勝利の報酬
「着きました。こちらにどうぞ」
王都に着いた後から、本当に丁寧に案内をされる。
リュイは、俺の手を握ったまま放さないし、ぴったりくっついている。
「さて、何を言われるのか」
少し、引きつった顔で笑顔を作るバル隊長。
確かに、怖いよな。
そして、俺たちは、城の大広間に通される。
王の間。謁見の間と呼ばれる大広間だ。
王座に座った金髪の青年の両側に大臣や、最有力の貴族が並んでいる。
隣でバル隊長が息をのんだ時。
「控えなくてもいいよ。そのまま近くに来て欲しい」
王座に座っていた青年が笑いかけてくる。
「王!それでは!」
「誰が、発言してよいと言った?この場は、全て私が責任を持つ。貴様のやらかした事も全てな」
大臣が叫ぶが、その大臣をにらむと、大臣は、口ごもってしまった。
「今回の事は、本当にすまなかった。西方城塞都市、サイファを奪い取ろうと軍を起こした事から、シュン君に対しての、軍隊の出動。今回の一連の事態を止められなかったのは、すべて私の力不足が起こした悲劇だ。許して欲しいとは言えない。だが、謝罪は受け取ってくれないかな」
アムと言ったか。金髪の青年は笑いながら、小さく頭を下げる。
大臣が震えているのが見えるが、そんな事は気にしていない様子であった。
「今回の包囲戦、被害額は少なくありません。サイファは立て直せない可能性もあります」
バル隊長、いや、バルクルス領主がアムに問い詰める。
「サイファについては、頑張って立て直して欲しいとしか言えない。なぜなら、君はもう一国の国王だからだ」
呆気にとられるバルクルスに、アムは小さく笑いかえす。
「西方城塞都市サイファは、その周辺の森を含めその領土全てを独立国家として、これを認める。これは、帝国国王として認定するものである」
その言葉に、小さく震えるバルクルス。
「よって、隣国との貿易で得た報酬、利益、物資もそれに準じ、西方王国セイファの物となる。
また、王都としては、セイファとの友好貿易と、友好交流、友好支援を求めるものである。受けてくれるかな?」
何か言い返したい大臣を、さらににらみつける事で黙らせるアム。
「これは、国として、君の都市に対しての最大の謝罪であり、報酬でもある。隣国から手に入れた武器も、作れるのなら今後買い取らせてもらっていいかな?」
その言葉で、王都など気にせず、好きにしていいと言われている事に気が付く。
おそらく、凄まじいお金が動き出す。
今まで王都を気にしてあまり行っていなかったキンカとの交易が自由に出来るのだ。
そこには、無限に育つ豆もある。
今までのように危険な狩りをして食料を確保する必要性がなくなる。
バルクルスは、その事を知っているのか、その場に頭を下げる。
「ありがとうございます。陛下。バルクルス。一国の領主として、その全てをささげます」
バルクルスが震えているのを見るのは初めてだったかもしれない。
「さて、次だけど、シュンリンデンバーグには、王から謝罪として贈り物をしたいと思っている。返品は不可だ。後で送るので、受け取ってくれないかな」
アムは少し意地悪い笑みを浮かべて話しかけてくる。
大臣が、本当にプルプルと震えているのが分かる。
俺は、返品不可と言われてしまった以上、受け取るしかないと思い、了承するのだった。
「さて、私からの謝罪と、贈り物はここまでだ。ここからは、シュンリンデンバーグにお願いがあるんだけど」
アムは、こちらを真剣な顔で見る。
「君が、持ち逃げした宝玉、返してもらえないかな?」
その言葉に、俺は、思考がストップする。
宝玉?なんだっけと一瞬思い出せない事に焦る。
しかし、ふと思い出した。
ああ。そういえば持って帰ったままだった。
俺は空間収納から、エルフの証を取り出す。
「これの事かな?」
「そう。それの事。もう一つ持ってないかい?」
「これだけしか持ってないが」
俺が答えると、大臣が突然わめき出した。
「それだけであるはずがなかろうがっ!空間の宝玉っ!それがなければ、王都に結界が張れないのだっ!持って逃げておるだろうがっ!」
さらに詰め寄ってこようとした、大臣にアムが手を振ると貴族の数名に抑えられ引き留められる大臣。
「本当に持ってないんだね」
アムの質問に、素直に持っていないと返す。
「困ったね。エルフの証ももちろんいるんだけど、結界が無くなって魔物が王都に入りやすくなっているんだよね」
本当に困った顔をするアム。
『結界なら、張りなおせば大丈夫です。防具に広域結界の能力付与は可能です』
そんな事を教えてくれるデータベースさん。
確かに、今EPは余り気味である。
絶対結界ほどの結界は張れないが、普通の魔力結界なら十分張れるし、そのスキルを作る事も出来そうである。
「広域結界なら、作れるかも知れない」
俺の言葉に、目を輝かせるアム。
「本当かい!?だったらお願いするよ!能力生成スキルもあるんだねっ!本当に君はすごいよっ!」
興奮しているアムに少し引く。
ん? 何か、今、普通なら聞きなれない言葉が混じっていたような。
そんな事を考えていると、アムは、周りの貴族の視線に気が付いたのか、一つ咳払いをすると、居住まいを直す。
「で、これが、最後のお願いなんだけど。僕の家族。というか、親戚達を知らないかい?」
その言葉に、俺は固まってしまったのだった。
素直に彼らの事を忘れていた。
しかし。
「知っている。けど、ここでは出せない」
俺は、低い言葉で返事を返す。
「どうしてだい?」
アムの問いに俺は頭を振る。
「吐く準備は出来ているのか?」
俺の言葉に、全員が固まる。
バルクルスすら固まっていた。
「それでも、出して欲しいんだ。弔いたい」
アムの言葉に、その覚悟を決めた顔を見て。
俺は静かに空間収納から、彼らを。
いや、肉団子を取り出す。
何もない床に現れたのは、剣山。
一人一人の顔が、体がありえない数の矢で覆われており、それが積み重なった塊。
それを見た瞬間。
大臣は尻もちをつく。
何人の貴族は、その場で吐き始める。
わなわなと震えていたアムはついに叫び出す。
「4Sを【空間の】を探しだせぇ!」
彼らの体に刺さっていたのは、4Sしか使わない全て鉄で作られた矢。
いや、矢というより、ボルトかもしれない。
中が空洞になっていて、ストローのように血が噴き出す矢だ。
尻もちをついたままの大臣達をよそに、立ち上がったアムの両手はまだ震えている。
「君が、4Sに狙われる理由も分かった気がするよ」
アムは、震えながら、目の前の死体に目を向ける。
ありえない数。ありえない角度で刺さっている矢。
全てが超越者の仕業である事を伝えていた。
「まさか、まさか」
大臣達が、震えている。
「嫌いな人達だったけど、これはひどすぎるよ」
アムは、4Sに対して怒りを抑えきれくなっていた。
しかし、結局いくら探しても4Sは城の中にも、王都の中にもいなかったのだった。
「シュン君が、国に帰ったみたいだね」
「お土産は、きちんと渡せたのかな」
「たぶん渡してくれただろうね。僕の最高傑作のオブジェを、楽しんでもらえれば嬉しいんだけど。」
一人の女性が、両目を閉じたままの青年と横になっていた。
「しかし、毎回思うんだけど、【皇の】にはいいのかい?」
「あれだけ激しくしといて、今聞くのは野暮でしょ?」
女性は、目の見えない青年に笑う。
「女なんか出来そうもない可哀そうな人に対する、サービスだもの。何も言わないわよ【皇の】は。それにあなたの子供なんか産む気もないしね」
「君は、いつもそうなんだね。いや、君・・・」
その口を女性にふさがれる。
「ダメよ」
そう言って笑う女性に、青年は口元だけで苦笑いを返すのだった。




