったんだよ。
と、同時に、あの王都動乱の討伐隊って、いわば、壮大な親子喧嘩かよ。といろいろ心の中で突っ込みを入れながらも。
ふとあの時の地下水脈の中での事を思い出す。
俺がとどめを刺してしまったのは、彼らにとっては、悪い事だったのかもしれないと思ってしまう。
と同時に、「帝国のためだ」と言っていた彼を。
何か考えがあったのかも知れない。
何か理由があったのかも知れない。
彼の最後の言葉を思い出す。
ドンキを知ってしまった以上、国を守るために必死だったシュリフ将軍に対して悪い感情は無くなってしまっていた。
「なんとなく、会いたいな」
俺は、町を守るためなら、全てを投げだすと宣言しているドンキを思い出しながら、ふと笑うのだった。
「ミュレに乗るの?ミュレ早いよ?」
道中、歩いていると、そんな事をたびたび言うミュレ。
その度に、俺たちは、「歩くのも、いいものだ」
と彼女に言い聞かせる。
そんなほのぼのした旅だった。
ビットは相変わらず、周りの魔物を狩り取ってくれている。
EPは充実するばっかりだった。
俺が、リュイになぐさめられて、数日が立ったある夜。
「さて、どうするかな」
夜中に、ぐっすりと寝ている二人を見ながら、焚火の火の前でこの前の戦いを思い出していた。
そう。今の敵は、4Sなのだ。
悪魔たちを相手にしなければならない。
無数の矢を放つ【空間の】強さは分からないが絶対に負けないと言われる【皇の】全てを溶かしながら、空で笑う【明星の】そして。
リュイを殺すことに執着し始めた、【希薄の】
あいつはやばい。
絶対結界を素通りするし、魔法も物理も全ての攻撃が素通りするのだから。
「不意打ちで来られたら、守れない」
寝返りを打つ、小さい彼女達を見ながら、考える。
守り、装備、防具は必須だろう。
そう思うが、そこで、ミュレの事が引っかかる。
奴隷の原則として、奴隷はきちんとした服を着てはいけない。
正確には、水着のような服しか着用してはいけない事になっているのだ。
昔のゲームのような、防御力の高いビキニなんて存在するわけもない。
そんな服なら、喜んで【希薄の】は切り刻むだろう。
身体中を。
さらには、後絶対巻き込まれるであろう、大攻勢、大進攻でも安心できる装備は必要になる。
それは、リュイも同じだ。前線で戦う彼女の方が鎧は必須である。
今まで彼女たちを10億の前に立たすなんて考えもしなかった。
しかし、10億の敵の前ですら、彼女たちは、いや、特に彼女は誰だろうと振り切ってでも来てしまうだろう。
俺の隣に。
「明らかに無理ゲーだよな」
俺は、幸せそうに眠る、リュイとミュレを見ながら、考える。
「ああ。そういえば」
俺は空間収納の中から、とある物を取り出す。
亀のような頭と、岩のようにしか見えない、甲羅のかけら。
「こいつで作ったら、大丈夫かもな」
俺は、一晩中かけて二人の鎧を作り出す。
「ミュレは、前線に出れないよな」
ほぼ裸で魔物の群れに突っ込まれるのは、俺の心情的によろしくない。
なら遠距離武器だよな。
ミュアの時も思った事を、ふたたび考えながら、装備を作る事にする。
「これは、時間かかるかも」
あまりにも加工がしずらい、目の前の素材たちに苦戦しながら、俺は夜な夜な作業を続ける事にする。
純粋なミュレ。俺を支えてくれるリュイ。
二人を殺さないために、無くさないために、自分で出来る事を。
やっておくのだ。




