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王都へ

「久しぶり」

僕が、戦争の後始末として、死んだ兵士の確認や、町の破壊状況など、いろいろな所を調査に走り回っていると、突然、空から一人の女性が落ちて来た。

そう、目の前に、落下してきたのだ。突然に。

城の中の舞踏会で踊るドレスよりもふわふわした服を着たその女性は、僕を見てにっこりと笑う。

美人ではない。しかし、惹きつけられる。

黒い瞳が、こちらの全てを見透かしてくるようにこちらの瞳を覗き込んでくる。

「何の用ですか?【明星の】」

僕は、気持ちを引き締めて、あえて冷たく声をかける。

「ああ。怖いこわい。さすが、英雄さんの一人ね。王都の、色ボケじじいたちとは全然違うわぁ。あいつら、嘗め回すように私を見るのよ?」

妖艶に、誘うように話す【明星の】


「で、用事は?」

僕の声に、諦めたのか彼女は、一つの手紙を出して来る。

「その色ボケたじじいからの手紙よ。中身は、まぁ、分かるでしょうけど、そういう事。私に配達をお願いするなんて、ほんとあのじじい、死にたいのかしらね」

【明星の】は、そういうと再び空中に飛びあがる。

「じゃぁ、またね。英雄さん」

そう言い残すと、【明星の】はどこかへ飛んで行く。


人で空が飛べるのは、自分の知っている限り、ダルワンと、彼女だけである。

「いつも思うけど、少し見ただけで、欲情させられる彼女の魅力はすごい物だよ」

僕は小さく呟く。この僕が少しでもドキドキしてしまったのだから。

自分が人とは少し異常な性癖なのは分かっている。

自分は筋肉フェチなのだ。

だからリンダが大好きなのだが。

ちなみに、男性の筋肉は嫌いだったりする。女性のしなやかさすら感じられる筋肉が好きなのだ。まぁ、この話は、語り出すと、3日は話せるからやめておくが。


その手紙を前に、僕はため息をついていた。

「登城の期限は無し。かなり譲歩してきましたね。しかし、無視は出来ない」

これを無視すれば再び大軍を送り込んでくることだろう。

あいつら、王都にいる中央の人間が欲しがっているのは、この砦その物なのだ。

変な野望というのか、西に国がある事を知っている彼らは、西の国を攻めたいと考えている。

今、数年前の動乱のせいか、帝国の中では鉱石が不足している。

魔物があふれてしまった坑道は、昔ほど気楽に採掘が出来なくなっている。

あふれるほどの大量の魔物はシュン君が倒してくれたが、まだまだ残りがいるのだ。

南では、再びオークが集落を作り始めている。

農耕部であるため、食料の危機に直結する。

東の港町は、遠すぎて頻繁に行き来は出来ない。

「だからと言って、ここが裕福に見えるとは、耄碌(もうろく)もいい所ですよね」

僕は、手紙を握りつぶす。

北も、南も不安だから。西の全てを取りに来た。

どう見ても、王都の動きはそうとしか見えなかった。

この、最前線に。この西の森は、遥か北の魔の森と言われる広大な森につながっていると言われている。

それゆえか、この西の森には、魔物が凄まじく多い上に、強い魔物も大量にいる。

それゆえに王都を守るための砦であり、城塞都市として兵士も強い者が多い。

だからこそ、一時的とはいえ5倍以上の敵軍を食い止めるという、奇跡が起こせたのだが。


「さて、シュン君に伝えないとダメですね」

僕は、深く深くため息を吐く。

人間相手が一番疲れると思いながら。



「シュン。王都へ行く事になった。お前もだ」

「本気か?」

シュンは城塞都市へと帰って来た瞬間に、突然僕に言われた言葉に、あっけにとられて返事をする。

自分でもかなり高圧的は言葉を吐いているのは自覚している。

「本気も本気だ。この手紙は4Sの一人が届けに来た。その意味は分かるかい?」

僕は、鋭どい目で彼に話をする。

「この命令が聞けない場合は、4Sも含めてこちらを攻めるという意味だよ。今回は一ミリも勝ち目が無いね」

僕のその言葉を聞いて、リュイが彼の服をしっかりとつかむ。

「王都に行ったところで、とって食べられはしないだろうが、行くしかない状態だ」

彼は、真剣に話をする僕に圧されるように、大きくため息を一つつく。

その上で、了承してくれたのだった。


「大急ぎです。お願いします」

急ぎの出立となったため、大急ぎで準備を行う。

自分の旅の支度もなのだが、馬車を用意し、護衛の兵士を選ぶ。

その上で、すぐに手紙を書き、足の速いロックバードを選び、王都へ向かわせる。

宛先は、アム国王と、ダルワン、ギルドマスターの3通だ。


結局、一睡も出来ず僕は、自分の町を飛び出す事になった。



「シュン様、大丈夫ですか?」

俺は、リュイを膝に乗せたまま馬車に乗っていた。

軽いリュイは、乗っていても苦にはならないのだが、何故か彼女は俺の上に乗っていれば酔わないらしい。

 馬車に乗って半日で、頭が痛いと言い出したので、俺の膝の上に乗せたのだが、そこからは、ご機嫌で、今に至る状況であった。

そんな状況でも、俺は笑いながらうなずく。

一緒に行くと言い出したバル隊長は、そんな馬車の反対側の椅子の上で寝ている。

と言うか、バル隊長も、やはりと言うか、王都へ呼び出されていたのだが。


彼は、出発ギリギリまで何かをしていたようだったから、結局のところ、朝まで寝ていないのだろう。

俺は、外の景色を見ながらのんびりしている馬車の中でため息をつく。

これから、もしかしたら死んでしまうかも知れないのに、外はのどかな平原であり、膝の上には、ごきげんなリュイの姿。あまりにも平和な光景だった。


リュイは、笑いながら唐揚げを差し出してくる。

俺も笑い返しながら、その唐揚げを受け取る。

まるで、ピクニック気分だった。


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